表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/209

第三七話「俺たちは嵌められたのか」

 拝謁(はいえつ)が終わった後、俺たちは(あらた)めて国王陛下(へいか)にお声()(いただ)き、他愛(たあい)も無い話に花を()かせた。


 特にミノリは陛下やホフマン騎士(きし)団長と気が合ったらしく、(まね)かれた夕食の場でも剣の話で()り上がっていた。スズはスズで宮廷(きゅうてい)魔術師の人と懇意(こんい)にさせて(もら)ったらしいし、俺たちはこのラウディンガーで貴重(きちょう)な体験をさせて貰うことになったのだった。


 そしてその晩、国王陛下のご厚意(こうい)客間(きゃくま)(あた)えられ宿泊(しゅくはく)までさせて貰えることになり、上質な布団(ふとん)で眠りについていたのだが、廊下(ろうか)から聞こえる(はげ)しい金属(きんぞく)音で(いや)(おう)でも目が()めた(わけ)である。


「……只事(ただごと)じゃないな」


 俺はベッドから()け出すと、寝間着(ねまき)の上から外套(がいとう)を身に着け、(つえ)を取り、(いく)つか魔石(ませき)見繕(みつくろ)ってから廊下へ出ようとした。


「……ん? 開かない……?」


 客間のドアは開かなかった。普通、(かぎ)は内側から()けるものだ。(かんぬき)でも掛けられているのだろうか?


 でも、その状況(じょうきょう)異常(いじょう)だ。客人(きゃくじん)である俺たちを閉じ()めるなど、あってはならないことだ。


「……よし、今、ドアの向こうには誰も()ない」


 それだけ確認すると、俺は〈フューレルの魔石(ませき)〉の恩恵(おんけい)を受けるべく(つえ)(かべ)(あず)けてから、ドアに向かって思いっきり体当たりした。


 ドアは容易(たやす)く外へ開く。そして予想通り、閂のようなものを(くぎ)で打ち付けてあったようだ。これでは開かないよな。


 さて、廊下の様子(ようす)はというと――


「これは……」


 黒装束(くろしょうぞく)の何者か数人と、近衛(このえ)騎士(きし)たちが戦っている。曲者(くせもの)が入り込んだという訳か。曲者たちはそれなりに手練(てだ)れらしく、騎士たちは苦戦(くせん)しているようだ。


「ふっ――」


 俺は一瞬(いっしゅん)で近くの黒装束一人に肉薄(にくはく)し、背後(はいご)からその頭に綺麗(きれい)な右回し()りを(たた)き込んだ。


 魔石の効果(こうか)でとんでもない威力(いりょく)になった蹴りのお(かげ)で、曲者は壁に叩きつけられて動かなくなった。目の前の女性騎士が唖然(あぜん)としている。……あ、この人、以前ツェツィ様を護衛(ごえい)していた騎士の一人だな。


加勢(かせい)します!」

「ありがとうございます!」


 そのやり取りだけをして、俺たち二人は他の曲者どもに仕掛(しか)ける。


 しかし何故(なぜ)だか攻撃を()めた黒装束どもは、(たお)れている一人を(のぞ)いてテラスの方へと逃げてゆく。


「ま、待て!」


 近衛騎士たちが追い()けたため俺もそれに続こうとした。


 が、途中(とちゅう)で倒れている騎士の一人を見かけ、俺は女性騎士と共に足を止めた。


「……ディートリヒさん!」


 倒れ()したディートリヒさんは俺の呼びかけにも応えず、(あら)い息を()いている。(うで)に傷があり、その(まわ)りが(むらさき)色に変色している。これは、毒だ。


「今レーネを()れて来ます! それまで頑張(がんば)ってください!」


 俺はディートリヒさんを女性騎士に(まか)せ、レーネの部屋へ急ぎ向かい、俺の部屋と同様(どうよう)に釘が打ち付けられたドアを無理矢理開けて彼女を起こしたのだった。




「これで、もう大丈夫(だいじょうぶ)だと思います。後は一晩ゆっくり休んで(いただ)ければ」

「ありがとうございます!」


 ディートリヒさんを一緒(いっしょ)介抱(かいほう)していた先程の女性騎士が、感激(かんげき)(あま)りレーネの手を取って涙ぐんでいる。レーネは「大袈裟(おおげさ)ですよ」と苦笑していた。


 寝起きの悪いレーネを叩き起こした後、ネグリジェ姿(すがた)の彼女に事情を話し薬を持たせて連れてきたお陰で、ディートリヒさんは一命(いちめい)を取り()めた。この毒は死に(いた)るものだったらしく、女性騎士の反応は決して大袈裟などではなかったのだ。


「それにしても……さっきの曲者は何だったんでしょうか?」

「分かりません。ですが(おそ)らく、陛下、(ある)いは殿下のお命を(ねら)ってやって来たのではないかと」

「……そうでしょうね」


 俺の質問にも答えようが無い女性騎士は、推測(すいそく)を口にするしか無かった。


 ちなみに先程気絶(きぜつ)させた曲者については、(すで)にしょっぴいて尋問(じんもん)中らしい。そいつの口から事情が分かれば良いのだが。


「それに、俺だけでなくレーネの部屋のドアにも釘が打ち付けられて出られなくなっていたことも」

「そうですね……。ミノリとスズちゃんの部屋もそうなんでしょうか?」


 レーネもそう思うよな。俺たちは四人でセットなのだから、全員が同じ目に()っていると考えて良いだろう。


「分からん、見てみないと。今(ごろ)外に出られなくて難儀(なんぎ)しているかも知れないし、様子を見に行ってみるか」


 そう言って俺たちが二人の部屋へ向かおうとした時、何かに気付(きづ)いた女性騎士が俺の背後(はいご)へ向かって敬礼(けいれい)する。


 見れば、あのエルマーという宰相(さいしょう)閣下(かっか)がやって来て、俺たちを睥睨(へいげい)していた。今は背後にあの男を連れていないようだった。


状況(じょうきょう)は?」

「はっ! 曲者については一名を捕縛(ほばく)しましたが、残りは逃走(とうそう)しました! 近衛騎士は一名負傷(ふしょう)し毒により一時(いちじ)危険な状態(じょうたい)となっておりましたが、現在は持ち直しております!」

「そうか、逃がしたか。それは良いだろう。しかしな――」


 宰相閣下は報告(ほうこく)を受けた後、俺とレーネの方へと向き直った。不安そうなレーネが俺の後ろに(かく)れる。


貴様(きさま)()、やってくれたな」

「……は?」


 全く意味の分からない宰相閣下の一言に、俺とレーネだけではなく、女性騎士までもが目を丸くしている。


()言葉ですが……宰相閣下。やってくれたな、とはどういった意味でしょうか」


 そう(たず)ねる俺に対し、宰相閣下は侮蔑(ぶべつ)の視線を投げかけてきた。(はな)()まんでいるのは、平民(ごと)きが貴族に(くさ)い息を()きかけるな、とでも言っているつもりだろうか。


「先程()らえた曲者を尋問したが、貴様等の手引(てび)きで城内に侵入(しんにゅう)したと自白(じはく)した。王女殿下(でんか)のご依頼(いらい)逆手(さかて)に取り陛下のお命を狙うとは、(ゆる)せん行為(こうい)だ」

「なっ――」


 (あま)りのことに、声にならない声を上げる俺たち。


「第一、魔石など無くとも教会へ要請(ようせい)すれば陛下の(のろ)いは()けたのだろう? ならば、貴様等がわざわざ王女殿下の依頼を受けたのは、城へ接触(せっしょく)する(ため)と考えれば辻褄(つじつま)が合う」


 ……何が、辻褄が合う、だ。


 この男に()められたのか、俺たちは。


「近衛騎士、此奴(こやつ)等を捕らえろ! 地下(ろう)(つな)いでおけ!」


 俺たちは困惑(こんわく)する女性騎士たちに捕らえられ、寝間着のまま城の地下牢へと連行(れんこう)されたのだった。


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
部屋から出入りできないように閉じ込められていたのに、どの様にしたら、曲者を城に侵入させられるのですか。色々、その場で言えたでしょう。少し、お粗末な展開のように思えます。
[一言] この宰相、きっと国家反逆罪で処罰されるね。 だって、王女や国王を助けた者を、地下牢にいれたんだよ? きっと国王の病もこいつの仕業なんじゃないかな? 証拠を見つけられたりしたら、一気に覆…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ