9話 人と人
「ふむ、すると食べたものに応じた能力が身につくと?」
正々堂々と薬漬けにされることを宣言された後に俺は言葉通りに体が重く眠気に襲われたため、きっちり寝かされた。今は、鳥の鳴き声と共にリルと朝食を取っている。
ちなみに、獣の皮というのは案外悪くない。なんの獣かはわからないけどモフモフで寝やすかった。こういう初体験は悪くない。
「あぁ、そうらしいんだが……。」
なんだか、よくわからないモチっとしたパンもどきと水で戻した何の肉かわからない干し肉。あとよくわからない草を食べていた。
しかし、空腹は最大のスパイスと言うように食事らしい食事が久々だったためか不味いとは感じなかったな。美味しくは……ないけど。
「だが……? なんだか、微妙な言い回しですね。」
「うーん。これも食事のはずなんだけどな。」
そう。よくわからんとは言え、今俺は食事をしている。少なくとも、今まで食べたアリさんと木の実はちゃんと能力の獲得が出来ていた。
けれど、この朝食に関しては何かが身につく様子はない。何かしらの条件があるのだろうか。あるのであれば、書いておけと心底思う。
「何も発動しない、と……?」
「俺もまだよくわかってないからなぁ。」
「んー、でも少しでも可能性があるなら修行は狩りを中心におこなってもいいかも知れませんね。」
一理ある。スキルを獲得しながら強くなれるなら最高だろう。怖さはもちろんあるが、剣や魔法となるとやっぱりワクワクしてしまう。
剣を握って、魔物と戦うのはある種絶対叶わない夢みたいなものだからな。それが叶うんだから、幸せといえば幸せだ。……薬漬けさえなければ。
「そんなビビった顔しないでくださいよ。死ぬわけじゃないんですから。」
「お、おう……。」
「……それに近い痛みは、あるかも知れませんが。」
「聞き捨てならないんですが!?」
マジでこの子、油断出来ない。申し訳なさそうな声色をしているが口元がにやけている。てか、薬の話が出る度にやけている。なんて顔に出やすいんだろうか。
「そんなことより、使ってみたい武器はありますか?」
「そんなことよりじゃないんだけどなぁ。……まぁ、剣かな?」
「いいと思いますよ。剣は汎用性高いですしね。ただ、いきなり近距離武器で大丈夫ですか?」
「というと?」
「素人が突然先頭に立つと、恐怖に身がすくむと言いますし。それに、狩りを中心にするなら弓なんかの方が弱い獣を狙えますから。」
……確かにそこまで考えてなかった。単純に近距離で戦うのが想定されるのは人を襲うような強い獣ばかりという事になる。その点、弓などであれば現実と同じで使いこなす難易度は上がれど狩りには有効かもしれない。
うーん、と真剣に悩んでいるとリルは少し真剣そうな目で諭すように声をかけてきた。
「ただ、まぁ長い冒険をすると言うなら私は剣でいいと思います。」
「そうなのか?」
「……戦うのは、獣だけとは限りませんから。」
………。
少し、重たい声。朗らかな彼女としか話していないから忘れていたが、ここは日本じゃない。世界情勢なんて知りもしないが、みんな丸く平和なわけがない。人と人が、争うこともあるだろうな。
「……そうだな。やっぱり剣でお願いするよ。自分一人の身くらい守れるように。」
「……はい!分かりました! 基礎的なことであれば、私も教えられるので!」
そう言ってくれる、彼女の笑顔も守れるように強くならないとな。強くなりたいと思う理由があるのは、なんだか力になる。
「さて、ということで剣を持つ筋力からです!!まずはこの薬を飲んでみましょうか!体内の魔力を流れに干渉し、筋力が4倍効率よく身につく代わりに10倍の痛みの筋肉痛が襲うお薬です!」
前言撤回。リルは俺が守るまでもなく、俺より強い。……これから、死なないといいなぁ。