第二〇五話「呪われた神を解放せよ」
「おう！ 斬れるようになったぜ！」
一度退がった俺は、ミロスラーフとミノリの武器に〈鋭利〉の一時付与を施した。そのお陰で二人とも触手は切断出来るようになったようだ。
だが、触手が斬れたところで本体も含めて破壊しなければアブネラを倒すことは出来ない。何か良い方法は無いものか。
「ちぃっ、アブネラ様！ 信徒の俺に対してあまりな仕打ちじゃありやせんか！」
『信徒であろうが、我が道を阻むつもりならば容赦はせん。第一、其方は争いを好んでいるだろう。戦いは本望なのではないのか？』
触手に対抗しているミロスラーフがアブネラに直談判するも、平和の神は素気無い塩対応である。と言うか、戦闘狂なのがバレている。神に隠し事は出来ないのだな。
「あぁっ!?」
俺たちの頭上に浮いていた〈テング〉が触手に貫かれて消滅し、アイが悲鳴を上げる。〈大金剛の魔石〉を持っていないからな、仕方無い。
それにしても、触手だけでこの攻撃力なのだ。本気を出したら俺たちなど一捻りなのではないか？
「偉大なる魔術の神よ、その力の片鱗を我が手に、あの荒神を撃ち抜く鉄槌をください、〈ミョルニール〉」
スズが高等魔術を放つ――が、何も起こらない。この手の高等魔術は魔術の神エウレルの力を使っているが故に、〈神殺し〉の力で無効化されてしまっているのだろう。
「駄目か」
「ん、駄目みたい。せめて〈神殺し〉を無効化出来れば良いんだけど」
「そりゃ無理ってもんだろう」
スズの無理難題を俺は即座に切って捨てる。何せアブネラと言えば〈神殺し〉と言っても良い位の力なのだ。アイデンティティと言っても良い。
「……いや、良いとこ付いてるぞ、スズ嬢ちゃん」
触手を斬り払いながら、ミロスラーフが横入りしてきた。良いとこ、とは？
「まさか、〈神殺し〉を無効化出来るとか言うつもりじゃないだろうな」
「そのまさかだ」
冗談交じりで言った俺に、ミロスラーフは背中を向けたままそう返した。何を言っているんだ、このおっさんは。
「何言ってるんだ此奴は、みたいに思ってるかも知れねぇが、良く考えろ。アブネラ様が〈神殺し〉の力をお持ちでいらっしゃる理由を」
「〈神殺し〉の力を持っている理由……」
ミロスラーフの言葉を脳内で咀嚼する。その理由については少し前に聞いたような……？
考え込んでいると、ミロスラーフと一緒に触手を斬り払っているミノリが「あ！」と声を上げた。妹には思い当たる節があったらしい。
「あたし分かった！ 呪いだ！」
「呪い……そうか！」
アブネラは先程言っていた。「我等は呪われ、このような姿に堕とされた。だが、呪いの反動で〈神殺し〉を得た」と。
ならば、呪いを解けば〈神殺し〉の力も無くなると言う訳か。
「で、でも、神の呪いなんて、解けるの？」
アイがごもっともな事を言っているが、俺にはその手段に心当たりがある。『ギフト』の魔石だ。
とは言っても、それらの魔石をそのまま使う訳では無い。使おうにも〈神殺し〉の力が働いて使えないしな。そうでは無く、〈エルムスカの魔石〉を通して〈解呪〉の触媒付与をするのである。
「触媒付与は久しぶりだが、まあ、何とかなるだろう」
触媒付与とは、一時付与に触媒を使って効果を増大させる手法である。その効果は、触媒が付与対象と縁がある場合、更に増す事になる。ちなみに、触媒として使用する魔石は力を失ってしまう。
呪いを施した張本人は旧神の何れかだが、新神のルーツは旧神であり、縁と言う点では在るだろう。触媒付与で解呪を行う際に新神の力を持つ『ギフト』の魔石を使えば――
「……一か、八かだ」
俺は腰に提げていた『ギフト』の一つである〈シグムントの魔石〉を毟り取り、杖を持たない左手で握った。この魔石は力を失ってしまうが、此処が使い所だと言って良いだろう。
「リュージの名において、あの荒神を冒す呪いを打ち払え！ 〈解呪〉！」
俺は迷わず、アブネラを冒す呪いを解呪すべく〈エルムスカの魔石〉を通じて触媒付与を放った。対象は勿論――アブネラである。
『むっ!? こ、これは――』
攻撃への対抗手段は在ったのだろうが、まさか回復を行使されるとは思っていなかったであろうアブネラが、驚愕に身を震わせる。
蛇の頭と触手の手を持つ身体が、光り輝いた。そして――
次回は明日の21:37に投稿いたします！
