第八話「幕間:とあるパーティの崩壊(前編)」
※三人称視点です。
リュージたちのザルツシュタットへの到着よりも少し時間を遡り、ベッヘマー北の地下に広がる〈大迷宮〉でのこと。
斥候を野伏のショーン、前衛を重戦士のガイ、その後ろに神官のマリエ、魔術師のスズ、殿を剣士のミノリという編成で、第二等パーティ〈ベルセルク〉は限られた等級しか進入を許されていない第三層を進んでいた。
「あ~……クソッ、身体がだりぃ……」
「リ、リーダー、大丈夫っすか?」
先頭を進むショーンが、怠そうに悪態を吐いたガイを振り返って媚びへつらう。〈ベルセルク〉にとってはいつも通りの光景ではある。
だが、ガイは何時もにも増して体調が優れない様子で、時々呼吸も荒くなっていた。
「何よあんた、ホントに大丈夫なの?」
「おっ、なんだミノリ~、心配してくれてんのか?」
「いざという時にあんたが盾にならないとパーティが瓦解するからでしょうが気持ち悪い声出すな死ね!」
途端に元気になって猫撫で声を出したガイへ、ミノリは「声だけで人が殺せれば良いのに」と思いながらそう喚いた。自慢の兄と違ってトラブルしか引き起こさないこのリーダーを名乗る男を、彼女は心底嫌っているのである。
「けど、体調が悪いのは本当なんだよな……、〈昇華の魔石〉を手放した所為か? クソッ、リュージの野郎め……」
「……リュージ兄がどうしたの?」
耳聡くガイの呟きを捉えたスズが、ガイを半目で睨んで問うた。
「あ? ああ、何でもねえよ、へへっ」
兄を追放したことを未だに姉妹へ告げていないガイは愛想笑いを返したが、賢しいスズにとっては彼にとってそれが追及されたくないことだと咄嗟に見抜くことは容易であった。
「嘘。〈昇華の魔石〉を手放したって言った。リュージ兄に返したの?」
「……チッ、ああ、返したよ。ご丁寧に最後に返せと念書まで見せてきたからな」
それを聞いたスズとミノリは、固まる。
「……は? 最後って何? それってリュージ兄をパーティから追い出したってこと?」
気色ばんだミノリが、途端にガイへと殺気を見せる。慌ててガイはミノリの方へと振り返り、否定するように手を振って見せた。
「ち、違ぇよ! アイツが自分から出てったんだ!」
「それも嘘。リュージ兄がスズたちを残して自分から出て行く筈が無い。大方、金に五月蠅いこの女が〈ベルセルク〉のメンバー入りする時に、パーティの取り分が減るから追い出せって言って追放したんでしょ」
スズの言い分は的確で、指し示されたマリエが図星を突かれ顔を引き攣らせた。
「そ、そうなんだよ、俺も仕方なくな……」
「何よぉガイ! アタシの所為にする気!?」
ダンジョン内でぎゃあぎゃあと喚くガイとマリエ、それを宥めようとするショーンの様子を、ミノリとスズは白い目で見つめる。
「……ミノリ姉、リュージ兄を追い出したこのパーティに、居る意味なんてあるのかな」
「……あたしが言わなくても分かるでしょ?」
憮然とした表情で姉妹はそう話していたが、後ろを向いているショーンの背後に、騒ぎを聞きつけて来たらしいストーンゴーレムが現れた。
「話は後! ショーン、後ろから来てる!」
「え? うわわわっ!」
ミノリの一喝で、ショーンが慌ててガイを盾にするように中衛へと下がる。逃げ足だけは速いと、周りからの評判が高いショーンである。
ストーンゴーレムは重厚な足音を響かせながら、その巨体に似合わぬスピードで彼らへと近づいてくる。が、〈ベルセルク〉にとっては質の良い魔石の欠片を得られる格好の獲物である。
「いつも通り、俺が防御してる間にお前等が働け! 以上!」
「リーダーならちゃんと指示を出せ! ……スズは後ろに気を付けながら、物理衝撃系の魔術を使って! バックアタックが来たらすぐにあたしを呼んでね!」
「ん」
ガイが長剣と盾を手にどっしりと構えたがそれ以上何をする訳でも無く、指示を出すのはミノリの役目。これが〈ベルセルク〉の日常である。
「アタシはどうすればいいのぉ?」
「魔力は温存してて! 万が一あのサルがやられたら回復してやって! しなくてもいいけど!」
「おい誰がサルだミノリィ!」
憤慨するガイを無視しながら所在なさげなマリエに指示を出しつつ、ミノリは迫り来るストーンゴーレムの急所を狙うべくガイの後方で待機する。ガイが集中して狙われている間にミノリとスズがゴーレムの核を狙う。これが彼らのスタイルであった。
だが、それは先日までの話であった。
「うおっと!?」
ストーンゴーレムの一撃を盾に受けたガイは、重戦士にあろうことかよろめいてしまう。慌てて彼は盾を翳し、頭を狙う一撃を防いだ。兜があるとは言え、今の一撃を食らっていれば首をやられていただろう。
「ちょっと! 何やってんの! ちゃんと耐えなさいよ!」
「う、うるっせぇな! 〈豪腕の魔石〉が無くていつもより力が出ないだけだ! 指図するんじゃ――」
ミノリの文句へご丁寧に振り返るガイ。
だが、それが致命的だった。
「あがっ――」
その身体ごと、横からストーンゴーレムの一撃を貰ったガイが軽々と吹っ飛び、床にスライディングする。
そして、ピクリとも動かなくなった。
「……このバカ! マリエ! 回復させてからビンタしてもいいから起こしてやって! あたしとスズが時間を稼いでる間に撤退するよ!」
「わ、わかったわ!」
第二等パーティ〈ベルセルク〉。
その崩壊は、呆気なく訪れたのだった。
次回は一〇分後の21:57に投稿いたします!