気になる事
岩塩掛けを食べ、生まれて初めての海を近くで見て、初めての体験を終えた私はボノスとともに、宿に戻っていた。
少し早めに戻ったこともあり、まだ夕食までには時間もあるし、この後の事を考えていた。
するとボノスが声を掛けてきた。
「アモル様。この後の事ですが……」
ボノスも同じように考えていたのだろうか。
「私ね、夕刻になる前にもう一度あの花畑に行ってみようかと思うのだけれど……」
約束と思われる場所はきっとあの花畑で間違いない。
気になっているのはヴァールハイトの事だ。
今日の自由行動を提案したのも彼で、その上で私の護衛を申し出なかった。
今までにない行動がとても心に引っ掛かっている。
ここは彼に関係の深い街で、そこで起こる事象は確実に自分の知らない彼を映し出している。
幼馴染だからと言っても確かに全てを知っている訳ではない。
それでも、やはり自分の知らない一面を垣間見ると心がざわつく。
少しでも知らないことが少なくなるように。
自分の努力で補える範囲の不安は解消したい。
「私も一緒に行きましょうか」
ボノスがそう答えてくれた。
恐らく私の感じている不安を感じ取ったのだろう。
「……お願いしてもいいかしら」
心の機微を感じ取ることが出来る彼に隠し事は無意味だ。
「勿論です。どこまでもお供しますよ」
穏やかな微笑みを浮かべるその顔を一瞥しながら、花畑へと2人で向かう事にした。
街の出入り口に差し掛かったころ
「アモル!……あら、ボノスも一緒なのね」
そう、リューゲが声を掛けてきた。
「リューゲこそロバールはどこへ置いてきたんですか?」
この街で自由行動を始めた時に、彼女はロバールと共に居たはずなのだ。
しかし、彼の姿は無く周囲を見渡してもどこにも居ない。
「毎回連れ歩くのに疲れただけよ。店に入って撒いてきたわ」
皇都にいた頃も彼らはいつも一緒だった。
彼らは幼馴染であり、婚約者同士だと聞いている。
ロバールを見ていると、彼からの好意はあるようにも思うのだが、リューゲはあまり見ていて良い感情は無いのではないかと感じる。
邪険に扱われている様に感じるが、それでもロバールはリューゲに対して寛容だ。
……それが婚約者という間柄なのだろうか。
私にはその様な相手はいないから正直なところわからない。
本で得た知識にはこんな描写はなかった様に思う。
互いに信じ、愛し敬う
それが婚約者、または生涯の伴侶というものだと思っていた。
「リューゲ、あまり邪険にしない事ですよ」
彼女を窘めるようにボノスは続け
「それにほら」
そう言いながら街の中心部へ目をやった。
「……ューゲ!おーい!リューゲ!」
同じ様に来た道を振り返ると声が響き始めた。
それはどんな時も一途に彼女を追いかけ続ける青年の声だった。




