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8/12

遭遇とけつい

Ver.1.1

一度修正しました。

今日は上手く書けないです。

時間がある時に修正する可能性が高いです。

「今日は俺が買い物に行くよ」


 紫砂斗(シサト)は台所にいる母に手伝いを申し出た。


 紫砂斗が二か月ぶりに学校に登校した日。泣きながら帰ってきた紫砂斗を見てしまった母は、紫砂斗にもうしばらくの引きこもり生活を提案した。すでに立ち直れないほどの傷を心に負った息子が、これ以上ストレスを感じたら、一生傷が治らないかもしれない。そう思っての判断だ。

 紫砂斗はそれを全力で断り、明日も学校へ行くと宣言したが、紫砂斗の母は目に涙を溜めつつ、その言葉を静かに否定したのだ。

 こうして再び学校には通わなくなってしまった紫砂斗だが、母が提案したように引きこもりになったわけではなく、こうして己の罪悪感を軽減する目的も込めて、家事の手伝いをするようになった。だからこうして買い物等も進んで自分から引き受けているのだ。


「あらそう? じゃあこれを頼めるかしら。」


 最初から用意していたのだろうか。紫砂斗の母は息子に、買うものが書かれたメモ用紙を手渡す。


「わかった。」


 紫砂斗は紙を受け取ると、行ってきますの声と共に家を出た。

 秋も終盤に差し掛かり、これから冬。そんな時期である今日は、日の沈みが早く、紫砂斗が家を出たころには辺りはもう暗くなっていた。




-------------------------------




「もうこんな時間かぁ…」


 やけに眩しく感じるスーパーの店内から出てきた紫砂斗は、ポケットからスマホを取り出すとそう呟いた。逆の手にはレジ袋がぶら下がっており、中には母から頼まれた品々が入っている。


「今から帰ります…っと」


 紫砂斗はメッセージアプリを用い、母にお使いが終わったことを連絡すると、スマホを再度ポケットに入れ、帰路に就いた。母から頼まれたものは、野菜が人参、ジャガイモ、牛肉、玉ねぎ。野菜以外の物とはカレールーとその他生活用品となっている。この品々から見ても十中八九今日の夕飯はカレーであろう。


 じゃあ一体お母さんは、俺が出発する前に、台所で一体何をしていたのだろうか。


 そんなことを考えながら、静まり返った住宅街を歩く紫砂斗

 人通りが少なく不気味に感じる夜の住宅街に、紫砂斗の心には若干の恐怖心が芽生える。早く帰ってカレーを食べたい。と、歩くスピードを速めた紫砂斗の耳に……


「グチャ…」


 何か聞き覚えのある音が入ってきた。その音を聞いた途端、速足だった紫砂斗が止まる。

 何かがつぶれるような音。耳に入ってきた不快感に顔をしかめる音。そしてそれは、紫砂斗が友人たちと一生の別れを告げた日、親友のスマホから流れた音であった。


 紫砂斗は突如として過呼吸になり、立っていられなくなる。その場に座りこむと、肩で息をしながらゆっくりと地面に座り込み、どこから音が発せられたかを探った。


「きゃぁぁぁぁぁ!」


 その悲鳴は紫砂斗がいる少し先の、分かれ道の一本から聞こえてきた。それは紫砂斗のいる場所からほど近い。


「はぁ。はぁ。」


 紫砂斗はなんとか呼吸を整えつつ立ち上がる。そして、ゆっくりと歩くと分かれ道の直前まで行った。壁から顔だけ覗かせるようにして、その道路を覗く。


「や、やめて… 殺さないで!」


 まず視界に入るのは、座り込みつつ泣き叫び、ヒストリックな声を発している女性。服はところどころ破れ、何かに命乞いをしている。そしてその女性が対峙している相手は……


「じゅぅぅぅぅぅ!」


 あの日紫砂斗達が逃げ回った、ネズミの怪物であった。

 先ほど食べた人間の物であろう血が口周りにべっとりと付き、その口から糸を引いたよだれを地面に垂らしている。その姿は相変わらず不快感と不気味さの塊のようなフォルムをしていた。

 紫砂斗は怪物の姿を見た直後、衝撃と恐怖と様々な感情とが混ざり合い、金縛りのような状態になる。呼吸頻度はより激しくなり、もはやうるさいと感じるほどに心臓の音共にビートを刻んでいた。怪物に自分の存在を知られるわけにはと、手で口を覆いはするが、それでも視線は怪物の方へくぎ付けになり離せない。紫砂斗の頭にあったのは、恐怖と絶望と、女性はもう助からないということだった。


「や、やだ… しにたくな…「グチャ!」」


女性の最後の断末魔は、最後まで紫砂斗の耳に届くことは無かった。怪物が次に襲うとしたら自分。その考えは恐怖で動けなくなった紫砂斗の体をつき動かす。


「………」


紫砂斗は覗いていた顔を引っ込めると、息を殺しつつ、怪物が自身の方へやってこないか。自分の存在に気が付いてないかを確認した。


「ジャリ… ジャリ…」


 しばらく紫砂斗が身を隠していると、怪物のいる道から不可解な音が響いてきた。


「ジャリ… ジャリ…」


 なにか固いもの同士をこすりつけたような音。やすり同士がお互いを削り合うような音は一向に止む気配がない。固い毛と舌で毛繕いでもしているのだろうか。

 紫砂斗は怪物が自身の存在に気が付いていないと事を察し、安堵するとともに、同時にわいてきた好奇心には勝てず、再び怪物がいる道を覗いてしまった。


 不可解な音を出していたのはやはり怪物であった。怪物はその巨大に体に似合うような巨大な舌を出し、コンクリートの道路をなめていた。音の正体は、ざらざらで頑丈な舌と、アスファルトの出っ張りがやすれて出てきた音であった。



 一体なぜこんな行動をとっているんだ?



 紫砂斗は疑問を抱き、より怪物の行動を注視する。この時には紫砂斗の心は恐怖という感情を忘れかけていた。

 紫砂斗は一向に怪物が別の行動をとらないことをいいことに、警戒しながらも熟考を始める。


 執拗に地面を舐めているが、あの場所に何か特別なヒントでも隠されているのか?


 紫砂斗は池袋事件の報道を思い出す。



『血痕等を含めた証拠は何もなく、完全な行方不明事件として、警察は捜査を行っております。』



 このような内容だったはずだ。だが紫砂斗の中にある記憶は、報道内容とは大きく異なっていた。被害者たちは皆、体の部位を引きちぎられたりしたのだ。血が飛び散っていないわけがない。

 だがもし警察が報道陣にこの事実を隠していたのだとしたら、正式に設置された捜査本部の捜査対象が"行方不明事件"という事実とは異なる名前には出来ないはずだ。

 そして紫砂斗はある可能性にたどり着く。それは怪物が事件の証拠を消している。というものだった。

 すると今怪物がとっている行動も、地面に付いた血痕を取るため。と言われれば合点がいく。


「証拠となる血痕とかは、怪物が舐めたりして証拠を消していたんだ…」


 紫砂斗は自分の考えがまとまると、最後に怪物をそっと見ると、一目散に駆け出す。もちろんこの行動は死にたくないという恐怖からくるものだったが、自分が手に入れた情報を早くメモしたいという考えも少しはあったのだろう。

 しばらく紫砂斗は汗をかきつつも全力で走り、そして無事に家へと到着した。

 その道中何度か様子を伺うが、怪物が追ってきている気配はなかった。

 紫砂斗は心から安堵しつつも、何でもないという表情を浮かべて家の中へ入った。これ以上心配させたくないという思いから、できるだけ笑顔で母に買い物袋を渡すと、すぐに自室へと駆けこむ。

 紫砂斗の心は数か月ぶりに晴れ渡っていた。それは怪物に再度遭遇したことにより、紫砂斗のなかに新たな目標が生まれた為だった。


 紫砂斗は自身の勉強机に設置されている棚から、新品のノートを取ると、題名に文字を書き始めた。


『怪物に関して』


そう書いた紫砂斗の新たにできた目標は、いったい何なのだろうか。

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