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平和なひごろ

 真っ暗闇な部屋。締め切られたカーテンのわずかな隙間からわずかに漏れる光が、微小ながらも確かに朝を知らせていた。


 きれいに整頓された部屋で、クローゼットにはYシャツと学ラン、机の空きスペースにはフィギュアや模型、プラモデルがきれいに陳列されていることから、この部屋の持ち主は整頓ができる男の子なのだろうと予想できる。


 そして、この部屋の持ち主は、部屋の中央に構え、存在感を放つベットにいた。すやすや寝ている少年の様子は、はたから見ると神々しく感じられ、母性を持ってみるとかわいげもあった。


 あまりに気持ちよさそうに寝ていて、起きる気配がない少年は寝返りを繰り返している。


 少年が、大体五回目の寝返りを打った時、少年の耳元で沈黙を貫いていたスマホが、けたましい音を立て鳴り響いた。それはアラームではなく着信音だった。


 『風里(カゼサト)』と呼び出している人の名前が表示された。すぐに音は収まったが、その後立て続けに何度も同じ相手からの電話ラッシュが始まる。しかしこの少年はこの音を耳のそばで聞いてもなお、起きる気配などない。

 電話のラッシュが収まり、スマホの画面が通知センターへ切り替わると、10:00の文字とLINEの通知が溜まっているのが確認できた。


 スマホはその後、その表示が13:00になるまで、持ち上げられることは無かった。


☆★☆




「ごめんなさいでした……」



 池袋のラウン○ワン 二階。クレーンゲームが陳列し、にぎやかな音を鳴らす中、複数名の男子に頭を下げる少年の姿があった。その少年とは、つい先ほどまで、部屋で寝ていた少年である。


 その謝罪の言葉を聞き、男子たちの一人が口を開く。



「別にいいけど、何があってこんなに遅刻をしたんだ?」


「単純に寝坊だよ。

目覚まし代わりにスマホを枕に置いてたんだけどなぁ」


紫砂斗(シサト)は相変わらず時間にルーズだよな」



 そう言われて、少年は苦笑した。少年の名は紫砂斗(シサト)と言うらしい。


 紫砂斗は男子たちに向かって再度謝罪の言葉を入れる。



「本当にごめん。風里(カゼサト)も沢山電話させて悪かったな。」


「まったくだな。あんなに電話とメッセージを送らせやがって。通信料を返しやがれ。」



 風里と呼ばれた男子は口を尖らせつつも笑みを浮かべながら答えた。彼こそが、紫砂斗のスマホに電話ラッシュをけしかけた張本人である。


 風里はいかにもな野球少年で、その性格から男女問わずに人気がある。かわいげを持つ紫砂斗と、男らしくかっこいい風里のペアは、通りがかった人間が思わず二度見してしまうほどには破壊力がある。

 今もUFOキャッチャーの影から一組。二人の様子を観察する女子集団がいた。そんな様子を見るのは、紫砂斗や風里の友人にとって、面白くはない。



「紫砂斗はもう許すとして!」



 友人の一人が、紫砂斗、風里の間に割って入るように演出しながら、女子たちから二人を隠し、話題を変えた。



「この後どうするんだ?」



 友人組は、紫砂斗が来る前には予定していた遊びを大方終わらせていたのだ。と、いってもボーリングだけではあるが、それにより各々が持ってきた軍資金の九割は使い、それに加えた食事代により、財布にほとんどお金が残っていない状態になっていたのだ。


 どうしようかと首をひねっていると、風里が思いついたとばかりに口を開いた。



「俺的には… ラウン○ワンでかくれんぼしたい!」


「「は!?」」



 紫砂斗以外の全員が、聞き返すが風里の目は輝いている。



「いやぁ。鬼ごっこでもいいんだけどさ… それだとお店に迷惑がかかっちゃうだろ?」



 風里が意気揚々と説明するが、誰一人としてその説明を受け、納得した顔をしたものはいない。



「いや… そもそもなんでかくれんぼとか鬼ごっこが出てくるの?」



 皆に浮かんだ疑問を、紫砂斗が代表するように問うと、風里が自身を持った顔で説明する。



「紫砂斗がいない間に、俺らはほとんどお金を使いきっちまった。って言っただろ?

だからお金を使わない遊びを考えないといけない。

 でもみんな 遊び道具なんて持ってきてないし、何も使わない遊びを探す必要がある。

 だったら鬼ごっこ系統の遊びをするっきゃない! ってことだよ」



 自身に満ち溢れ笑顔な風里の説明を受け、納得してしまった男子たちは頷き賛同する。ただ紫砂斗はその意見に、素直に賛同できなかった。



「俺もあんまりお金を持ってきてないから、お金のかからない遊びっていうのは賛成なんだけど、お店でかくれんぼでも、お店に迷惑じゃない?」



 紫砂斗は迷惑だろうと風里に意見したが、風里が口を開く前に周りの男子 数人が口を開き、紫砂斗の説得にかかった。



「大丈夫だって。怒られたら止めればいいだろ?」


「別に騒ぐわけでも、走るわけでもないんだから、そんなに迷惑にもならないって!」



 そう言われると、紫砂斗は遅刻した負い目を感じていたこともあり、頷くしかない。



「よし! じゃあ決まりだな! 鬼はどうする?」



 風里がウキウキした様子で話を進める。

 風里は質問の答えが返ってくる前に、自分で結論を下した。



「やっぱり…… じゃんけんだな!」

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