第一四話「鉱脈を求め、俺たち魔術師は廃坑を往く」
目の前に迫る錆び付いた剣は、あっさりと〈金剛〉の力で弾かれる。反対に左手の短剣で急所を突くと、呆気なくゴブリンの一体は力尽きた。
しかしそれでも、数ばかり多いゴブリンは魔術師にとって厄介だ。レーネにも〈金剛の魔石〉を持たせておいて正解だったな。
「ええと、この先分かれ道です。奥へ行くなら右ですが、左は少し開けた場所があります」
「ふーむ、どちらへ行くべきかな」
俺は背後で鉱山内部の地図を確認するレーネの説明にそう返しながら、次々と迫り来るゴブリンたちを突き殺していった。しかし本当に多いな。ベルン鉱山が廃坑になってから一年程度だというのにここまで増える訳も無い。たまたまゴブリンの大集団がここに居着いたと考えるべきか。
これだけ多いと辟易するが、やっぱり〈金剛の魔石〉のお陰で武器による攻撃を無視出来るのは大きいな。たまに現れるゴブリンメイジだけはさっさと魔術を展開して仕留めているが。
「そうですねえ……、〈魔力感知〉の魔術を当てにすれば、左の方にゴブリンが多いようですが」
「なら左。ゴブリン退治の依頼も受けてるし」
「分かりました」
さっさと地図を仕舞ったレーネが加勢し、通路のゴブリンもあっさりと片付いてしまった。そりゃドラゴンとか仕留められる魔術とか使える訳じゃないが、これだけ色々使いこなせるというのに金が掛かる錬金術師というだけでレーネを手放したマリエはただの阿呆だな。
さて、新居の掃除を終えた後レーネに土壌改良薬を作って貰い、ラナたちに留守を任せてから俺たちはザルツシュタットから三日ほど歩いた場所にあるベルン鉱山へとやって来ていた。
魔石はもう採れないということではあるが、探知魔術でしっかりと確認すれば新しい鉱脈などが近くにあるか分かるかも知れない、と商工ギルドのギルドマスターに説明し、許可を得てここへと足を運んでいる訳である。
ついでに近くのベルン村でゴブリンが家畜を盗む被害が多発しているようだったので依頼を受けたところ、この鉱山が根城だったというオチだった。
「リュージさん、下級魔術でも結構威力が高いですよね」
さっきから短剣だけでなく下級魔術の〈フリーズ・バレット〉でゴブリンを駆逐している訳だが、レーネは普通の魔術師よりも威力が高いことに興味を持ったらしい。
「ん? ああ、これ、杖のお陰」
「杖……? 古代遺物か何かですか?」
「いやいや、この杖には元々飾りの宝石が付いていたんだが、飾りだけにするのは勿体ないので魔術の威力を増幅する〈賢者〉の付与をしておいた」
「そんな事も出来るんですねぇ……」
感心したレーネが唸っている。まあ、普通はやらんだろうが俺はやる。〈無の魔石〉はあくまでコストがかからない為に使っているだけなので、宝石だって付与には使えるのだ。
「お望みとあれば、レーネの杖にも付与を施そうか? 宝石付いてるだろ、それ」
「あ、お願い出来ますか?」
「了解、何の付与にするかは後で決めよう。……さて」
そんな会話をしているうちに広間へと到着した。寝こけてこちらに気付いていなかったゴブリン共を、レーネお得意の範囲魔術〈スパーク・ウェブ〉で一掃する。
俺も範囲魔術ならば〈ファイア・ボール〉程度なら覚えているが、流石に坑内じゃ爆発するような魔術は使えない。その点レーネの電撃魔術は使い勝手が良いな。今度教えて貰うか。
無防備なゴブリン共が片付いたので、俺たちは広間を調べることにする。〈無の魔石〉はそれ自体が強い魔力を発しているので、魔術師にとっては感知し易いのだ。
でも、この広間の壁には残念ながら鉱脈が無かったようだ。ここもハズレか。
「……ん? あれ?」
はて……レーネは、ここが行き止まりだと言っていたような気がするんだが……。
そんな事を思いながら、俺は奥に続く道を見つめて立ち止まっていた。
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