第二二話「冒険者だからこそ分かることもある」
「では、お話しいたしますわ。……実は先日、わたくしの父上が、暗殺者に狙われました」
「……ツェツィ様のお父君と言うと……国王陛下、ですか……?」
「はい、そうです」
レーネが驚愕に声を震わせ尋ねると、ツェツィ様は沈んだ声と共に頷く。
確かバイシュタイン王国のゲオルク国王陛下は、〈英雄王〉と呼ばれていることでも有名だったな。小国の国王と侮られながらも、度々攻め込んでくる北東の山岳国家グアン王国に対し先頭に立って戦い、退けている豪傑だ。
「幸いにも傷は大したことが無かったのですが……毒が塗られていたようで。父上は床に伏せっているのです」
豪傑も毒には勝てなかったということか。それでも死に至っていないということは、陛下の体力が並々ならぬものだからに違いない。
「……そうなのですね。では、依頼というのは、薬ですか?」
「その通りです。ラウディンガーの医者には診せたのですが、毒の種類が分からず困り果てていた所に優秀な錬金術師の貴女を思い出し、政を宰相に任せ、こうして自らお願いに参った次第です」
なるほど、俺では無くレーネをご所望らしい。しかし、王都ラウディンガーの医者に診せても駄目だったとは、果たしてどんな毒だと言うのか?
「も、勿体なき御言葉ですが……症状が分からねば私もお受け出来ません。陛下にどのような症状が現れているか、詳しくお教え願えますか?」
「はい、症状ですが……」
ツェツィ様から陛下の詳しい症状を伺っているうちに、レーネの表情は険しいものとなってゆく。
俺とミノリもその症状に心当たりがあり、顔を見合わせて頷く。
これは――毒ではない。
「ツェツィ様、分かりました。それは毒ではありません」
「えっ!? どういう事でしょうか!?」
全く想定外のレーネの言葉に、ツェツィ様もディートリヒさんも目を丸くして驚いている。
医者に診せた、と言っていたか。確かにこれでは医者の領分ではないだろう。何しろ――
「毒ではなく、呪いによる症状です。司祭様か冒険者に診せれば分かったかも知れませんが、お医者様ですと難しいかと……」
「の、呪い……」
ツェツィ様は呆然としている。自分が全く見当違いの行動をしていたことにショックを受けているのかも知れない。医者と教会は仲が悪いからなぁ、医者も意地になって勧められなかったのだろう。
でも、呪いだと分かれば打つ手はある。
「呪いということは、教会の範疇になるのでしょうか?」
「そうですね、解呪となれば――」
「いえ、解呪なら付与術で可能です」
それまで話に加わっていなかった俺が自信満々にそう言ってみせると、全員が一斉にこちらを向いた。注目されてしまった。
「付与術で、ですか……?」
「はい。その程度の呪いであれば〈解呪の魔石〉を用いれば難なく解呪が可能です。手持ちが無いので作る必要がありますが」
「是非、お願いします!」
藁にも縋る想いなのか、ツェツィ様が胸の前で両手を組み、拝むようにして俺に懇願した。まあ、教会に頼んでも儀式などで時間が掛かるからな、解呪には。
ただ、今すぐに作れる訳ではない。
「……但し、魔石の作成には材料が必要になります。新居に引っ越したばかりで、材料も手持ちが無いのです。明日集めて参りますので、お待ち頂けますでしょうか?」
「魔石の作成にも、〈無の魔石〉以外に材料が必要なのですか?」
不思議そうに尋ねるツェツィ様に、俺は深々と頷く。
度々勘違いされがちだが、魔石への付与は〈無の魔石〉以外にも材料が必要になる。熱を加える工程もあるので燃料や、そして付与の触媒となる植物たち。錬金術並にとは言わないが、材料はそれなりに必要だ。
「はい、そうです。裏手に広がる森で採れると思いますので、ご安心ください。……レーネはレーネで、失われた陛下の体力を回復させる薬を作らないとな」
「そうですね、それは必要だと思います」
レーネもそこには思い至っていたのか、当然のように頷いた。
さて、工房への初の依頼だ。陛下をお助けする為に尽力するとしますか。
次回は明日の21:37に投稿いたします!




