第一八話「そりゃ珍獣みたいな扱いされる訳だ」
「只今帰りました、アンネさん」
「戻りましたー」
俺とレーネの二人は鉱山を出た後ベルン村に立ち寄り、「根城に居たゴブリンはすべて退治したが、逃げた個体が居る可能性もあるので十分用心するように」と忠告してから、ザルツシュタットを目指し出発した。夜も遅かったので村に泊めて貰い、有難いことに歓待まで受けてしまった。
「あらお帰りなさい、〈アルテナ〉のお二人さん。お早いお帰りですね。ゴブリン退治はつつがなく終わったんですか?」
相変わらず人も少ないのでアンネさんは暇を持て余している様子だった。近場の冒険者ギルドがこんな調子であればゴブリン退治の依頼も中々受けてくれる人が居ないだろうし、被害が出ていてもすぐに対処が出来なかったのかも知れないな。あそこまでゴブリンが増えた理由はそれか。
ちなみに〈アルテナ〉というのは俺たちのパーティ名だ。冒険者ギルドでは複数で活動するにあたりパーティ名が必要となるので、古代語で「職人たち」という意味の言葉から採ってみた。
「つつがなくという訳にはいきませんでしたが、まあ、終わりました」
「え? どういうことです?」
首を傾げるアンネさんに、俺は無言でゴブリンヒーローの魔核を取り出し、カウンターの上に置いた。
「あ、大きな魔核ですね。ホブゴブリンまで居たんですか?」
「いえ、ヒーローです。ゴブリンヒーロー」
「……は?」
俺の言っていることが一瞬理解出来なかったらしいアンネさんは目を点にしていたが、慌てて〈鑑定〉の魔術で魔核の確認を始めた。〈鑑定〉することで元の魔物がどれほどの力を持っているか把握することが出来るからだ。
「……仰る通り、この魔核はゴブリン族特有のもので、ヒーローと判断出来る程の力を持っていますね……」
「やっぱりヒーローで合ってますか」
申し訳なさそうなアンネさんに淡々と返す俺。ゴブリンヒーローが居るような依頼は、普通第四等とかそれ以上のパーティ向けのものだ。今回は第七等の依頼だったのでギルドの下調べが甘かったと言わざるを得ない。下手をしたら低い等級の冒険者が向かって死人が出ていた可能性があるしな。
「ちなみにホブゴブリン、ゴブリンメイジも含め、まだまだ魔核はあります」
「ちょ、ちょっと待ってください! 応援を呼んできます!」
マジックバックからざらざらと魔核を取り出した俺に、アンネさんがストップを掛けて扉の奥へと消えて行った。その間に、なんだなんだと物珍しそうに周りから冒険者たちが集まってきてしまった。
「さっき、ゴブリンヒーローの魔核とか言ってなかったか? 倒したのかアンタ? ……って、その腕輪、第三等冒険者!?」
「ねえ、こっちの子も第三等みたい!」
「マジかよ! アンタたちすげえな!」
「わ、わ、わ」
周りから一斉に憧れの視線を向けられ、レーネがぐるぐると目を回している。集まってきた冒険者たちは、皆高くても第六等とかその位だった。そりゃ第三等は珍しく映るよな。
「お待たせしました! はいはい! 〈アルテナ〉のお二人以外は散って下さい!」
奥から二人の職員を呼んできたアンネさんがぱんぱんと手を叩くと、集まっていた皆は残念そうにその場から離れて行った。
「後で話を聞かせてくれよ!」
「おう、けど今日は疲れてるんで、また今度なー」
俺と同い年位の第六等冒険者の男に手を上げてそう返す。同じ冒険者同士、そのうち組むかも知れないのだから仲良くしておくに越したことは無い。
「それにしても、等級の高い冒険者は珍しいのか。ベッヘマーでは第二等まで居たと言うのに」
「利便性が悪くなってしまいましたからねぇ、等級の高い方々は街を出て行かれたのですよ……」
魔核を鑑定しながらアンネさんがぼやく。だとすると、高等冒険者向けの依頼などは滞って居そうだ。
だが俺たちはあくまで生産がメインの付与術師と錬金術師だ。誰か他に高ランクの冒険者が来てくれれば――
「あーっ! 見つけたーっ!」
ぼうっとアンネさんたちの作業を眺めていたら、とても聞き覚えのある声が入口の方から響いて、俺は咄嗟に振り向く。
ああ、来たのか。早かったな。
「よお、ミノリ。長旅お疲れさん」
振り向いた先には、背中に二振りの魔剣を差した、身長以外はとても発育の良い栗色のショートボブを持つ第二等冒険者の少女が、嬉しそうに俺のことを指さしていたのだった。
次回は明日の21:37に投稿いたします!