表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/209

第九話「幕間:とあるパーティの崩壊(後編)」

※引き続き三人称視点です。

「ただいま……」

「おう、なんだミノリもスズも。随分(ずいぶん)とボロボロだな」


 たまたま受付に顔を出していた冒険者ギルドのギルドマスター、イーミンは、疲弊(ひへい)した様子(ようす)の第二等冒険者姉妹に向かって心配(しんぱい)そうに声を()けた。


「まあね……、ガイがやらかしてさ、迷宮(めいきゅう)撤退(てったい)する羽目(はめ)になって」

「スズたち、最後まで殿(しんがり)(つと)めた。ガイもショーンもマリエも、スズたちに押しつけて逃げるだけで話にならない」


 溜息(ためいき)()く姉妹。


 だが彼女たちもそうなった理由(りゆう)は分かっている。ガイが魔石(ませき)をリュージに返したからである。


 リュージの作った、体力を増強(ぞうきょう)させる〈昇華(しょうか)の魔石〉と、身体能力を高める〈豪腕(ごうわん)の魔石〉は、どちらも優秀(ゆうしゅう)付与術師(ふよじゅつし)でなければ作り出せないものである。


 いや、普通の付与術師でもなんとか作り出す事自体は出来(でき)る。その力を十全(じゅうぜん)に引き出す事が出来るのは、一握(ひとにぎ)りの高い技術(ぎじゅつ)を持つ者たちだけなのだ。


「そいつは大変だったな……。ということは、依頼(いらい)は失敗か?」

「うん。ガイはなんとか期限(きげん)を引き()ばしてこいって言ってたけど、まあガイがあの調子(ちょうし)じゃ達成(たっせい)出来るか(あや)しいし、無視(むし)していいよ」

賢明(けんめい)だな」


 身も(ふた)も無いミノリに、イーミンは苦笑(くしょう)して見せた。依頼失敗が(かさ)なれば冒険者等級(とうきゅう)降格(こうかく)も有り()るが、元々この姉妹は等級というものにそれほど頓着(とんちゃく)していないのである。


「って、そうだギルマス! 聞きたいことがあったんだけど――」


 ミノリが丁度(ちょうど)良いと何か(たず)ねようとしたところを、イーミンが手で(せい)する。


 そして(あた)りを注意深く確認(かくにん)した。


「聞きたいことは大体(だいたい)分かっている。……ガイたちは()ないな?」

「う、うん。アイツらなら宿(やど)に居るよ」

「分かった。ならこの場で読め」


 ガイに何か秘密(ひみつ)の話があるのか、そう思ったミノリとスズに、イーミンから一通の手紙が差し出された。


 差出人(さしだしにん)はリュージ。宛名(あてな)はミノリとスズになっている。


「これって……!」


 姉妹は(うなず)くと、急いで(ふう)を開けて中身を確認する。



 ミノリとスズへ


 もう聞いているかも知れないが、俺はガイから役立たずの烙印(らくいん)を押され、パーティから()けざるを得ない状況(じょうきょう)になった。


 この街で俺が冒険者として活動することは、もはや(むずか)しい。


 そこで、知り合った錬金術師(れんきんじゅつし)(とも)にバイシュタイン王国の南西にあるザルツシュタットの街で工房(こうぼう)(かま)えることにした。


 俺としては可愛(かわい)い妹たちと今生(こんじょう)の別れをするつもりは無いので、二人が良ければ来て()しい。


 待っている。


 リュージ



「……ザルツシュタット」

「うん、そう書いてある」

「可愛い妹たちを、待っている、だって」

「……うん」


 ミノリは、まるで水を得た魚のように生き生きとした表情を()かべ始めた。リュージは最初から二人の妹たちと別れるつもりなど無かったのである。


「読んだか?」

「うん、読んだ。ありがと、ギルマス」

「ギルマス、ありがと。ガイに行き先を知られないように、こっそり(あず)かってくれてたんでしょ」


 まるで何もかも分かっていたかのようなミノリとスズの様子に、イーミンはニヤリと笑って見せた。


流石(さすが)はアイツの妹だな、(さっ)しが良い」


 イーミンのその言葉に、ミノリはにんまりと元気な、スズは(ひか)えめな笑顔を浮かべた。


「とーぜん、あたしたちはリュージ(にい)の妹だからね!」




 イーミンに手紙の処分(しょぶん)(まか)せ、ミノリとスズはこれからのことを話していた。


 徒歩(とほ)で向かえば移動に半月も()かる場所であり、ベッヘマーからならばバイシュタイン王国の王都ラウディンガーを経由(けいゆ)する乗合(のりあい)馬車を利用するのが得策(とくさく)である。


「え? じゃあスズはすぐ行くつもりは無いの?」

「ん、後から乗合馬車で行くつもり」

「どして?」


 一緒(いっしょ)に行けば色々と楽なのに、と思いながらミノリは首を(ひね)るも、スズはというと手にした魔術書を(かか)げ、淡々(たんたん)とその理由を(かた)ってみせた。


「知り合いから借りた魔術書、読み終わってない」

「ぷっ!」


 如何(いか)にもスズらしい理由に、ミノリは思わず()き出してしまった。この(おさな)い天才魔術師が何よりも真理(しんり)探究(たんきゅう)優先(ゆうせん)するのは、今に(かぎ)ったことではないのである。


「分かったよ、スズ。でも何か(こま)ったことがあったらすぐに出発するんだよ。あのリーダーを名乗(なの)るサルは、何しでかすか分からないからね」

「ん、分かった。ミノリ(ねえ)も気を付けてね」


 姉妹はしっかりと(たが)いの小さな身体をしっかりと()()め、(しば)しの別れを()しんだ。



「……ミノリ姉、またおっきくなった?」

「う、うるさいっ!」


 (あわ)ててスズから身体を(はな)したミノリは、顔を真っ赤にしながら最近の(なや)みの種である自分の(ゆた)かな胸部(きょうぶ)(かく)したのだった。


次回は一〇分後の22:07に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ