第一話「そんな下らない理由で、俺は追放された」
新連載です!
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「なあ、お前ふざけてるのか? リュージ」
今日は休暇とすることに決めたと言うのに、いきなり宿まで呼び出されて投げつけられた言葉がコレだ。まったく、毎度の事ながら主語も無ければ要領も得ない。この男は相手に意図を汲み取って貰おうとする努力とか考えないものだろうか?
俺は溜息を吐きながら、目の前でふんぞり返って居る〈ベルセルク〉のリーダー、重戦士のガイを高い位置から睨め付けた。偉そうに自分を睥睨している輩に遠慮などする必要も無いからな。
「何のことか、と聞き返せばお前は怒り狂うだろうから、優しい俺は何のことか推測してやる。いつも通り、俺が魔石の生産ばかりしていることについて文句を言っているつもりなのか?」
皮肉を籠めた俺の言葉にガイの眉がぴくりと動いたが、どうやら激高することは無く、ふぅ、と大きく息を吐いて落ち着いたようだ。妙だな、いつもなら殴りかかってくるというのに。まあ拳が当たった試しは無いが。
「ああ、そうだ。お陰で俺たちは四人で依頼をこなさなけりゃならねぇ。かと言ってお前を入れても、俺たちのように動ける訳じゃないんだがよ」
「そりゃそうだ、俺は付与術師だからな。ミノリやスズみたいな動きを期待されても困る。だからお前は俺に魔石の生産を優先させてるんだろうが」
お優しいことに、ガイは野伏のショーンや剣士のミノリ、魔術師のスズら天性の才能を持つメンバーと同じような働きを俺に求めていないようだ。だったら何故文句を垂れているのか分からないが。
「なんだ? 俺に責任転嫁か? デカい図体している癖にお前が役立たずだから魔石の生産を優先させていたんだろうが。第一に――」
ガイはそこまで言って言葉を切り、俺の右手首へ指を差す。そこには冒険者としての身分を示す腕輪が嵌められている。
「俺たちは第二等、お前は第三等。この意味が分かるか?」
「……俺が依頼へ参加出来ず貢献も出来ていないから、第三等のままなんだろ? 俺に魔石の生産を優先させたのはお前だろ? 頭は大丈夫か?」
俺は支離滅裂なガイの戯言に呆れることしか出来ず、諸手を広げて「意味分からん」と態度で示した。
冒険者等級。冒険者ギルドにどれだけ貢献したかでこの等級が決まる制度だ。高いほど依頼遂行への信頼度が高いという判断基準になる、第九等から第一等、そして特等まで存在する。
そして、俺よりも依頼を多く受けているガイ、ショーン、ミノリ、スズが上の等級に居ることは自明の理なのだ。
俺の返した答えにいい加減我慢ならなかったらしく激高したガイは、目の前のテーブルを掌で思い切りバンと叩いた。大きな音は宿の迷惑になるから止めて欲しいものだが。
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ! お前が何時まで経っても第三等だから、第二等のパーティとして認められずに俺たちも第一等へ上がれねぇんだろうが!」
「だから、さっきから言ってるだろう? お前が、魔石の、生産を、優先したんだよ。だから、依頼に、参加出来ず、等級も上がらないんだ、分かったか?」
俺は子供にも分かるように理屈を噛み砕いてやったのだが、ガイの表情は怒りに震えたままだ。残念だ、これ以上理解され易い方法が思いつかない。
そもそも魔石というのは〈無の魔石〉へ付与を行う付与術師専門の奥義を施したものであり、依頼に貢献したと判断されていないのがおかしいのだ。コイツは当たり前に俺に魔石を作らせて利用しているが、効果が高いものを作るには工房が無ければ効率が悪いし、第一に魔石のようなマジックアイテムは大量生産出来るものでも無い。
「文句があるなら、依頼達成時に付与術の効果もきっちり報告書に書け。それか俺も依頼に参加させろ、そしたら――」
「……もういい」
いきなり静かになったガイに不気味なものを覚え、怪訝に思いその表情を見ると、何やら下卑た笑みを浮かべている。
「お前は今日限りでパーティを辞めろ。ちまちまと道具作りしか出来ないヤツは要らねぇ」
「はぁ?」
何を言っているんだコイツは。第一、俺、ミノリ、スズの三人でパーティを組んでいた所を無理矢理取り込んだのはこの男なのだが。
……そうか。
「お前、元からこのつもりでショーンに指示を出して、ミノリとスズを出張依頼へと連れ出させたな? 道理で、依頼の遂行に貪欲なリーダーのお前が付いていかなかった訳だ。二人の居ない時に俺を追放するつもりだったのか」
ショーンはこの男に忠実な僕みたいなものだ。今頃ヤツが妹のミノリたちを足止めしているんだろう。
「あぁ? 推測で人を非難するなってのはいつもお前が言ってることだろ、リュージ」
クックック、と含み笑いをするガイに、俺は侮蔑の視線を投げつけた。……悪知恵を働かせる時だけは頭が回るようだ。
だが、そっちがそのつもりなら、もう良いだろう。
「分かった。だったら遠慮無く抜けさせて貰う。……だが、お前に貸していた魔石はすべて返して貰うからな」
「あぁ? 何言ってんだ? 魔石はパーティの共有物じゃねぇか」
ガイは本当に分かっていないのか、眉を顰めている。どうも何かを勘違いしているようだな、この男は。俺が魔石を譲ってやったことなど一度たりともないのだが。
「毎回、魔石をお前に渡す際に念書を書いて貰ってはいるが、まさか読み流していたのか? この通り、譲渡ではなく貸与すると書いてあるだろ。出るとこ出てもいいんだぞ?」
マジックバッグから取り出した念書の束を高い位置から見せてやると、初めて知ったらしいガイはそっぽを向いて舌打ちした。出るとこ、というのは商工ギルドを通して裁判を行うという意味である。裁判に負ければ冒険者としての降格も有り得るのだ。
流石にそのリスクは負いたくないのか、ガイはマジックバッグに手を突っ込んで乱暴に魔石を取り出し、テーブルの上にばら撒いた。おいおい、借り物なんだから大事に扱えよ。
「……〈昇華の魔石〉が足りないな。お前、付与術師を軽んじている癖に、魔石に頼るつもりか?」
「うるっせぇ! これでいいんだろ!」
ガイは追加で取り出した〈昇華の魔石〉を俺に向かって投げつけた。痛いな、何しやがる。
しかしこれで貸し与えた魔石はすべて返して貰った。後は妹たちが気掛かりだが、素直に抜けさせては貰えないだろうし、上手くやるとするか。
「じゃあな、ガイ。ミノリとスズに宜しくな」
念書の束をテーブルに放ってからそう言い残し、俺はガイの部屋を出て行ったのだった。
次回は一〇分後の20:47に投稿いたします!