5話 秘密基地。つくると大体失敗する。
「いったい何を考えて居るんですか!!パオブの実なんて、今どき赤ん坊でも食べませんよ!!」
うっ、こんなに目を見て叱られたのは何時ぶりだろう。凄く心配してくれていたのを知っている分、彼女の言葉が刺さる。ただ、知らなかったんです。ブドウだと思ったんです。
「絶対食べちゃいけない木の実top5ですよ!!絵本にだって描いてあるのに!」
この世界の絵本か。興味はあるけど、知らないって。少なくとも、ぐりとぐらには描いていなかったはずだ。
「いや、その……。よく知らなくて……。」
「え、知りませんか? あの有名な絵本の……」
「違う違う。知らないのは絵本じゃなくて、この実のこと。」
天然なんだろうか。今1番大切な情報は、きっと絵本ではなかったはず。……もしかしたら、この実を知らないって可能性が低すぎるのだろうか。
「え、本当に知らなかったんですか……?」
「う、うん。悪かったと思ってます……。」
「………あの。とりあえず、ここでは休むことも出来ませんし私の小屋に向かいましょう。……歩けますか?」
彼女は少し怪訝そうな顔をした後に何かを考えると、そう提案してきた。こちらからすると願ったり叶ったりだが、表情を見るに何かしら疑われてるのは確かだろう。それでも身を案じてくれてるのも伝わるあたり、とてもいい子なんだろうな。
「あぁ、大丈夫。歩くくらいはできるよ。」
「もし、辛かったり苦しかったりしたら絶対に言ってください。遠くはありませんが、少し歩くので……。」
「……ありがとう。」
彼女は少し微笑むと、気を使うように先導し始めた。何度も往復しているのだろう。地面は他と比べて、道と言えるくらいには硬くなっていた。こちらの様子を確認するように、ときどきチラリと顔をこちらに向ける。
そんなこんなで、特にお互い話すこともなく幾らか歩き続けた。先導していた彼女が立ち止まると目の先には森が少し開け、木造の小屋が立っていた。
「あれが、私のおうちです。少し片付けるので待っててくださいね!」
そういうと、パタパタと小走りで小屋にはいっていく。ログハウスのように綺麗ではないが、丸太が組み合わさった木造の家というのは何となしに心が踊る。そういえば、秘密基地とか作ろうとしてたっけな。日が傾き、オレンジ色に照らされる森と小屋はお前はが異世界にいるんだと語りかけるようだった。
「あの、もう大丈夫です。入ってください。」
ドアから呼びかける声。やっぱり耳心地がいい。もっと聞いていたい、という気持ちを抑えお言葉に甘えて上がることにしよう。
「お、お邪魔します。」
「はい。いらっしゃい!」
そう、えへっと笑う彼女。可愛い。よくよく考えると女の子の部屋なんだな。そう思い、部屋を見渡すと木のテーブルに暖炉、淡い赤のカーペット。そして。
「うわっ、これは……薬品棚……?」
壁のほとんどを埋め尽くす色とりどりのフラスコ達と書籍。草花に加え、何やら動物らしきものもある。漫画で見た研究室みたいだ。
「あ、あはは……。わ、私は薬のお勉強をしていまして……。」
「あぁ、そうなのか……。」
なるほど、と納得が行く。伏せていた俺に対しての対応と不用意な毒の摂取に対しての怒り。彼女なりの知識や考えから来たものなんだろう。
優しくて、声が良くて、笑顔が可愛くて、勉学までしっかりしているなんて感動すら覚える。
そんなことを考えて彼女を顔を見ると「私は聞きたいことがあります。」と言わなくとも伝わってるく目力でこちらを見ていた。
……なんかデジャブ。