表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/209

第五一話「悲しみの魔弾、そしてすべてを終わらせるために」

「スズ、待たせてすまん! マリエの足を(ねら)ってくれ!」

「ん」


 俺たちが戦線(せんせん)(はな)れていた間に遠慮(えんりょ)無くスズが魔術を(たた)()んでいたが、マリエには大したダメージが無かったようで、元気に立ち上がっている。やはり、〈グングニール〉などの高等魔術でなければダメージは(あた)えられないか。


「……おっと!」


 俺に()ばされたマリエの右(うで)(つか)み、逆にそれを支点(してん)にくるりと一回転し、(はな)(つら)(かかと)を叩き込む。


 鋼鉄(こうてつ)すらも曲げる俺の一撃(いちげき)を受けた異形(いぎょう)にも流石(さすが)にダメージがあったらしく、よろめき、(ひざ)()いた。


 俺はその場で一旦(いったん)離れる。スズの魔術が発動(はつどう)されるからだ。


偉大(いだい)なる魔術の神よ、その力の片鱗(へんりん)()が手に、あの(あっわ)れな異形を(とど)める宿(やど)()をください、〈ミスティルティン〉」


 スズの詠唱(えいしょう)が完成し、空から無数の黒い(やり)()ってきた。槍はマリエの(つめ)(はじ)かれもしているが、一部がそれをすり()けて足に突き()さってゆき、異形は再びバランスを(くず)す。


 俺はその(すき)にレーネの元へ()ける。魔人(まじん)には再生もあるし、時間は有限だ。


「リュージさん、準備(じゅんび)出来(でき)ています」

「よし、分かった」


 マリエに向かって(かま)えたレーネの錬金銃(れんきんじゅう)に、彼女の後ろからそっと手を合わせる。そして、魔力を込めた。


「リュージの名において、何をも(つらぬ)(やいば)()せ、〈鋭利(えいり)〉」


 一時(いちじ)付与術(ふよじゅつ)の〈鋭利〉を(ほどこ)す。対象(たいしょう)は残る一発の銃弾(じゅうだん)だ。


「……私、最後にはマリエに(ひど)いことされちゃいましたけど、でも、最初からあんな子では無かったんです」


 狙いを(さだ)めながら、レーネはそんなことをポツリと話しだした。


「最初二人で組んでいた時は、本当にお金が無くて。宿にも()まれない時がありました。等級(とうきゅう)が上がってからはそんなことも無くなりましたけど」

「……ああ」


 レーネは普通に盗賊(とうぞく)などとも戦えるが、やはりずっとパーティとしてやってきたマリエに引導(いんどう)(わた)すというのは、色々(いろいろ)と考えてしまうのだろう。


「その所為(せい)か、いつしかマリエはお金に執着(しゅうちゃく)するようになりました。でも、だからといって、こんな化け物にされてしまうなんてあんまりじゃないですか!」

「……そうだな。だから――」


 動いていた銃口(じゅうこう)は、ピタリとマリエの(むね)の中心を向く。


「はい、楽にしてあげないと」

「ああ」


 俺の手が()えられたまま、レーネは引鉄(ひきがね)を引く。どういった原理(げんり)かは分からないが、破裂音(はれつおん)(とも)に銃弾は強い推進力(すいしんりょく)(ともな)って錬金銃から(はな)たれた。


 魔力を伴った銃弾は軌道(きどう)を修正しながら進み、マリエの胸に()い込まれる。そして、彼女の胸の(おく)にある魔核(まかく)穿(うが)つ。ビシィ、という音が(ひび)いた。


「アア、アアアアアアアアアアアア!」


 魔核にダメージが行った所為か、マリエは己の爪で強く胸を()(むし)り、(もだ)える。(たお)すには(いた)らなかったものの、確実にダメージは与えられたようだ。


「スズ! 後ろの燃えてる家へ放り込め!」

「ん、わかってる」


 言わずとも次の手は理解(りかい)していたらしい優秀な末妹(まつまい)は、(すで)に詠唱までの準備を(ととの)えていたようだった。流石に何年も一緒(いっしょ)に危ない橋を渡ってきただけはあるな。


「偉大なる魔術の神よ、その力の片鱗を我が手に、あの哀れな異形を撃ち抜く鉄槌(てっつい)をください、〈ミョルニール〉」


 スズの魔術が展開(てんかい)された瞬間(しゅんかん)不可視(ふかし)のハンマーが叩き込まれたかのようにしてマリエが(いきお)いよく後方(こうほう)へと吹き飛んだ。そして燃え(さか)っている廃屋(はいおく)(かべ)(やぶ)り中へと突っ込む。このまま燃え()きてくれれば良いのだが、放っておけば出てくるだろう。


「……さて、マリエが出てこられないように(ねん)には念を押すとするか」

「……リュージさん、死ぬ気ですか?」


 中から(いく)つか魔石(ませき)を取り出したマジックバッグと外套(がいとう)をその場に()き、落ちていた〈ペイル(貫け)〉を拾って廃屋へ乗り込もうとした俺に、レーネはそんな言葉を投げかけた。


「いやいや、俺は妹たちが(よめ)に行くまでは死ぬ気は無いぞ」

「……せめてもうちょっと長生きして?」

「努力する」


 (めずら)しく眉尻(まゆじり)を下げて抗議(こうぎ)したスズに、俺は(かた)(すく)めてそう返した。


 まあ、こんなことやってりゃ寿命(じゅみょう)(ちぢ)まるだろうし、身体にもガタは来る。三〇歳ちょいまで生きられりゃ上々(じょうじょう)だと思っているが、妹がそう言うなら頑張(がんば)ってみるか。


「レーネ、ミノリの介抱(かいほう)(たの)む。マリエのことは(まか)せろ」


 そう言い残し、俺は背後(はいご)へひらひらと手を()ってから、火災現場へと()み込む。


 長生きするためにも、()ずは目の前のことを片付(かたづ)けなきゃな。


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ