恐怖のどうが
初回公開時と編集後で内容が多少変わっています。
『どうも~~!風里でございます!』
様々なYou○uberが、動画の挨拶で使う掛け声。漫才の初めによく用いられるこの挨拶の仕方は、You○uberを夢見る素人がよく真似するものだ。 風里も例外ではなくこの第一声から素人であることがよくわかる。
動画視聴を始めた 紫砂斗と佐藤は、そんな同級生の姿を見て恥ずかしくなったのか、スマホから少し目をそらした。
動画は風里が自撮りをする方式で進んでいく。風里の背景は視聴者である二人が丁度立っている場所だ。
動画の本題が始まる。
『本日はかくれんぼをしているんですが、この会場どこだと思いますか?』
風里は少し間を開けた。
『そう!池袋にあるラウン○ワンで~す!』
決め顔をしながら言う風里の痛々しさに、紫砂斗と佐藤の顔は真っ赤に火を噴いた。いくらイケメンであろうともやることによっては恥ずかしいのだ。
『今回の鬼はしさっちなんですが…どこに隠れようかな?』
「しさっちってなんだよ!」そんな突込みをする佐藤を紫砂斗は手で制する。 かくれんぼを早く終わらせたいという気持ちが強く、風里の言動のどこにヒントが隠れているのか。一言一句聞き逃さしたくないのだ。
その後数分にわたり、どうでもいい風里の一人語りを聞かされた二人。そしてやっと動画は二人が待ち望んだコーナーを迎えた。
「では早速隠れていこうと思います!!!」
そう告げた風里が向かったのは、車の様な見た目の個室でゾンビのシューティングゲームを遊べる機械の中である。カーテンがかかっている分ばれにくい。そう考えたのだと風里は動画で語った。
その情報を聞いた二人は早速行動を開始した。一か所に留まるよりも行動しながら動画を見て、情報を更新していく方が効率がいいと判断したためである。
幸い今日は人がとても少ないので、歩きスマホをしても迷惑をかける心配は少ない。そもそも長時間探し続け、あるいは待ち続けた二人にとって、周りへの迷惑を気にする余裕もなかった。
「シューティングゲーム機の中なんて、簡単に思いつく隠れ場所だろ?なんでチェックしなかったんだ?」
「人がいたら申し訳ないだろ? でも一度人の気配がなかったから確認してみた気もしたんだけどな…」
「じゃあ移動したってことか?」
「あの場所にスマホが落ちているっていうことは、そういうことなんだうな」
二人は風里がすでに移動している前提の会話をしつつも、シューティングゲーム機の方へ向かった。痕跡が残っている可能性も捨てきれないし、何も行動をしないのは時間を無駄にしている気がするためだ。
そして二人はシューティングゲーム機のカーテンの前に立った。
「じゃぁ、多分いないと思うが、いっせいの~せで開けるぞ?」
「早く終わらせるんだろ?」
「お、おい!」
佐藤が一緒に開けようとするのを完全スルーしカーテンを開ける紫砂斗。 二人の予想通り、風里はすでにこの場を去っていた。二人が入ってきたことを感知した機械が正面のスクリーンに映像を流し出す。
「やっぱいないか…」
少しだけ残念といった様子で二人は、プレイ席に座った。動画での進展があるまで座って動画を見るしかない。
二人は動画内で同じ場所に隠れた風里を見ながら、世間話を盛り上がらせていった。
そのまま数分が過ぎ…
『しさっちがなかなか近くに来なくて暇なので、仲間にドッキリを仕掛けつつ合流していこうかと思います!』
動画内で隠れるのに耐えきれなくなった風里が視聴者に対して説明をし、行動を再開した。
ドッキリ内容は風里が場所を知っている仲間のもとに行き、脅かそうというもの。あくびが出るような内容だが、かくれんぼを終わらせたい紫砂斗と佐藤にとっては朗報だった。現在の隠れ場所へのヒントにつながる可能性もあり、なにより固まって行動をしてくれていた方が、時間を短縮できる為である。
『じゃあしさっちに見つからないように、合流していきます!』
ひそひそ声で宣言した風里はシューティングゲームを後にする。物陰に隠れながら周囲を見渡し、ゆっくり券売機へ向かう風里。その券売機は少し前に佐藤の導きによって確認した場所だ。
ここで風里と合流されていたから、いなかったのか! そう考え、悔しがる二人だったが、動画内でも券売機周辺に人影はなかった。
『あれ?ここに隠れているって、始まる前に聞いたんですが、いませんね…』
風里は不思議がるが、気を取り直して次の場所へ向かうようだ。
『次の俺が知っている場所へ移動してみます!』
「なんかデジャヴだな」
「既視感あるよな」
紫砂斗と佐藤は笑い合った。
「風里もおんなじ状況ってことは、風里もハブられたのか?」
「風里に限ってそれはないだろ…」
「あいつは首謀者側だもんな」
疑問も浮かぶが、動画に集中する二人。そんな会話の間に風里は次のポイントへ着いたようだ。
だが……
『あれ?ここにもいない?』
風里は二人が先ほど確認した場所を同じルートで辿っていく。
『ここにも? ここにいるって言って宣言していたのにな……』
動画初心者ではなく風里の口調になりつつ探し続け、やがて二人が風里のスマホを見つけた場所。つまりはじめ風里が動画撮影を始めた場所へと行きついた。
『なんでみんなはいないんだ?』
そう呟くと風里は、スマホは落とすこともなく、そのままそのフロアを突き進んだ。二人が知らなかった隠れ場所がこの先にあるのだろう。
「そろそろ移動するか」
二人は進展があることを予想し、シューティングゲーム機を後にした。そのまま動画内で風里がいる場所を目指す。
「それにしても、いつ風里はスマホを落としたんだ?」
佐藤が足を進めながら、考えた疑問を口にした時だった。
『「「 あ! 」」』
動画内の風里と、動画を見ている二人の声が重なった。その声は動画内に三人が捜し求めていた友人たちの一人が映ったことによる、驚きの声である。
二人は歩みを止め動画に見入り、動画内の風里は、その友人の名前を呼んだ。
『お~い! 木村!』
木村。紫砂斗、佐藤と同じクラスで、今日の友人グループの中でも特に紫砂斗と仲がいい友人だ。佐藤と見た目の雰囲気は似ているが、佐藤ほどフレンドリーではない。しかし紫砂斗とは馬があったのか中学入学当初から仲が良く、その関係で紫砂斗や風里たちのグループでよく遊び、今では風里含めグループ全員と仲が良くなっている。
『……』
風里の呼びかけに木村は反応を示さなかった。声を返さないだけじゃないく、見向きすらしない。画面越しに見ると、ただ懸命に何かから逃げようとしているように思えた。
『木村?』
動画内で木村を追おうとした風里も、木村の様子がおかしいことに気が付いたようだ。
走る木村を追いかけ始めた。映りを意識しなくなったため、画面はブレにブレ、見ていた二人は事の結末を心配しながらも、気分が悪くなってしまった。
そして突如として映像は床に迫る。
『ガンッ!』
鈍い音がし同時に画面は黒く、何も映らなくなった。これは風里がスマホを落としたことによるものと、二人が気が付くまで数秒を有した。
映像はないが音声は聞こえたままだ。
『お、おい! どうしたんだ⁉』
木村に追いついたらしい風里の声が聞こえる。そしてやっと木村がそれに答えた。
『み、みんな殺された…』
『は?』
風里は聞き返し、木村の声は続いた。
『説明するまでもない。あいつからは逃げられないんだ。』
『どういうことだ?』
強めにいう風里。
『この施設内に怪物がいるんだ。それでみんな殺された……。』
内容は冗談と考えられるものだったが、木村の出す声色でそれが冗談でないと紫砂斗と佐藤は判断した。
動画内の風里も同じ考えのようだ。本気で心配し、声を荒げる。
『みんな殺された? 真面目に言え! 本気で心配してんだ! 殺人鬼か? 犯罪者でもいるのか?』
『でかいネズミの怪物なんだ……。あいつは素早く固く残酷。本物の鼠のように鼻が利き、どこに隠れてもすぐに見つけ出す。すぐにここにも来るさ…』
『正直意味が分からない! みんなが殺されたことも意味が分からないし、その原因が怪物だなんて冗談にしか聞こえない。だが、もし本当に危険な状況であるなら、ここから脱出するべきだ!』
風里は真剣に自分の意見を述べたが、それに対して木村が返した言葉は一言だけだった。
『きた……』
『ジュゥゥゥ!!!』
不快ななにかの鳴き声がする。
『グチャ!』
『は?木村?』
聞くに堪えない、何かが潰された音とそれに戸惑う風里の声。
『うわぁぁぁ! ネズミのばけ…』
『グチャ!!!』
再び何かがつぶれる音がした後、その後人間の声は聞こえなくなった。
『ジュゥゥゥ!!!』
太い鈍い鳴き声。一声聞こえるとスマートフォンは何の音も発しなくなった。
「……これ…嘘だよな?」
第一声は佐藤だった。
「これってみんなが仕掛けたドッキリだよな? 実際に怪物に食われるところ映ってなかったし!」
必死に紫砂斗に問いかける佐藤。紫砂斗は同意するように頷く。現実逃避をする二人だったが、二人とも頭の中ではどこか理解していた。この施設にネズミの怪物がいること。友人たちは皆その怪物に殺されたこと。そして自分たちが命の危機に瀕していることを。
二人は互いに何もしゃべれなくなる。
『……じゃあ俺は最上階から探すわ』
『わかった。じゃあ俺は一階から。』
二人がしゃべらなくなってすぐに、スマートフォンが再度音声を発する。それはドッキリで用意した映像では再現不可能な、風里のスマホを発見した時の二人の会話だった。
『これって…風里のスマホ……?』
『まっさかぁ?』
『なんで、風里のがここに?』
『どいうことなんだ?』
ゾンビのシューティングゲームというのは、
https://armsweb.jp/report/212.html
↳こちらのリンクのゲーム機に近いものと構想しています。