表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/209

第二〇話「思いがけぬ再会、そしてそのお方は……」

「お待たせ、ミノリ。退屈(たいくつ)だったろ」

「ううん、色々(いろいろ)商工(しょうこう)ギルドの見学(けんがく)をさせて(もら)ったし、退屈じゃなかったよ」


 待たせていた(はず)のミノリは、(ひま)そうにしていたギルド職員(しょくいん)(つか)まえてそんなことをしていたらしい。「剣士でも知識(ちしき)無駄(むだ)にならないので、知ることに貪欲(どんよく)になれ」というのは『先生』の言葉だ。体現(たいげん)していたんだろう。


 俺たちは商工ギルドを出ると、日の(かたむ)き始めた街の大通りを、新居(しんきょ)のある郊外(こうがい)へと歩き始めた。今日はミノリに()まっていって貰うか。


「そう言えば、さっき来る時は聞く暇が無かったが……スズは一緒(いっしょ)に来なかったのか?」

「あー、スズはね。まだ借りてる魔術書が読み終わってないから、後で来るって言ってた」

「そうなのか」


 魔術書が理由(りゆう)だと言うのは、何ともスズらしい。そこまで勉強熱心(ねっしん)だからこそ、大陸でも最年少で第二等の冒険者となっている(わけ)なのだが。


「そうだ、一応聞いておくが、ミノリは今日ウチに泊まっていくんだろ?」

「へ? なんで?」


 当然(とうぜん)のように聞いてしまったが、首を(かし)げ逆に(たず)ねられる俺。あれ、(ちが)うのか。


「あれ? ならミノリは今晩どうするんだ? このまま俺たちの工房(こうぼう)に行ったら、夕方になっちまうぞ?」

「うん、そうだけど?」


 (いく)らミノリが凄腕(すごうで)の剣士とは言え、年頃(としごろ)の少女が夜道(よみち)を一人で歩くなとは常日頃(つねひごろ)から言っている訳だが、何故(なぜ)だか妹は困惑(こんわく)した様子(ようす)(うなず)いている。


 ……なんだか、話が()み合っていないような。


「……あ、分かりました」


 ぽん、と手を(たた)いたのはレーネ。この話の流れに第三者からしか分からない意味があったというのだろうか?


「ミノリはつまり、工房に住む、と言いたいんでしょう?」

「うん、そうだよ?」

「え」


 レーネの確認に、当たり前だとばかりに頷くミノリ。俺はと言うと、間抜(まぬ)けな声を上げてしまった。


「お、おいおいミノリ、本気か?」

「本気だけど? あ、ごめん。もしかして二人の愛の()だった? それならあたしはお邪魔(じゃま)だから、今後は宿(やど)()まるけど今晩だけは――」

「違う、そうじゃない」


 何やら誤解(ごかい)を始めたミノリを(あわ)てて止める。この手の話には免疫(めんえき)が無いのか、レーネは顔を真っ赤にして(うつむ)いてしまった。どうしてこんな話になった?


「そうじゃなくて、ミノリ、お前まさか冒険者としてこの街に(とど)まるつもりなのか?」

「うん、そうだよ?」


 再び「何言ってんのリュージ(にい)」みたいな顔で言われてしまった。


 つまり話を(まと)めると、ミノリはベッヘマーからザルツシュタットに異動(いどう)し、ここで冒険者として活動していく、らしい。


「スズもそのつもりだしね。リュージ兄の居場所(いばしょ)があたしたちの居場所、ってこと!」

「……そうか」


 若き第二等冒険者がこんな(さび)れ始めている街を選ばずとも良いだろうに。まったく、ブラコンにも(ほど)がある妹たちだ。少しは兄(ばな)れをして()しいものだが。


「あれ? リュージさん、顔がにやけてますよ?」

「ホントだー! リュージ兄、あたしたちが居てくれて(うれ)しい!?」

「……やかましい」


 五月蠅(うるさ)いレーネとミノリにからかわれながら、俺は足早(あしばや)に自宅へと向かうことにしたのだった。




 自宅に着いた俺たちは、早々(そうそう)にミノリが使う部屋を()()ててから一緒にラナたちの様子を見に行くことにした。新しい住人(じゅうにん)、ということでミノリを紹介(しょうかい)しなければならないしな。


「ベッドは今のところ二つしか無いからな、(もう)し訳ないが、(しばら)くはレーネとミノリで一つのベッドを使ってくれないか?」


 (さいわ)いにして前の住人が残してくれたベッドは二つとも大きい。レーネとミノリ、二人で一緒に寝たとしても問題無い大きさだ。


「いやいや、レーネはリュージ兄に(たく)しますよ。二人の愛を邪魔したくは無いですし――あ(いた)っ!」


 俺は馬鹿(ばか)なことを言っているミノリの頭上(ずじょう)へと、軽く拳固(げんこ)()り下ろしてやった。何やら「家庭内暴力だー」と文句(もんく)()れているが、無視(むし)しておこう。


「ラナ、レナ。リュージだ。帰ってきたぞ」


 俺は隣家(りんか)玄関(げんかん)のドアを軽くノックして、この家の小さな主人たちを呼んだ。


「ああ、ごめんなさい。今開けさせますね」


 ところが返ってきた声はラナたちのものではない少女の声。


 ――だが、聞いたことのある声だった。


 がちゃりという音と(とも)に開けられた玄関のドアの向こうに()たのは――


「……ディートリヒさん?」

「はい」


 俺たちが予想だにしていなかった人物は、俺の確認に軽く会釈(えしゃく)をするように頷いた。


 そこに居たのは……俺とレーネがザルツシュタットへ向かう道の途中(とちゅう)盗賊(とうぞく)から助けた一行(いっこう)の一人、若き騎士(きし)のディートリヒさんだった。


 そして、玄関の(おく)に続く台所(だいどころ)付きの小さなダイニングでは、一心不乱(いっしんふらん)に晩ご飯らしきものを食べているラナとレナの他に、一人の長いピンクゴールドの(かみ)を持つ少女が、椅子(いす)腰掛(こしか)けこちらを向き(すわ)っていた。


「ごきげんよう。お待ちしておりました、お二人とも」


 立ち上がった少女は、軽く(ひざ)を折り曲げてそう挨拶(あいさつ)した。ディートリヒさんも(むね)の前に手を当て、こちらに向かって頭を下げる。俺たちも慌てて頭を下げた。


 ……ああ、分かった。


 この少女は、あの時ディートリヒさんたちに(まも)られていた人物か。


「ええと……これは一体(いったい)?」


 レーネが代表して困惑(こんわく)の声を上げると、ディートリヒさんはちらりと背後(はいご)の少女に視線(しせん)を向ける。


「先日は名乗(なの)ることも出来ずに(もう)し訳御座(ござ)いませんでした、リュージさん、レーネさん」


 ディートリヒさんの合図(あいず)を受け、少女が自己(じこ)紹介(しょうかい)を始める。


「わたくしはツェツィーリエ・ライフアイゼン・フォン・バイシュタイン。この国の第一王女です。本日はお二人に依頼(いらい)がありまして、ここまで足を(はこ)ばせて(いただ)きました」


 (おん)(みずか)らのとんでもない身分(みぶん)を明かしたツェツィーリエ様は、俺たちの驚愕(きょうがく)他所(よそ)に、そう言ってにっこりと微笑(ほほえ)んで見せたのだった。


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ