表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/43

3話 ぶどうが食べたい。皮ごと。

ひとつ、わかったことがある。

森というのは思ってた以上に歩きづらい。変な形の根っこや飛び出た枝。棘のついた葉っぱなど歩けそうなところを探すために一々立ち止まる必要があった。小さな羽虫などもたくさんいる。いくらアリを食べたからといって虫をホイホイ食べるほど価値観はまだ、一応麻痺していない。それに方角も目的値もわからず歩くのは、なんだかとても寂しい。


サバイバルや無人島生活系の話は大好きな俺ではあるが、遭難経験はおろか登山経験すらない。子供のころは近所の山で遊んだ記憶もあるが、それは人が多く立ち入る入口近くのみだったのだなぁと今になって感じる。ただ、アリさんの力で歩くほど気配を強く感じることが支えになっていた。もう数匹食べてもよかったかも知れない。


そうやって一時間ほど歩いたとき、ついに明確にスキルの効果が表れた。地面の足跡がほんのり光っているのだ。


「よかったー。思い込みの直観じゃなくて……。」


とりあえず、スキルは口に出すより使うと明確に念じたときに発動するらしい。まぁ、口に出して使うつもりだけど。かっこいいし。


ぼんやりと光る足跡を見失わないように慎重に辿っていく。この足跡の持ち主はこの森に詳しいような気がする。足跡を追いかけ始めてから歩くテンポが格段に良い。歩きやすいところを選んでるのか、何度も歩いているのか、はたまたその両方か。なんにせよ、人がいるという事実にこんなに安心する日がくるとは思ってなかった。コミュ力ないし。


「にしても、お腹減ったな……。」


思い返すと、カレーを食べそこなったせいで朝からアリしか食べていない。さっきまでは人の痕跡を探すのに手一杯で腹具合に思いを馳せる余裕もなかったが、安心するとどうもお腹が減る。一度、認知してしまえば中々物色できるものでもない。俺は足跡を見失わない程度に、食べられそうな物を探すことにした。流石に虫はもう食べたくない。好奇心がないわけではないが、もう少し心のゆとりがあるときに実験したい。


うろうろと歩いていると、地面の足跡が一時立ち止まっていることに気づいた。その場でふと上を見上げると紫色の小さい木の実が枝になっている。


「やった!木の実じゃん!」


足跡的に森の達人が採集したのは確実だろう。わざわざ採るということは、きっと美味しいに違いない。かるく背伸びをし、艶やかな紫色のそれを数粒手に取る。味をよく知るぶどう、ほど上等じゃなくても甘いものが食べられると思うだけで心が躍ってしまう。


「いただきます!」


さっきのいただきます、とは違ういただきます。意気揚々と口に放り込む。嚙んだ瞬間に広がる甘酸っぱ……


「にっがッッ!」


果てしなく苦い。苦いし変な匂いがする。植物園に入ったときの匂いをギュッと凝縮したような。わぁ、口に中が不快感でいっぱい。そんな現実逃避をしたくなるくらい、単純に不味い。とっさに食べたものを吐き出しむせ返る。なんでこんなの採集してるんだよ、アホかよ。


「ゴホッ……。やば、なんか口の中痺れてる……。」


ふと、頭に過る「毒」という文字。お腹を壊さないからといって、毒耐性がとは聞いていない。転生して早々に死んでしまうのだろうか。それは嫌だ、本当に嫌だ。そんな思いとは裏腹に体が怠く、重たくなっていく。崩れ落ちるように木に寄りかかる。なんとか、意識は消えそうにない。全部あの女神のせいだ、と本気で恨んだ時指輪はキラリと光った。


 《麻痺》:血液を取り込んだものを麻痺させる。


きっと木の実を食べたことでスキルを手に入れたのだろう。植物でもスキル獲得が望めるとは思ってもいなかった。俺は「今はいらねーよ。」と思いつつ「これが麻痺なら、死にはしないか。」


そんな思いで、痺れる体を当分木に預けることにした。

コメディはもう少しお待ちを。

そのうち、ネタだけになる……かもしれません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ