しん君の願いごと
12月。お母さんが幼稚園にしん君を迎えに行くと、しん君が目をキラキラさせながらこちらに走ってきて言いました。
「おかあさん、きょう、ぼく、ながれぼしみる!」
「ながれぼし?」
お母さんは首をかしげます。
どうしてそんなことを言い出したのか。
くわしく話を聞いてみると、どうやら、お友だちに聞いたらしいのです。
今日、空にながれぼしがながれるよ。ながれぼしがきえる前に3回ねがいごとを言うことができたら、ねがいごとがかなうんだよと。
お母さんは思いました。
そう言えば、今日はふたご座流星群が見られる日だったなあと。
お友だちはきっとそのことを言っていたのでしょう。
帰り道。お母さんとつないだ手をぶんぶん振りながら、「ぼく、いっぱいおねがいごとするんだ」としん君ははしゃいでいます。
その姿を見ながらお母さんはこまったように笑いました。
楽しみにするのはいいけれど、しん君、起きていられるかなあ、と。
その日の夜10時。
お母さん。お父さん。しん君。
コートを着てマフラーを巻いて。もこもこになった3人の姿がベランダにありました。
でも、あら?
しん君の頭は右に左にふらふらと。
まあ、仕方がありませんよね。いつもならとっくに寝ている時間ですからね。
お父さんはひとつ微笑むとしん君をだっこしました。
「しん君、もう寝る?」
お父さんにだっこされながら、しん君は「いやいや」と首を振ります。
「ながれぼしみる……」
「でも、もうねむいだろう?」
「おねがいごとするの……」
そう言いながらも、もう目はとろ~んとして、今にもねむってしまいそう。
お母さんとお父さんは顔を見合わせてクスリと笑います。
お父さんはしん君の背中をトントンしながら言います。
「じゃあ、お父さんがしん君の代わりに願いごとをしてあげようか」
「おとうさんが?」
「うん、しん君の願いごと、教えてくれる?」
「ん~とね……」
しん君はねむたい頭で考えます。ぼくはなにをおねがいしたかったんだっけ。
「ん~……」
おかしをいっぱいたべたい。ゆうえんちにいきたい。ヒーローになりたい。
でも、ねむたくてねむたくて、どれもきちんと言葉に出来なくて。
しん君はお父さんの首にぎゅっと抱きつくと言いました。
「おかあさんおとうさんとずっといっしょにいられますように」
しん君の一番のお願いごと。
お父さんはおどろいた顔をしました。
しん君はもうがまんできなくて、そのまま目をつぶります。
「おとうさん、ちゃんとおねがいしといてね……」
そうして、すやすやとねむってしまいました。
お父さんとお母さんは顔を見合わせます。
そうして、泣きそうな顔で笑い合いました。
「ずっとだって」
2人は思いました。
「ずっと」の意味をこの子はどれだけ知っているのだろう。
大人になったお父さんお母さんは知っています。
きっとそれは君が思っているよりずっと長くて、ずっと短い。
でも──
お父さんとお母さんはその頭をやさしくなでながら言いました。
『ずっといっしょにいられますように』
それは2人にとっても一番の願いごとなのでした。
次の日の朝、しん君はお父さんにききました。
「ながれぼしにおねがいごとしてくれた?」
お父さんはあくびをしてから言いました。
「ごめんな、流れ星は見られなかったんだよ」
「え~、みられなかったの?」
そうなのです。お父さんもお母さんもおそくまでがんばったのですが、結局、流れ星は見られなかったのです。
残念がるしん君。
でも、お父さんお母さんは昨日のことを思い出して幸せそうに笑います。
しん君の願いごとは流れ星には届きませんでした。
でも、お父さんお母さんには届きました。
きっとこれから何度もしん君の願いごとを思い出して、幸せな気持ちになるのだと思います。
「ずっと」が終わるその日まで。