リューゲの言葉
ヴァールハイトとその金髪の青年は宿屋の前で寸刻言葉を交わした様子で
ヴァールハイトは宿へ、青年は暗闇に消えていった。
「……アモル。聞きに行って見ない?」
窓から離れられない私にリューゲはそう声を掛けてくれた。
実際、ヴァールハイトに聞きたい気持ちは強かった。
けれど、それと同時に『怖さ』も感じていた。
自分が信じていた幼い頃からの数少ない友人、その一人が全く自分の知らない姿を持っていること
それを知る事が怖いと感じてしまっていた。
だからこそ、リューゲの問い掛けに答える事ができなかった。
「……アモル。留まっていても何物にもならない。
何も掴めず、何も得られずに終わるだけじゃないの?」
その正論はいつの瞬間も私を後押しするけれど
その正論がいつも私の心を押し潰そうとする。
――それを、リューゲは知らないのだろう――
「うん。それは分かってる。
……でもね。
今日はもういいの。ゆっくり考えさせて」
リューゲの誘いを断った事は今まで無かった。
彼女はいつだって正しくて、その道は違う事は無くて
信じていれば何も考えなくても正解を教えてくれるのだから。
けれと、このままじゃ意味がない。
彼女の言う通りのままでは、私を『皇に』と支持してくれているのに
そうなれたとしても私は今の自分を誇る事などできない。
だからこそ、今度こそ自分の頭で考えて進む道を決めなくてはいけない。
「……アモル」
それ以上、彼女は追求してこなかった。
信頼故の沈黙か、拒絶されたことへの驚きか
眠りにつくまでの間、リューゲはずっと眉を下げたままだった。
――数刻後――
どのくらい時間が経ったのか、正確ではなかったけれど
瞳を閉じる前は暗闇に包まれていた窓から見える景色に少しだけ朝の日差しがさしていることに気づいた。
ベッドに横になったまま、ぼんやりとその景色を眺めていた。
穏やかな朝の日差し
始まりを告げる小さな鳥の声も響いていることに気づいた。
王宮内では感じることのなかった心休まるひとときだ。
身の危険を感じて眠れない日は、騎士と行動する事で感じることはなかった。
蔑むような視線も、顔色を窺うような様子も
腫れ物に触るような態度もないこの小さな世界が
私にとって安心出来る居場所になっていたのだ。
それだけ彼らは信頼に値する。
私がその期待に応えられているかはわからないけれど
それでも、私とともに歩んでくれる騎士たちだから、信じたい。
そう思った直後、バタンと扉の閉まる音が響いた。
「アモル、おはよう」
そう響いたのは、聞きなれた心強い声。
「リューゲ、おはよう。
……私ね、今日ヴァールハイトに聞こうと思うの」
視線を交わしながらそう告げる。
自分で、自分の意思で選んだ答えだ。
怖さがなくなったわけじゃない。
それでも、目の前にある満面の笑みが震える私の声を受け止めてくれていた。




