友人のほんね
この話は番外編となります。興味のない方は読み飛ばしてください。
誤字脱字チェック等の修正が完全には終了してません。
とりあえず一日で6000文字近く書ききった僕をほめてください()
(我ながらやや適当なところが見受けられます。
おすすめはできないかも?)
視界がぼやける中、顔を真っ赤にした紫砂斗エスカレーターへたどり着いたのが見えた。再び紫砂斗と目が合う。そこで俺は中指だけを出していた手の形を変え突き出すのを親指に変えた。
ここで涙を流してはならない。満面の笑みであいつを見送んなきゃ。そうじゃないとあいつは俺を見捨てたことを一生後悔してしまう。これが俺の望みだったんだ。この結末を迎えることが俺にとっての幸せなんだ。そう見せつけてやらないと。
そうは思ってもこれから死ぬんだという恐怖と、足を無くした痛みと、もはや唯一となった友人が助かった安堵から涙は止まらなかった。だからせめてと思い友人に向け最高の笑顔を見せつける。これからの人生へのエールと今までの感謝を込めた。最高の笑顔を。
「ヂュゥゥゥ!」
紫砂斗が逃走したのを見つけたネズミが、低くうなり、紫砂斗へと狙いを定めた。
「ばぁぁか。もう間に合わねぇよ。」
怪物へと話しかけるが、当然無視。怪物は俺を捨て紫砂斗を追おうと走り始める。
「行かせるかぁぁ!」
俺は最後の力を振り絞ってその怪物のしっぽを掴んだ。
「ジュゥゥゥ!」
怪物はしっぽの痛みを感じたのか、悲鳴を上げれど走りをやめようとはしない。当然力負けし俺は引きずられるようになるが、尻尾は離さない。もう大丈夫だとは思うが少しでも友人の生存リスクを上げるためだ。少しでも怪物の速さを下げれればいい!
俺は悲鳴を上げつつもできる限りの抵抗をする。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
体があちこちに打ち付けられ、全身に激痛が走る。何度も意識が飛びそうになるが、何とか手ははなさずにすんだ。 そして数秒後、怪物は突如として走るのをやめた。そこで俺は、紫砂斗がこの施設から脱出したことを理解する。
「はは…… やったぜ! 最後の最後で実質俺たちの勝ちだぁ!」
友人の生存が確実となった今、自然に笑みが零れてきた。
そんな中俺の頭に数分前のことがよみがえる。
「俺はエスカレーターを使った方がいいと思うぜ。 エレベーターは怪物と対峙した時の危険度が高すぎる。待ち時間の間に匂いでも嗅ぎ付けられたら死亡だ。 それに……
エスカレーターなら、片方が捕まってもその片方を食している時間でもう片方が逃げらる可能性が上がる。」
「……………………」
俺がしたこの提案に紫砂斗の最初の答えは沈黙だった。
「分かった。エスカレーターにしよう!」
少しの沈黙後すぐに答えを出してはくれたが、 片方が食べられている隙にもう片方が逃げる。 という内容の、この提案には触れてくれなかった。
そして俺は気が付く。“俺がもし怪物に食われてたとき、紫砂斗は俺を置いて逃げてくれない。”ということに。
俺の気が付きは、予想ではなく確信だった。今まで紫砂斗と何度も苦楽を共にしてきた経験から、紫砂斗は友人が危機にさらされた場合は何があっても助けようとすることが分かっていた。それはおそらく自分の身を犠牲にしてでも。
紫砂斗の行動に確信を持った俺は強く恐怖し焦った。万が一怪物と対峙した時、逃げ切れる可能性があるのは足が速い紫砂斗。そして生き残るべきも紫砂斗だと心から思った。だがもし俺が捕まったことで、逃げ足を止めてしまったら…… 二人とも死ぬ最悪な結末になってしまう。
そんな考えのもと俺にできることは、ここ数分で紫砂斗にできる限り嫌われることだった。それもほんの少し嫌われるのでは意味がない。心から嫌われ、命の危険にさらされた際に見捨てられるほどにだ。
だがこうしてゆっくりと作戦を立てている暇もない。
「OK! もう怪物が俺らに近づいているかもしれないし時間はない! 行くぞ!」
俺は紫砂斗についてくるように指示し、先陣を切ることにした。もし進行方向に怪物がいた場合は俺が犠牲になればいい。後ろから追いかけてきた場合も紫砂斗が気が付きさえすれば、運動神経がいいあいつのことだ。上手く逃げてくれるだろう。
俺はエスカレーターに向かってダッシュする。あとに続く足音から紫砂斗が付いてきてくれていることは分かった。走り始めてすぐに怪物の声が聞こえたが、そんなのに構っている時間などない。
「「うぉぉぉ!」」
自然と紫砂斗と俺の声が重なる。
若干走り、もう少しでエスカレーターということで俺の視界に、巨大なネズミがこちらに向かってきている様子が映った。
「うわぁぁぁ!」
俺は少し大げさに悲鳴を上げ、紫砂斗にその存在を知らせる。そのままエスカレーターに飛び乗ったが、
(下のフロアにも人がいなかったし、奴はエスカレーターを使って移動できることは明白。今のペースじゃ紫砂斗が追い付かれる!)
俺はそう判断を下し、二階で降りることにした。そのままダッシュでUFOキャッチャーの間を縫うように逃げる。怪物は体がでかいため機械を使えばうまく振り切れるはず。そう考えたのだが紫砂斗は俺の後ではなく自分で逃げ始めてしまった。
(これではどう転んでも最悪の結末を迎えてしまう!)
俺は覚悟を決めると、紫砂斗たちがいる方へと方向転換する。頭の中で確実に自分が助かるルートが浮かんだが、そのルートは無視し紫砂斗のいる隣の通路まで出てきた。これならば怪物にもガラス越しに俺の姿が映り、狙いを俺に変えてくれるはずだ。
「紫砂斗! 悪いが俺はこの隙に脱出する!」
俺は紫砂斗に嫌われるようそう宣言した。そして怪物へとめがけて走り出す。
「佐藤!」
紫砂斗が俺の名を呼ぶが、あえて俺は無視をすることにした。
俺が怪物の視認距離に入った瞬間、怪物の目がこちらを向くのが分かった。俺はあえて怪物が追ってきやすいルートを選び逃げていく。
(今のうちに逃げてくれ!)
内心で紫砂斗に語りかけながら、意識はすぐ背後へと迫った怪物へと向いていた。できる限り時間を稼がないと。そう思った途端片足がなくなったような感触に陥った。
「え?」
自分でもよく分からないうちに転倒する。途端に押し押せる激痛。足がなくなったかのような。ではなく、実際に無くなっていたのだ。手術で切られたかのような綺麗な断面ではなく、えぐり取られたかのような。
あまりの激痛に声すら上がらない。気が付けば涙であふれていた。痛みに耐えつつも紫砂斗の様子を確認しようと顔を上げると、紫砂斗と目が合った。見る見るうちに目があふれ、足を止める紫砂斗。
「なんで止まるんだ! 逃げろ!」
そう声をかけたかったが、そんなことを言ったってあいつは引き返してくることは目に見えていた。
そこで俺は最終手段に出ることにした。紫砂斗は前におじいちゃんを亡くしてから、ふざけて使う「死」という単語に異常なほど嫌悪を示していた。もしあいつにそう言ったら、我を無くすほど怒るだろう。
ほかに手段があるとは思えなかった俺は、離れた場所でも見えるように中指を立て、「死ね。卑怯者」とできる限りの声で叫んだ。
こちらが伝えんとしたことが伝わったのか、紫砂斗の顔は真っ赤になり踵を返してエスカレーターへと走る。
(よかった……)
俺は心から安堵する。
そして現在へと至る。
紫砂斗という得物を無くしたネズミは、俺に向き合いなおした。
「ジュゥゥゥ!」
と唸り今にも飛びかかってきそうな勢いだ。
おれはがくごをぎめるど、めをづぶるど、ざいごにひどごとづぶやぐ……
「みんなぁ…… いままでありがど…グチャッ!!!!」
俺が最後に聞いたのは、俺の体がつぶれる音だった……。