4話 結局、お水は大事ってこと。
やばい、何がやばいって喉がやばい。
思い返してばかりだが、水を飲んでいない。なぜ俺は食い物よりも先に水を探さなかったのだろう。なーにが衣食住は大丈夫だ。1番必要なものがないじゃないか。先程の毒のせいで汗もすごい。体から急速に水分が失われてる気がする。
「脳内シュミレーションは完璧だったんだけどな……」
男なら無人島生活に思いを馳せることくらいあるだろう。ただ、チネリ米ですら果てしない贅沢だとは妄想力が圧倒的に足りなかった。海でとったどーしたい。お水とお魚が欲しい。あと醤油。
毒と水分不足でぼーっとする頭で現実逃避に浸っていると、ガサリと音が聞こえた。心臓が跳ねる。今、俺は動ける自信が無い。もし、凶暴な獣や異世界らしい何かに来られたら抵抗すらできない。
(くそ……、マジでふざけるなよ!! 頼むから通り過ぎてくれ……!)
そんな願いも空に消え、足音はガサガサと近ずいてくる。音的にクマのように大きくはないだろうが、小さくもなさそうだ。動くはおろか、視界も定まらない。
南無三。あの女神以外の神様に祈ろう。
「ひぃぇっ!?」
ひぃぇっ? なんて変わった鳴き声だろう。鳴き声まで特殊とは。しかし、鳴かれたということは気づかれたのだろう。
涙ながらに顔を向けると、そこにはふわっとした布を巻き付け、麻かごを持った女の子がいた。
「まさか、ひ、人……? あわわ、大丈夫ですか!?」
ぐったりと木によりかかる人間を見て慌てたのか、パタパタと駆け寄ってくる。よくよく見ると獣のような耳が生えている。やったぜ、異世界。
「これ……。もしかして、パオブの実を食べたんですか……?」
嘔吐した後を見て、ケモ耳っ娘は顔をしかめる。この反応からするに毒があることを知っているのだろう。「助けて」と口を開こうにも上手く動かない。そんな俺の様子を見て、事態を把握したのだろう。
「意識は、あるみたいですね。あの、これ口に含んで飲み込んでください!」
ゆっくりと、丁寧に話してくれる。そのおかげで停止しかかってる頭でも理解ができる。ケモ耳っ娘がカゴから出し、差し出す小さい木筒から垂れる液体をなんとか口に入れる。少し甘く、病院のような匂いのするそれを飲み込むと体が軽くなった。
「あ、ありがとう……。助かった。」
まだ、体は動かせないが口が動く程度には楽になった。一体なにを飲んだのかわからないが、感謝してもしきれないな。
「えぇ!? し、喋れるんですか?」
「え、まぁ。うん……。」
俺が口を開くと、くりくりとした目を更に大きく開いて驚いていた。なんだろう、この世界で人は口を効かないんだろうか。
「普通、この麻痺毒を摂取したら獣人だって丸一日は意識だって保てないのに……。」
なんてことだ。自分が予想してたよりも余っ程強い毒みたいだ。……もしかしたら、女神の加護ってやつなのかもな。
「……運が良かったんだろう。」
「あぁ、無理に動かないでください!!その水筒の中をゆっくりでいいので、飲んでください……」
「ん、わかった。」
残った中身を、少しずつ体に入れていく。その度に、喉の乾きも痺れも収まっていった。全て飲み干すころには、体は十分に動かせるくらいに回復。助けが来なかったら、確実にまた死んでたろうな。
俺が大丈夫か心配だったのだろう。そわそわと様子を伺っていた彼女も、血の気が戻った顔を見て安心したのか一息ついていた。見知らぬ少女に心配をかけた上に、命まで救ってもらたんだ。改めて「ありがとう」と伝えるために顔を上げる。
その時見た彼女は顔は、何も言わずとも「私は怒っています。」と言わんばかりの怒りの表情だった。
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