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成長のにねん

 一体どうして時間が経つのはこんなに早いのでしょう…

 想定を超えてくるほどに長くなったので、

あまり区切りはよくないですが、これで一話にします。

「百七十にぃぃ! 百七十さぁぁん! 百七十よん! 」


 途切れ途切れで、苦しそうに数を数える声が部屋にこだます。


 きれいに整頓された部屋で、クローゼットにはYシャツと学ラン。机の空きスペースにはフィギュアや模型。プラモデルがきれいに陳列されていることから、この部屋の持ち主は整頓ができる男の子なのだろうと予想できた。


 そんな綺麗な部屋の持ち主が、先ほどから聞いていて苦しくなるうめき声をあげ、腕立て伏せをしてる男の子である。

 歯を食いしばる少年は不思議と神々しく、母性を持ってみるとかわいげもあった。

 彼の肉体は今も筋トレの真っ最中なだけあり、汗で体に張り付いた服の上からもたくましさを感じることが出来る。



 あの事件から二年がたった今日。あの事件の当事者かつ、この部屋の持ち主である、小村 紫砂斗(コムラ シサト)は、二年前にできた目標を達成する準備を着々と進めていた。


 二年間で世界中では、不可解な行方不明事件が多発していて、世界全体の社会問題となっていたが、一向にその原因はつかめず、対策のしようがないと判断されていた。


 紫砂斗がこの二年間で集めた、怪物に関する情報はノート数十冊にものぼり、怪物についてかなりの物知りとなっていた。


 ここまでため込んだ情報は、事件後一度だけ警察へ提供しようとしたが、やはりまともには取り合ってくれなかった。相談した時はとてもまじめに対応してくれたように感じたのだが、後日母経由で精神科を紹介されたのだ。


「九十八! 九十九! 三百!

 ……この後、見回りもあるし、今日はこのくらいでいいか。」


 今日は筋トレをここらでやめるようだ。紫砂斗は脱衣所に向かい、シャワーを浴び始める。お風呂の壁についている、ガスのスイッチや湯船の温度などを調節できるモニターには18:00と表示されていた。


 モニターの表示が丁度18:15になるころ、紫砂とは体を拭き脱衣所を出た。そのまま服を着て、厚手のコートを羽織ると、誰もいない家の中に声をかけ玄関を閉める。


 外はすでに薄暗く、紫砂斗が羽織っている真っ黒なコートが闇と同化し、姿が見づらくなった。


 紫砂斗はこの二年で完全にテンプレートとなった、巡回経路を進み、町を隅々まで観察する。この巡回経路は曜日ごとに違うため、毎日すべての道や地区を調査できるわけではないが、それでも調査は進んでいた。


 家を出てしばらく住宅街を進むと、一つの曲がり角に差し掛かったところで、なにか大きいものが動く気配を感じた。


 積み荷を降ろすトラックや、引っ越し業者ということもあり得るため早とちりはいけない。紫砂斗はコートのフードを深々とかぶると、気配を感じた道を覗いた。


 道の幅は比較的大きく車二台がギリギリすれ違えるぐらいはある。そして紫砂斗から三十メートルほど離れた場所に、乗用車1.5台分ほどの大きさを持つ影が見られた。街灯が照らすその姿はショウリョウバッタの形を模していた。向こうは紫砂斗の存在に気が付いていないようだ。


 調査を開始した当初、紫砂斗は怪物の種類はネズミだけだと考えていたが、調査を進めるにつれ、虫を始めとした無脊椎動物から、ネズミの様な脊椎動物など本当に多種多様な生物がいることが分かったのだ。


 紫砂斗は無駄だとは思いながらも、スマホを取り出し怪物の姿を写真に収める。


 紫砂斗がこの二年間で学んだことの一つに、怪物は何故か写真や動画などの映像系には絶対に映らない。というものがある。写真にさえ収められれば、CGだと疑われつつも、少なからず信じてくれる人はいてくれるはず。しかし何度試してもカメラにその姿を映したことは一度もなかった。


 そして今回も予想通り怪物の姿は、画面越しには映らない。ただ不自然に影が形成された道路が映るだけだった。


 紫砂斗は一息つくと、コートのポケットから細く赤いものが束ねられているものを取り出した。そしてマッチをズボンのポケットから出し、擦って火をつける。


 何度やってもこの瞬間は緊張するな……


 紫砂斗は赤い束__爆竹に火をつけた。そしてそのまま怪物がいる方へと投げつける。

 街灯を超えるほどの光を一瞬放ち、爆竹は破裂した。日が沈んだ街にはうるさすぎる音が辺りにとどろく。無論ただの爆竹であるので、怪物にダメージは入らない。ただ怪物の注意を引き付ける目的と、周辺の人々への注意喚起である。面白半分で近づく人もいるかもしれないが、警戒心を引き出すことは出来るはずだ。


 その音を聞いた怪物は、紫砂斗の方へ向き直った。分かりずらいが目の焦点は紫砂斗に向いている。紫砂斗は怪物から目を離さないように、隠れるのをやめ道の中央へと立った。コートのポケットに手を入れ、ポケット内の装備をすぐに切り替えられるように準備した。


 怪物は紫砂斗の動向をじっと確認するが、突如として足を延ばし、高く飛ぶと羽を広げた。周囲に突風が巻き起こり、木々が揺れる。怪物は一瞬で一戸建ての屋根を軽く超えるほどの高さ至ると、そのまま紫砂斗目掛けて飛んでくる。踏みつぶすか蹴るか。どちらにせよ紫砂斗に危害を加えようとしているのは間違いない。


 この二年間で紫砂斗が学んだことの一つに、怪物はどんな種類であろうが必ず、人間を含めたすべての生物を攻撃対象としてみる。というものがあった。


 そしてこいつも俺を狙ってきた。またデータの信憑性があがったな……。


 紫砂斗は冷静に志向を巡らせる。


 写真には写らなく、俺を襲ってきた。ならば次にデータを取るべきことは__怪物の強度である。


 紫砂斗は飛びかかってくる怪物の正確な位置を確認すると、ポケットから収縮したアピアリングケーンを取り出した。


 アピアリングケーンとは金属の薄く細長い板を巻き、バネ状にしたマジック道具である。普段は縮めた状態でストッパーを付け、使うときはそれを外すと、一瞬で伸びて棒状になり、あたかも突然棒が現れたと見せかけることが出来る。それに紫砂斗は改造を施し、強度を上げ、刃などを仕込み武器にしたのだ。


 怪物は鋭いミサイルのように紫砂斗に降ってくる。紫砂斗はアピアリングケーンを握りしめると、伸びる先を怪物に向け、ストッパーを外した。


 紫砂斗の手から放たれた金属の棒は、風を切りながらまっすぐに怪物の胸へと飛び込んでいった。怪物の加速力と、棒の加速力が相まって互いの距離は一瞬で縮まる。


 刃がついた先端が怪物の胸に突き刺さるーーかと思われた瞬間、棒は弾かれた。

 辺りに鋭い金属の衝突音がこだまし、アピアリングケーンは明後日の方向へと飛んでいく。


 怪物は減速するどころか、加速し、紫砂斗へ襲い掛かった。

アピアリングケーンは実在するマジック道具です。

私も持っていますが、一度親指の表面をえぐり取られたことがあります。

もしもやってみたいのであれば、プラスチック版で練習してから金属バージョンを使うことをお勧めします。

マジックエクスプレスⓇ さんのリンクを張っておきます。


https://www.magicexpress.jp/SHOP/Q6131.html

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