知る
カルゾスが見せてくれた岩塩掛けは岩と岩を擦り合わせて少しずつ岩塩を削る方法だった。
「こうやって食べるのがこの街では主流なんだ」
そう語る彼の顔は誇らしげで、この料理への愛情を感じた。
「こんな方法で食べられていたんですね……。カルゾスさんはこの街で育ったんですか?」
私の問いかけに当の本人は目を丸くし
「嬢ちゃん、本当に刺身を知らないのか?」
とそう呟いた。
「あ……。」
多分、投げかける言葉の選択肢を間違えたのだろう。
私にとっては図鑑でしか得て来れなかった知識だとしても、この街では……いや、インズ・アレティの国家内であれば恐らく殆どの地域で食せるであろう『刺身』について驚いてしまったのだから。
「……長らく、箱入り娘でしたから世間に疎くてすみません」
口から紡げたのはその一言のみだった。
「……そうか」
「……っ。」
明らかに形を落とすカルゾスとボノスの息を飲む音が場を支配した。
はずだったが
「つまりは嬢ちゃんは、これからたくさんの事を吸収して生きていけるというわけだな」
そう大声をあげてカルゾスが笑い始め、後ろから給仕がカルゾスをしばき場は大いに盛り上がった。
――こんな考え方も、あるのよね――
――今まで何も知らなかったのだから、これから知っていく――
――人よりも多く、早く吸収すれば――
――姉様にも、届くかしら――
今まで触れた事のないその発言に、そんな事を考えてしまった。
何もないのだから、これから得ていくしかないのだ。
「カルゾスさん……。そうですよね!ありがとうございます」
自分の口から出た言葉は意外な程に明るかった。
まるで背中を後押しして貰ったかのような感覚もあった。
自分のことを何も知らないはずの人に、肯定してもらえたような
そのままでいても良いのだと認めてもらえたような感覚だった。
「……カルゾスさん。ありがとうございます」
ボノスが粛々と、それでいて少し震えも感じる声で話した。
「えぇ……?俺、なんかしちまったのか?」
少し困惑気味に、それでも白い歯を見せながらカルゾスは微笑んだ。
お勧めされた岩塩掛けは少し塩辛かったが、これも初めての経験だ。
自分で削り、味をつけて食す。
そんな誰でも得ていそうな経験を私は今、初めて教わったのだ。




