悪役令嬢(笑)は精霊とバトル?するの巻
深い深い森の中。
今日もアベルは元気です。
乗っていた馬車の車輪がはじけ飛び、馬が驚き逃げて走った日でもアベルはとても、元気なはずです
「ぜぇ…はぁ…まさか、こんな深い森で歩くことになるなんて、許せませんわ。」
「馬を追っていった御者も多分これ、迷って戻ってこれないでしょ。とりあえず、開けた場所でも探しましょう。暗くなると獣が出るかもですから。」
普段なかなか歩かないお嬢様は肩で息をしながらえっちらほっちらと深い森をゆっくりと、着実に進んでいきます。
「お嬢様、おんぶしましょうか?その足では歩きにくいでしょ?」
アデルはこんなことを想像していなかったため、余所行きのかわいらしい靴を履いていたが、なにせ歩きにくい。
「そんなの、私のプライドが許しませんわ!!!!」
ベアの背中を蹴るとずんずんと進んでいくアデル
しばらく歩くと、怪しげに光る泉がある広場にたどり着き、岩に腰を下ろすアデル
何時間も歩いたせいでアデルの足は腫れていた
「お嬢様、怪しげに光っていますが、一応大丈夫そうなので足を冷やしてください」
泉の縁にアデルを座らせ足を浸からせる。
不思議な泉はアデルの傷んだ足をみるみると癒し、感じていた疲労が軽減していった。
『人間風情が、神秘なる泉に足を付けるとは何たる不敬。罰を受けるです!!』
不思議な声が聞こえてきたかと思うと当たりは暗くなり
アデルの頭に落雷が落ちる
ベアは咄嗟に避け
「お嬢様!!!!」
アデルの安否を確認しようと近づくと…
「ベア、今のは誰がやったと思う?この声は何処から?私、今非常に不機嫌な気分なの。教えてベア、だれがやったの??」
美しい顔が歪にゆがみ、アデルの赤い瞳が黄金に輝く。
ベアは彼女の顔を見ると徐々に後ろに下がり距離を置く
アデルの家系は帝国の中でも変わった貴族である。
武力のみで上り詰めたと言われるくらい、特殊な貴族で、魔力を使うときに黄金に瞳は輝き見るものを圧倒するのだ
「お嬢様…落ち着いてください、声は多分泉の中から聞こえてきたと思いますけど…」
アデルの瞳は怪しく輝き続け泉の中を鋭く見つめる
怪しく光る泉は水の中でふよふよと光が漂っているが、アデルはその中でも大きな光の球をじっと見据える
「あれ、怪しくないかしら?私、すっごく不快不愉快極まりないですわ。もし、人が触れて不自由があるのならもっとちゃんと主張しないと誰も分かりませんわ。いきなり攻撃してくるなんて、とても無礼ですわ!!!」
泉の中の大きな光こと、精霊は今まで、人に出会ったことが今までなかったが、己の力はほかの種族に引けを取らないと自負していたため、見た目が華奢で細身の人間の女にさえ致命傷を与えることができなかったことに驚きを隠せなかった。
(もう一度、攻撃してみる…?でもあの女の人すっごく怒ってるよな…もしかしたらすっごく強いのかも、しばらく様子見てどっか行くまで待とうかな…あ、あれ、こっちみてる??もしかして、私見えてるの??)
アデルは無造作にその辺に落ちている小石を拾った。
怪しい光に投げつけ…
『ピヤァアア!!痛い!!痛いのです!!!!いきなり石を投げつけてくる不躾な人間!!もう許さないのです!!!』
泉の中から悲鳴とともに出てくるかわいらしい姿をした精霊
「こんなところに精霊??お嬢様、逃げましょう!!!」
ベアは空気の揺らぎを感じ即座に泉から距離を置き逃亡しようとし
アデルの周りには鋭利な氷の刃が展開され、彼女を傷つけようと動き出します。
「あーあー、もうダメだ。俺は知らない、この森が破壊されようと俺はもう知らない。」
ベアは諦めた顔をすると、一人で逃げ出します。
氷の刃はアデルを容易にアデルを貫くはずでした。
そうなるはずの予定でしたが…氷の刃は砕け散りアデルの周りをキラキラと輝かせ散っていきます。
精霊も、もちろんその時点でアデルに違和感を覚え次なる攻撃を与えようと準備しますが
「私、不機嫌なの。とっても。何故かって?だって今日は新しい国に行く予定だったのに、馬車は壊れるし馬はいなくなるし、お気に入りの靴は汚れてボロボロ、挙句の果てには私に向って無礼をする輩がいるの…貴女にこの気持ちがわかるかしら?」
アデルは泉の端に座っているはずでした。
そして精霊は泉の上を浮いてアデルを見据えていたのにも関わらず、アデルは精霊の真横にふよふよと浮いています。
『人間!?!?お前本当に人間なの!?私の攻撃も効かないし、お前一体何者なのです!!』
「あら、貴女も私は人間じゃないとおっしゃるの?私、正真正銘の人間ですわ。ただ少し人より魔力の扱いに長けてるだけですの。」
精霊は驚きながらもアデルに攻撃を続けます。
氷の刃や雷電がアデルに襲い掛かりますが、アデルに到達する前に全て無効化されてしまいます。
「先ほどから言いますけど、私、不機嫌なの。いい加減その蚊のようにうるさい術を展開するのはやめてもらえませんの?」
精霊ももう後には引けないと、攻撃をくりかえしますが一切通らない攻撃に次第に疲れていきます。
『化け物なのです…ふしゅぅ…もう疲れたです…』
精霊は泉の端で眠りこけてしまいます。
アデルはその様子を残念そうな顔で見つめ、精霊の横に座り
「あまりの馬鹿さ加減に、興がそがれましたわ…」
黄金に輝いていた瞳は、通常の赤い瞳に戻りのんびりと足を泉につけていました
泉の底が眩く光ると…
『人間よ、我が子が申し訳ない、迷惑をかけたな。』
泉から美しい姿をした精霊が現れ
「あら、貴女はどちら様かしら?」
『我は精霊、幼き精霊が暴れまわっているのを感じ様子を見ておったが、悪いことをしたな。』
「まあ、初めは不愉快極まりありませんでしたが、もう過ぎたことですわ。」
『そう言ってもらえるとありがたい、人間の簡単に踏み入れない地のためあの子に任せておったのだが、まだ早かったようだ。我らに悪意はない、人と対立する気はないのだ。」
「私、今日はもう疲れましたの。分かったので、もう帰ってくださいまし。」
『あぁ、さらばだ人よ。』
「お嬢様、もう終わりましたか?」
ベアが馬を引きながら、戻ってきた
「こいつ呑気に座ってたから連れてきました。」
馬車を引いていた馬がのんびりとした様子でベアとともに歩いてくる
「ベア、私を置いて逃げましたわね?」
「いや、俺は、逃げたわけじゃないっすよ?馬の気配がしたので見てきただけですよ!!」
アデルは不敵に笑いました
「主人を置いて逃げ出す輩には、教育が必要よねぇ?」
「逃げたわけじゃないっすよ!!!」
「なあにベア、私に意見するということは…そういうことよね?」
深い深い森に情けない男の絶叫が聞こえてきましたが、ここは深い森の中。
だあれにも声は聞こえてません
木の後ろで隠れてガタガタと震えている精霊は人の怖さを思い知り、一つ大人になったようです。
深い深い森の中、そんな中でも今日もお嬢様は元気です。
精霊「あの女の人怖いです…もう人間に攻撃しないのです…ガクブル」