アインの遠征
エドナが生まれるまで、ブレイク領の騎士は空白のままだった。
それはここの掟である『2人を競い合わせて』が行えないから故に。
第二王妃との間にエドナが生まれたことでようやく騎士選抜が開催される事が決定したが
それでも未だ幼いエドナがその責を担えるようになるまでは領主ブレイクが騎士を兼任し
騎士見習いとしてアインが他国を見て回っていた。
エドナの齢が10を越えた頃、外遊に行くアインに対し
「お兄様、外でもきちんと笑顔をお見せになって下さい。
私はお兄様が他国の方とも交流が出来るのか心配ですわ」
「結構失礼なことを言っていると思うがな」
そんなやりとりをしていたのだという。
騎士の座を争い合う使命を持つ兄妹。
仲睦まじく冗談を言い合える兄弟仲を見て、周囲からは哀れみの声も出ていたのだとか。
『2人で騎士をになっても良いのではないか』
そんな声もあったが領主は異論を認めなかった。
『どちらかを騎士にする』
それは耳に胼胝が出来るほどに繰り返されてきた言葉で
アイン自身はそれは覆すことの出来ないもので
騎士を継いでこの国を守っていくのはエドナだろうとも思っていたのだという。
本当は外遊に行くのも、自分ではなくエドナの方が適任ではないか
社交性が秀でた彼女の方が、きっとブレイク領にとって有益なものをもたらす事が出来るとそう感じていた。
事件が起きたのは、エドナが16、アインが32の年を迎えた時だった。
ブレイク領から、同じドラゴン族のヴァールハイト領へ騎士団の訓練の為に遠征に行くことになった。
そうして、アインは数十名の騎士団員を引き連れて旅路に出たのだ。
4日かけて歩き通しの旅路を経て全員がヴァールハイト領内へ足を踏み入れ、
互いの騎士団員同士で手合わせをし、お互いの改善点を話し合っていた。
そうして数日が過ぎ、ブレイク領へ戻る日が来た朝
宿屋の一室で目を覚ましたアインは、普段通り水を1杯貰いに部屋を出た。
普段であれば早朝でも厨房に人が入り、少しの雑音は聞こえていたのに
この日は、何の物音もしなかった。
誰の気配もなかったのだ。
不思議に思いながらも、厨房の中を覗いてみるがやはり誰も見当たらない。
「誰もいないのか?」
厨房のみでなく宿屋全体に響くように声を張る
けれども、宿屋の主人どころか騎士団員も姿を現さない。
流石に不信感を募らせたアインはそっと窓から外の景色を伺った。
そして、目の前に広がる景色に驚きを隠せなかった。
青い空の下、山積みになった人々は目を開き虚空を見つめていたのだ。
見知った顔が多数、並んでいた。




