表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/209

第一九話「感謝されるのは悪くない」

 魔核(まかく)の確認が終わり、レーネの書いた報告書(ほうこくしょ)()らし合わせて虚偽(きょぎ)も無いと判断(はんだん)されたので、上乗(うわの)せされた依頼(いらい)料を受け取った俺たちは早々(そうそう)に冒険者ギルドを出てもう一つの依頼元である商工(しょうこう)ギルドへと向かっていた。


 俺たちがアンネさんたち職員(しょくいん)の確認を待っている間、第二等の冒険者を物珍(ものめずら)しそうに見ていた先程(さきほど)の冒険者たちも、気を(つか)って話しかけずに()てくれた。空気の読める奴等(やつら)だ。約束通り今度一緒(いっしょ)に飲みながら話でもするか。


「ミノリ、知っているとは思うがこちら元〈アンジェラ〉のレーネ、錬金術師(れんきんじゅつし)だ」

「どうも、ミノリさん。初めましてではないですよね」


 商工ギルドへの道すがら、ミノリに新しい相棒(あいぼう)紹介(しょうかい)をしておいた。にっこりとミノリへ微笑(ほほえ)むレーネだが、まだ〈アンジェラ〉の名前を出した時に(かた)まっていた(あた)り、そう簡単(かんたん)にトラウマは(ぬぐ)えないらしい。


「うん、一度一緒に依頼をこなしたことはあったよね。あたしのことはミノリで良いよ」

「あ、じゃあ、私もレーネで」


 ミノリから差し出された手を、レーネが(にぎ)り返す。そう言えば一緒に依頼もこなしたことがあったと聞いたことはある。俺はその時参加していなかったが。


「リュージ(にい)の手紙に書いてあった『知り合った錬金術師』って、レーネのことだったんだね」

「ああ、レーネも俺と同じくパーティから追放(ついほう)されたんだよ。意気投合(いきとうごう)してその日にザルツシュタット行きを決めた」

相変(あいか)わらず行動早いね、リュージ兄は……」


 (あき)れられてしまったが、二人で傷を()め合い(くさ)っていても仕方(しかた)ないからな。


「思い立ったら慎重(しんちょう)かつ大胆(だいたん)(そく)行動、ってのは『先生』の言葉だろ?」

「そりゃそうだけどさ、レーネも()()んでるんだから。ごめんね、強引(ごういん)兄貴(あにき)で」


 兄の不始末(ふしまつ)をお()びします、とばかりにミノリがレーネに向かって頭を下げる。小柄(こがら)な身体が(さら)に小さく見える。


「ううん、私も助かったし、気にしないで」

「そうだぞミノリ、気にするんじゃない」

「リュージ兄が言うなっ」


 そんな(ふう)談笑(だんしょう)をしながら、冒険者ギルドからそう遠くない商工ギルドへはすぐに到着(とうちゃく)した。


「おや、リュージさんにレーネさん、こんにちは」

「トールさん、こんにちは」


 商工ギルドに出向(しゅっこう)している、俺たち二人に賃貸(ちんたい)物件(ぶっけん)を紹介してくれたお役人のトールさんが受付窓口に居た。受付業務(ぎょうむ)まで兼務(けんむ)しているのか、この人は。


「リュージさん、レーネさん、ありがとうございます」


 (やぶ)から(ぼう)に、いきなりトールさんから感謝された。一体(いったい)何のことだか思いつかない俺たちは、顔を見合(みあ)わせる。


「何のことです?」

「ラナちゃんたちのことですよ」


 不思議(ふしぎ)そうに(たず)ねたレーネに、トールさんは顔を(ほころ)ばせて答えた。ああ、そのことか。


「でも、一体どうしてラナちゃんたちの畑はあんなに生育(せいいく)が良くなったんですか?」

秘密(ひみつ)です。付与術(ふよじゅつ)と錬金術の()せる(わざ)とでも言っておきます」


 あの魔石(ませき)の秘密がバレたら(ぬす)まれかねないからな。ラナたちにも絶対に口外(こうがい)するなと(かた)口止(くちど)めをしておいたのだ。万が一バレても魔石を(うば)われないよう、二人の知らない場所に()め直しておいた。


 まあ、魔力感知(かんち)出来(でき)れば見つかってしまうのだが、その辺はゴーレムを増やして新たに魔石を(まも)るよう命令しておいた。ゴーレムも付与術で強化してあるし、そうそう負けないだろう。


「そうなんですね……、まさか、付与術と錬金術で彼女たちの台所(だいどころ)事情が解決するなんて思いませんでしたよ。(けもの)()けにゴーレムまで(つく)って(もら)ってますし、ラナちゃんたちは安定した流通(りゅうつう)元として商工ギルドのお得意様(とくいさま)になるでしょうね」

「まあ、ラナたちが(はら)()かせないように俺たちに出来ることをやっただけですよ、なあ?」

「はい!」


 レーネも感謝されていることが(うれ)しいらしく、同意を(もと)めると(よろこ)びを(かく)せぬ様子(ようす)(うなず)いた。役立(やくた)たずと追放された俺たちが、こうして(だれ)かの役に立っていると自覚(じかく)できることほど嬉しい事は無い。


 ……とは言え、少し不安はある。ラナたちの畑だけ生育が良くなっている反面(はんめん)、他の農家の畑はどうかというと、(まった)影響(えいきょう)が無かったようで。


 種を()いてから一日で収穫(しゅうかく)出来(でき)る畑があったら、他の農家にとってはたまったもんじゃないだろうからな。何とかしないといけないかも知れない。


「あ、すみません、私情(しじょう)のことを話してしまって。本日はどのような御用向(ごようむ)きですか?」

「ああ、商工ギルドからベルン鉱山(こうざん)調査(ちょうさ)()()っていたので、その結果(けっか)報告(ほうこく)に。かなり良い情報が(つた)えられますよ」

「そうなんですね! 担当者をお呼びしますので少々お待ちを!」


 先日とは(くら)べものにならぬ位に()き活きとした様子で、トールさんは鉱山の担当者を呼びに行った。


 その後、大地震(だいじしん)の影響でベルン鉱山に大きな鉱脈(こうみゃく)(あらわ)れていることを作り直した地図と一緒に担当者へ説明すると、大きな発見だと言われ、期待(きたい)していた金一封(きんいっぷう)は確認の後に(いただ)くことが出来る事になった。


 金一封の内容こそ些細(ささい)なものだったけれども、この情報が(たし)かならば再び採鉱(さいこう)が行われるようになると聞けたのが一番の収穫(しゅうかく)だった。これで〈無の魔石〉の確保(かくほ)が出来るようになるかも知れない。


次回は明日の21:37に投稿いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ