表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/209

第四〇話「万事解決……とはいかない訳か」

※リュージの一人称視点に戻ります。

此度(こたび)は本当にありがとうございました。皆様方(みなさまがた)には父上だけでなくわたくしの命までも助けて(いただ)けたこと、王女としてではなく一人の人間として心の底からお礼(もう)し上げますわ」


 激動(げきどう)の夜から明けた翌朝(よくあさ)、俺たちは応接間(おうせつま)にてツェツィ様からそんな()言葉を(たまわ)っていた。今日は王女殿下(でんか)(となり)には侍女(じじょ)だけでなくディートリヒさんも一緒(いっしょ)(はべ)っている。(ねん)(ため)警備(けいび)を強化しているらしい。


「いえ、勿体(もったい)なき御言葉です。計画が上手(うま)く行って良かったですよ。なあみんな」

「はい、まさか幻覚剤(げんかくざい)があのように役立(やくだ)つとは思っていませんでしたけれど」


 思わぬ薬の使い(みち)を見つけて、複雑(ふくざつ)な表情を()かべているレーネである。元々自白(じはく)に使う為に幻覚剤を持ち歩いている(わけ)ではなかったのだ。


「ミノリさんも、スズさんもありがとうございました。お二人に(まも)られていたので、わたくし暗殺者が来ても安心しきって眠ったままでしたわ、()ずかしい」

「いえ……御言葉ですがツェツィ様。流石(さすが)にあれだけあたしが(あば)れたのに起きられないのは少し……」


 恥ずかしそうに(ちぢ)こまるツェツィ様へ、若干(じゃっかん)ぬるーい視線(しせん)を向けているミノリが居た。


 昨晩、暗殺者に対抗(たいこう)するため俺が国王陛下(へいか)、ミノリとスズが王女殿下の寝室にそれぞれ(ひそ)んでいたのである。


 そして陛下と殿下のお二人にはあらかじめ〈金剛(こんごう)魔石(ませき)〉を(かく)し持って頂いた。そのお(かげ)で暗殺者の(やいば)容易(たやす)(ふせ)ぐことが出来(でき)た、という訳だ。


「でも、(よろ)しかったのでしょうか? リュージさんのご厚意(こうい)とは言え〈金剛の魔石〉をお(ゆず)り頂いても」

「また作ればいいだけですからね。まあ少々触媒(しょくばい)は手に入りにくいですが、この城下町で買えるでしょうし問題はありません」


 〈金剛の魔石〉作成に必要な薬草類は大陸の北方(ほっぽう)でしか手に入らない貴重(きちょう)なものだ。だがメジャーなものではあるし、王都だったら売っていてもおかしくはない。


「エルマーはこの後、どうなるのでしょう?」


「……尋問(じんもん)の後、反逆(はんぎゃく)、王族暗殺幇助(ほうじょ)などの(つみ)絞首刑(こうしゅけい)となるでしょう。大公(たいこう)と言えど、今回のことは重罪(じゅうざい)ですので(のが)()ることは出来(でき)ません。シュテルン家も取り(くず)されてしまうでしょうね」


 ミノリが今回の黒幕(くろまく)処遇(しょぐう)について(たず)ねると、ツェツィ様は顔を(くも)らせてしまった。(やさ)しい姫君であらせられるが(ゆえ)に心を痛められているのだろうな。


「暗殺で(とく)をするとなると、国外の勢力でしょうか。やはりグアン王国とか……」


 山岳(さんがく)国家のグアン王国は海に(めん)した土地を(もと)め、歴史的にも度々(たびたび)バイシュタイン王国に攻め込んできている国だ。ミノリの言う通り、最も(あや)しいのはグアン王国と言っていいかも知れないが――


「いえ、それについて答えを出すのは(いささ)早計(そうけい)でしょう。考えたくはありませんが、東のデーア王国や北のゴルトモント王国も、裏で何か策略(さくりゃく)(めぐ)らせていることだって十分考えられるのです。まずはエルマーから事情を確認せねば、何とも言えませんね」


 バイシュタイン王国は、俺たちの居たベッヘマーが(ぞく)しているデーアと北方のゴルトモントとは友好関係にある。俺とレーネが初めてツェツィ様をお助けした時も、お(しの)びでデーアと友誼(ゆうぎ)(むす)びに行った帰りだったらしい。


 (いず)れにせよ、エルマーの背後(はいご)関係が分かれば(おの)ずと(あき)らかになるだろう。平民である俺たちが気にする所でも無いんだろうな。


「……さて、わたくしはそろそろ失礼させて頂きますわ。宰相(さいしょう)不在で父上の政務(せいむ)(とどこお)可能性(かのうせい)御座(ござ)いますし、わたくしもお手伝(てつだ)いしなければ――」


 ツェツィ様がそこまで言ったところで、椅子(いす)()ね飛ばすような(いきお)いで、いきなりレーネが立ち上がった。室内の注目を()びているが、彼女は(まった)く気にすることなく耳の裏に手を当てている。


「……何かあったか?」

「城内が(さわ)がしいです。何か起きています。何かを破壊(はかい)するような音まで聞こえます」


 俺の問いに、中空(ちゅうくう)を見つめたままレーネが答える。エルフの耳が何か騒ぎを聞きつけたのか。


「ディート、確認に行ってくれる?」

「いえ、ツェツィ様。御身(おんみ)(ねら)った手の者が騒ぎを起こしているかも知れません。今私がお(そば)(はな)れるのは得策(とくさく)では無いかと。――衛兵(えいへい)! 入れ!」

「はっ!」


 ディートリヒさんの判断(はんだん)で、(とびら)の向こうに()たらしい衛兵の一人が入ってきて、お二人に敬礼(けいれい)する。


「城内で起きている騒ぎを把握(はあく)したのち、ここへ(もど)報告(ほうこく)せよ」

「ディートリヒさん! あたしも行きます!」


 ミノリが二()りの剣を背負(せお)い、立ち上がった。只事(ただごと)で無いと妹は(にら)んでいるのだろう。


 でも、妹一人に行かせる訳にはいかない。


「俺たちも向かおう、(いや)な予感がする。ツェツィ様は衛兵を集めて守りを(かた)めてください。レーネもスズも良いか?」

「はい、私なら正確な位置(いち)をお(つた)え出来ると思いますし」

「スズも問題無い。行こう、リュージ(にい)


 俺たちはツェツィ様とディートリヒさんを残し、レーネの案内で衛兵の一人と共に騒ぎの中心地へと向かったのだった。


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ