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糸の半分  作者: 幻月
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広がる広がる世界

「アモル様、座られますか?」

テラス席に案内されて、海を眺めているとボノスが声をかけてきた。

「まだもう少し時間が掛かるようですので」

 

料理が運ばれてくるまでまだ時間がかかるようだ。

案内されて以降、ずっと欄干に手を掛けて海を眺めていたので少し心配されたようだ。


「あ、いえ。初めて見る海を目に焼き付けたいから」


素直に出た言葉だが、よくよく考えれば自分がいかに世間知らずなのかを自覚してしまうものだと思った。


 この街に生きる人であれば誰でも海など知っている。

生まれて間もない赤児でさえもこの磯の匂いというものを感じ取っているだろう。

 

インズ・アレティは11の国家で形成されている島国だ。

領土によっては確かに海の無い地域も存在はするが、国内にはそれぞれの特産を流通させており

海の物も、山の物も各領土に行き渡るようになっている。


王宮から出た事がないとは言え、海の物を見た事がない訳ではない。

各地で採れたであろう魚を食事の際に見た事がある。

ただ、王宮に届き料理されたそれは『海の物』と言える程香りを放つ物ではなく

料理を行う上で香辛料に匂いを支配されていた。


生で感じる磯の匂いとは比べられない程に。


私にとっては、真白の三角巾に腰エプロンを身につけた給仕も強い香りを放つ海の存在も

図鑑でしか知り得ない物だったのだ。


それは紛れもない真実で


変えようのない事実で


それでも、それが悔しいのではなくて

この上なく嬉しかった。


――これが、世界なんだ――


そう感じる事が出来た。


王宮の中で自分の役目を放棄することも、遂行することも出来ず燻っていた私

新たな物を知ることが出来ず、ただ時間が過ぎる事ばかりを願っていた私


新たな世界を知ることで『生きている事』を実感出来た。


それが物事を知らない無知の、籠の姫であることの恥ずかしさよりも勝っていた。


「アモル様は海がお好きになりましたか?」


ボノスが優しい声色で問いかけて来る。


「この世界が創造された時にはなかったであろうと言われる海は、今では多くの民衆が好んで訪れる場所にもなっています」


遠くで波の音が静かに響く。

近づいては遠ざかるその音はその都度街の喧騒を遠ざけていくようだ。

 

「今まで無かったものに対して人は恐怖し、畏怖の念を抱きます。

 それでも日が経つにつれ、その多様な面を知る事で好まれていく物なのです」


 そう諭すように話すボノスの瞳は慈愛に満ちているようだった。


「私も、海のように好まれるかしら」


 そう呟いた言葉は、潮風に飲まれて消えていった。

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