わからない関係
声が響き、次第にその姿が認識できるほどになった。
「リューゲー!」
嬉しそうに笑い、その長い手を使って大きく手を振るロバール。
それを一瞥し、目を伏せるリューゲ。
彼女はとても小さなため息を吐き、目を薄く開いた。
けれども、その瞳は揺らいでいてどこか不安を感じさせるものだった。
いつだったか、リューゲが話していた。
自分の態度の悪さを自覚しているが、それを直すことができない
悪態をつくことで自分を奮い立たせ、助けの呼べない崖に追いやる事で力を出させるのだと。
ロバールへの悪態もその一種なのだろうか。
そうだとして、この揺らいでいる瞳の意味はなんなのだろうか。
「リューゲの連れて行ってくれたお土産屋さん、良いものがいっぱいあったよ」
そう言いながらロバールは両手いっぱいに小袋を抱えている。
そんな様子を見て
「……これからまだ領主に謁見して、各領地を回ろうかというのに……」
リューゲは頭を抱えて、ため息をこぼした。
「ロバール。私たちは花畑へ今から向かおうと思うのですが……その荷物では不便でしょう。
一旦宿に置いてきますか?」
ボノスがそう問いかけると、ロバールが
「そうなのか……。なら、宿屋に置いてくる」
そう言い残して来た道をいそいそと戻って行った。
「2人とも……先にいきましょう」
リューゲはロバールの帰りを待たずに歩き始めた。
その姿を見てボノスは苦笑、私も立ち止まってしまっていたが
「大丈夫よ。ボノスがちゃんと行き先を言ったのだから来れるわよ」
「そんなに……」
最後の言葉は聞き取れなかった。
私の耳に届かなかったそれはボノスの耳には届いたようで
「そうですねぇ……。彼は頼りになるし、しっかりしてますもんね」
とにこやかに笑みを浮かべていた。
――そんなに頼りなくない――
そう呟いたのだろうか。
顔を確認しようにも、足早に私の前を進んでいたので覗き込むこともできず。
悪態をついて、距離を取ろうとはするけれどて……信頼はしているのだろうか。
そのまま街を出て、花畑へ向かう事になり歩いていたが
「アモル様?どうかしましたか?」
無言のまま道中を進む私にボノスが声をかけて来た。
「……いえ、特に何と言うことは無いのだけれど……。
ボノスには『婚約者』はいるのかしら?」
少し目を開くボノス。
そして和かに
「……私とアモル様では婚約は難しいかと思いますが」
と話し始めた。
「騎士と姫、婚約者になることがないといえば嘘ですが……
そこで自分の発した言葉が反響し、示される意味を理解した。
「あっ……!いや、そう意味じゃなくて……」
「わかっています。すみません揶揄いました」
目を細め、柔和な笑みが広がる。
「どうしてそんなことを聞かれたのでしょうか?」
ボノスが少しだけ歩調を緩めながら腰を落とし視線を合わせるようにして言葉を続けた。
「……リューゲとロバールを見ていると、婚約者っていう立場がよくわからなくて……」
先ほどまでに自分が抱いた疑念を口にする。
「……アモル様……あれを一般的な概念で見るのは難しいですよ」
苦笑いしながらボノスが続ける
「あれは特殊ですからねぇ……。いつか、アモル様に婚約者が出来れば分かるかもしれませんが」
そんな話をしていると花畑の入り口に着いたが、何故かリューゲはそこで槍を構えていて、視線の先に花畑の奥、墓跡のある辺りに人影がある事に気が付いた。




