第一五話「ロマンティックなワンシーン(?)は無粋な輩にぶち壊される」
「なあ、この先って行き止まりじゃなかったか?」
行き止まりだと思っていたら、何やら奥に通ずる……道、とも言えないような短い道がある。
「え? 道が続いてますか?」
レーネが慌てて取り出した地図と睨めっこしている。が、やはりそこには書かれていなかったらしく、かぶりを振った。
「地図に無いけど、空間があるな……もっとも、鉱坑の一部ではなさそうな気はするが……」
通常、鉱坑の中は崩落したりしないように柱と梁でしっかりと補強されているものだ。
だが、奥の道はそうではない。その痕跡すらも見当たらないのだ。
「ゴブリンが掘ったのか?」
「それは無いでしょう……」
ジト目で呆れられてしまった。冗談のつもりだったというのに。
「しかしそうなると、何故地図に無い空間が奥へと続いているんだ?」
「分かりません。……あ、いえ……もしかして……」
何やら気付いたらしいレーネが、広間と奥の空間との間を調べ、「やっぱりそうだ」と独り言ちた。
「リュージさん、この空間は恐らくですが、ここがまだ廃坑になる前には存在していなかったんじゃないかと思います」
「なんだって? なら、本当にゴブリンが?」
知能の低いゴブリンに魔石の価値など分かるものでも無いと思うのだが。それとも、邪術師辺りがゴブリンを使って掘らせたのか?
「いえ、ゴブリンではなく……、話は少し変わりますが、ザルツシュタットの港が壊れた原因を覚えていますか?」
「は? 何故その話? 確か港は、大地震で――」
そこまで言いかけた俺は一つの可能性に気付いた。そういうことか。
「つまり、この空間はその地震で繋がったと?」
「恐らくは。この辺りの壁土が柔らかいのがその裏付けですね」
なるほど、崩壊して繋がったと言う訳か。
……そうなると、否が応でも奥の空間には期待が持てる一方、崩落するんじゃないかという恐怖もある訳なのだが。
「……ま、虎穴に入らずんば何とやらと言うし、奥の空間を見てみるとするか」
「はい、そうしましょう」
俺たちは虎の子供を見つけるべく、その空間へ足を踏み入れた。
「うわ、マジかよ」
思わずそんな言葉が漏れてしまった。
それも仕方の無いことで、その広間より少し狭い程度の空間には目指していた魔石の鉱脈がしっかりと存在していたのだ。虎の子供は本当にこの中に居たという訳か。
「あっ、リュージさん! まだ奥に道が続いてますよ!」
「うお、本当だ」
魔術光で照らしてみると、興奮気味のレーネの言う通りやや上り坂の道が続いており、その奥にも魔石の妖しい光を見つけることが出来た。いやこれ、予想以上の収穫じゃないか? 商工ギルドに報告したら金一封を追加で貰えるかも知れない。
「これ以上奥へ進むのは、今の所は止めておこう。崩落の危険もあるしな」
「そうですね、広間に戻りましょうか」
俺たちはそれ以上首を突っ込むことなく、広間へと戻った。これでザルツシュタットに魔石の供給が再開される可能性も出てきたな。
「他にも地震で通じた道があるかも知れないし、ゴブリンを掃除しつつ隈なく探してみるか」
「分かりま――」
レーネが言い終えるよりも早く、俺は彼女を抱き寄せていた。見ようによってはロマンティックなワンシーンだろう。
それをぶち壊すように直前までレーネが居た場所を大岩が通り過ぎて行き、壁にぶつかって大きな音を立てた。流石にこんな威力のものが飛んでくれば、〈金剛〉も意味を為さない。何時ものレーネだったら音で分かった筈なのだが、坑内は音が反響しているので遠くの音と聞き違えたか。
「え? え? え?」
状況を全く理解出来ていないレーネを岩陰に隠し、俺はその岩が飛んで来た場所を見る。
そこにはゴブリンよりも体躯の大きいホブゴブリン、だけではなく、その中でも一際図体のデカい、全身を鋼鉄のような筋肉に守られた存在が血走った目で俺を睨んでいた。岩を投げたのはコイツだろう。
「……差詰めゴブリンヒーロー、ってとこか。コイツが集団のボスか?」
俺は杖をレーネに託し、腰から取り出した二本の大ぶりな短剣を両手に持ち、仲間を殺され憤怒を表すゴブリンヒーローに向かって構えた。
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