表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

206/209

第二〇六話「真の姿は」

 光が(おさ)まった後、そこに(たたず)んでいたのは――青みがかった長い金髪(きんぱつ)、四本の(うで)を持つ青年だった。まるで〈魔晶(ましょう)〉によって変えられた魔人(まじん)姿(すがた)だと思ったが、この姿が魔人のモデルなのか。


『……これは、()仮初(かりそ)めの姿……?』


 アブネラは呆然(ぼうぜん)と自分の肉体を(なが)めている。()(ぱだか)(ため)かアイが両手で顔を押さえている。ちなみに俺の妹たちは平気である。人並みに()じらいを持って(もら)いたいとも思うが。


 それにしても、仮初めの姿と言ったか。と言う事は、(しん)の姿が有るってことか?


「気分はどうだ、神様」


 呼び()けた俺に、アブネラが視線(しせん)を向ける。


『……まさか、其方(そなた)(のろ)いを()いたと言うのか、人の子よ』

「ああ、シグムントの力を使って解いた」


 (しば)無言(むごん)のアブネラだったが、その右(てのひら)を俺たちの方へと向ける。


 やはり引く気は、無いと言うのか。


退()け。貴様(きさま)には呪いを解いて貰ったとて、神々への(うら)みは変わらん』

「やっぱり、そうか」


 まあ、そんなに甘くは無い(わけ)だな。だったらだったで、予定通り〈神殺(かみごろ)し〉を(ふう)じられたアブネラを(たお)すまでだ。


 俺は(つえ)背後(はいご)に投げ捨てる。〈神殺し〉が無い以上、〈フューレルの魔石(ませき)〉が仕事をしてくれる(はず)だ。徒手(としゅ)空拳(くうけん)にさえなれば俺の本領(ほんりょう)発揮(はっき)出来(でき)る。


偉大(いだい)なる魔術の神よ、その力の片鱗(へんりん)を我が手に、そしてあの荒神(あらがみ)(つらぬ)く力をください」


 (にら)み合いの中、一人スズだけが高等魔術〈グングニール〉の詠唱(えいしょう)を始める。牽制(けんせい)のつもりなのだろう。


「〈グングニール〉」


 スズの杖から(ほとばし)った光の(やり)が、(たが)わずアブネラの(むね)へ向かう。――だが、あろう事かアブネラはそれを二本目の左手で(つか)み取り、消滅(しょうめつ)させた。


(うそ)っ」


 スズが(めずら)しく(おどろ)きを(あら)わにしている。高等魔術を消滅させるなど、一見(いっけん)〈神殺し〉に匹敵(ひってき)する力だが――


「ちぇぇぇい!」


 その間に近付(ちかづ)いていたミノリが、二本の魔剣(まけん)、〈ペイル(貫け)〉と〈ヤーダ(抗え)〉で足元から()り掛かる。そして上半身の方へはミロスラーフの大剣(たいけん)(おそ)い掛かった。見事(みごと)なコンビネーションである。


『くっ!』


 顔に(あせ)りを見せながらアブネラがそれらを回避(かいひ)する。しかしミノリの〈ペイル〉とミロスラーフの大剣は(へび)のように追い(すが)った。アブネラは(かろ)うじて〈ペイル〉を()けられたものの、大剣は二本目の左手で受ける事になった。あの重そうな武器を手で受けるなど正気(しょうき)沙汰(さた)では無く、文字通り手はすっぱりと切断(せつだん)されることになった。


「あっ」


 スズは気付(きづ)いたようだ。先程(さきほど)アブネラが〈グングニール〉を受けた手が、傷を()っていたことに。そのお(かげ)でミロスラーフの大剣を受けきれなかったのだろう。


「どうやら、本当に〈神殺し〉は無くなっているようだな。いけるぞ」


 確信(かくしん)した俺も前線に向かう。その間にミノリとミロスラーフの二人がラッシュを掛けるが、弱っていない部分は精々(せいぜい)傷を負わせるのが(せき)の山らしい。それでも、全身をズタズタにされているアブネラが有効打(ゆうこうだ)(あた)えられているのは分かる。


調子(ちょうし)に乗るな、人の子よ!』


 怒りに()えたアブネラの手が再生(さいせい)し、其処(そこ)から(はっ)せられた瘴気(しょうき)がミロスラーフを襲う。が、スズから受けた傷はそのままのようだ。どうやら神の力を受けた傷は()える事が無いらしい。


『がっ!?』


 ミロスラーフの方へ注意が向いていたアブネラの両目に(てつ)(ぼう)()()さり悲鳴が上がる。これは――アイの棒手裏剣(しゅりけん)か!


「チェストォッ!」


 瘴気から(のが)れる為にミロスラーフが(はな)れたところで、()わって近付いた俺がアブネラの左(かた)に右の正拳(せいけん)突きを(はな)つ。ごきり、という(いや)な音が俺の(こぶし)から(つた)わると同時に、左肩は(くだ)()った。全身が魔核(まかく)なので、斬撃(ざんげき)よりも打撃(だげき)が有効と言う事か。


「まだまだっ!」


 ミノリが〈ペイル〉と〈ヤーダ〉の連撃(れんげき)で二本目の右腕を(ねら)い、どうにか斬り飛ばす事に成功(せいこう)した。ミロスラーフも瘴気の無い背後(はいご)へと何時(いつ)()にか回っており、大剣が狙うは――アブネラの(くび)だ。


「お覚悟(かくご)(ねが)いますぜ、アブネラ様!」


 力を()めに溜めたミロスラーフの大剣が一気に振るわれ、アブネラの頸を斬り飛ばす。


 頸と二本の腕を失ったアブネラは、ゆっくりと仰向(あおむ)けに倒れていった。神様と言うには、何とも呆気(あっけ)なかったが――




「やったか?」

「おいおい伯爵(はくしゃく)様、大抵(たいてい)そう言う時はやってないもんだぜ」

「あたしも、ミロスラーフに同意」


 そんな軽口(かるくち)(たた)きながら、慎重(しんちょう)に頸の無いアブネラの死体……に見える物へ近付く。突然(とつぜん)爆発(ばくはつ)したりはしないだろうが、いきなり起き上がる可能性(かのうせい)はある。


「リュージ(にい)

「なんだ、スズ」


 何やらスズが呼び掛けてきたので、振り向かずアブネラに注意を向けたまま(こた)える。末妹(まつまい)の言葉には、何処(どこ)戸惑(とまど)いが()じっているような(かん)があった。


「以前、アデリナがアブネラの腕を召喚(しょうかん)したことがあったと聞いてる。その時、こんな小さい姿をしていた?」

「え……?」


 俺は唐突(とうとつ)に振られたその質問に、記憶(きおく)辿(たど)る。あれは(たし)か――ザルツシュタットの訓練場(くんれんじょう)で、アデリナがアブネラの腕を召喚したのだったな。


 スズの言う通り、あの時は随分(ずいぶん)とデカかったような。腕の大きさから元の身体を推測(すいそく)すると、五メートルはあったように思える。


「……いや、もっと巨大だった」


 目の前の頸の無い青年の死体は、俺よりも()が低い。どう考えても、あの時の腕とはスケールが違い()ぎる。


「なら、この姿は一体?」

「たぶん――」


 と、スズが何かを言い掛けたところで目の前の死体が瘴気を発し始めた。俺を(ふく)む三人が(あわ)てて飛び退く。


「おい、こりゃマズいぜ! 下がれ!」


 ミロスラーフが警告(けいこく)し、俺たちは瘴気を()びぬように急ぎ足で離れる。


 瘴気はあれよあれよという間に(ふく)れ上がっていき――巨大な人の形を取っていった。


「……おいおい、マジか」


 俺は目の前に(そび)える巨大な人物を見上げ、呆然と(つぶや)いていた。


 相変(あいか)わらず四本の腕を持ち、金色(こんじき)(かがや)くその身体の大きさは先程の三倍(くらい)はあろうか。右上の腕、左上の腕にはそれぞれ剣を(たずさ)えている。


 そして――両の(ひとみ)だけが(あや)しく赤い光を放っており、その表情(ひょうじょう)は怒りに(ゆが)んでいた。


「これがアブネラの、本当の姿って訳か」


 こんな巨大な相手に、どう対抗すれば良いのか。


 俺はただ、それだけに頭を(めぐ)らせていた。


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ