隠されたもの
花畑を後にして、街道を歩いて戻る途中は
ここに来るまでとは打って変わってヴァールハイトの表情は明るいものだった。
本来無口で表情の変化が乏しい彼が目に見えて笑顔を浮かべる事など今までに数えるほどしか無い。
まだ全貌が明かされた訳でないのに安堵しているような様子に思えて
それが私の心の中で腑に落ちなかった。
――ヴァールハイトは何かを隠している――
そう直感した。
幼い頃からそばにいた数少ない人物。
私が信頼出来ると、そう信じている人だ。
「……ねぇ、ヴァールハイト」
街の明かりが見える頃、私はヴァールハイトにこっそりと声を掛けた。
他の騎士たちは数歩先を歩いて行く中、彼は私の横を歩いてくれていたから。
「ん?」
風の吹いてくる方向へ視線を向けていたヴァールハイトはゆっくりと振り返る。
そうして小首を傾げながら呟いた。
「どうしてヴァールハイトは語るのをやめたの?」
そう問いかけた途端に、先程まで笑顔は消えて
彼はまた悲しげな表情へと戻っていた。
「……これは、俺から語るべき事じゃ無いんだ。
当事者でない人が語る言葉は真実じゃない」
「……私は、何かを隠している貴方を見たくない」
「……アモルには悪いけれど、これ以上は俺も語りたくないんだ」
眉を下げて少しだけ笑顔を見せる彼のその表情は
私が初めて目にしたものだった。
長い間王位継承者として生きてきたのに、知らないことばかりだ。
ヴァールハイトがブレイクと面識があった事も
ブレイク領でそんな事件が起こっていた事も
籠の姫と称されるだけの事を私はしてきたのだろう。
これは、私の犯してきた罪。
自らの気持ちで行なったものではないとしても
周囲の誰もがそれを許してくれたとしても
決して忘れてはならないものなのだ。
私の問い掛けに何も答えないヴァールハイトは、それ以降
街に戻るまでの道中私の隣を歩く事はなかった。
それでも、視界の隅に私を入れて歩く癖はそのままで
私を守ってくれていることも
気遣ってくれている事も身に染みて感じることが出来た。
――私にとって、ティラノがそうだったように。あなたにとってヴァールハイトがそうかもしれないわね――
昔、姉様がそう私に話してくれた事があった。
姉様の王位継承者としての苦悩を和らげてくれた唯一の存在。
大切な、何物にも代える事の出来ない存在なのだと、そう話していた。
私の思い描いているこの気持ちが
一方通行で無いことだけを願いながら、言葉を交わさずに宿に戻ったのだ。




