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脅威なからす

ね、眠くて最後無理やり閉めちゃいました……。

「かぁぁぁ!」


 聞いたこともないようなボリュームの鳴き声は、静かな住宅街によく響いた。


 その鳴き声はあまりにも下品で、不快感を抱きやすく、紫砂斗(シサト)は恐怖心も相まって吐きそうになった。


 その声の持ち主。カラスの怪物は、街の上を旋回している。特に紫砂斗と美奈(ミナ)の二人がいる辺りの上を主として飛んでいる気もした。


 紫砂斗は美奈の様子も確認するために、かなり遠くにいる美奈を一瞥すると、美奈は怪物など気が付かないとばかりに早歩きでさらに紫砂斗から遠ざかっていく。紫砂斗はその図太さに動揺した。



 (なんで怪物に対して注意すら向けないんだ? まさかさっきの鳴き声が聞こえなかったのか? いや、あのボリュームで聞こえなかったなら、それは難聴だろう。)



 そうこう考えている間にも、紫砂斗と美奈の距離は開いていく。距離が開くということは、紫砂斗が美奈を守れる可能性が低くなるということ。紫砂斗は万が一に備えようと駆け出した。


 距離は相当広がっていたらしく、追いつくまでにはまだかかりそう。長距離の移動は、バッタ型怪物との戦闘で疲弊した紫砂斗の体に負担が大きかった。


 紫砂斗が早く追いつこうと必死になっていると、再び空から、



「かぁぁぁ! かぁぁぁぁぁぁ!」



 と、声が降ってくる。紫砂斗が慌てて視線を空に向けると、怪物が羽を広げ滑空し、地上に向かって降り始めたところだった。とうとう攻撃を仕掛けてきたのだ。角度を考えるに狙いは確実に美奈である。



竹内(タケウチ)さん!」



 紫砂斗は走りつつ、内臓を吐き出す勢いで美奈の名字を呼んだ。怪物と美奈の距離は五メートルも残っていない。


 それなのに美奈は紫砂斗の声が聞こえたのか走るのをやめ、その場に立ち止まってしまった。


 息をのむ紫砂斗だったが、むしろ立ち止まったおかげで怪物の標準からずれたようだ。怪物は美奈の進行方向少し前辺りに突っ込んでいった。


 周囲に爆撃音のような音が(とどろき)、爆風も起きる。


 美奈はその爆風に押され、紫砂斗側に数メートル吹き飛んできた。尻餅をつき、立ち上がれないようだ。


 紫砂斗は残りの数メートルを走り切ると、美奈に手を貸し助け起こした。



「大丈夫?

「だ……大丈夫。

で、でも紫砂斗君。さっきの……な…なにが起こったの?」



 美奈はだいぶ弱った様子で紫砂斗に問うた。紫砂斗は出来るだけ口調を優しく答える。



「カラスの怪物が、竹内さんを狙って攻撃してきたんだよ。竹内さんも怪物を見たでしょう?」



 だがその優しい対応に反して、美奈の態度は冷たかった。



「助けてもらった身でこんなことを言うのはなんだけど、まだ私はあなたを許せないし、これからもしばらくは許せないと思う。

 しかも、私があれだけ強く言ったのに、また同じような冗談を言う。正直嫌悪の感情すらあなたに抱くよ。

 それに、不発弾が爆発したときは稀に、近くにあった別の不発弾に誘発して爆発することがあるって聞くよ。冗談なんて言うんじゃなくて、新しい爆発を警戒するべきだと思うな。」



 その態度を見て紫砂斗は、不快感などではなく疑問を抱いた。


 怪物は美奈目掛けて飛んでいき、彼女の目の前に飛び込んでいったのだ。彼女の視界に怪物の姿がほんの少しも目に入らなかったのはおかしいし、ましては不発弾による爆発などと考える訳がない。



「怪物を見なかったの?」



 紫砂斗はダメもとで聞いてみたが、その問いの答えが返ってくることは無く、美奈の眉間にしわができるのみの結果に終わった。



「と、とりあえず逃げた方がいいよね!」



 紫砂斗は美奈の手を取ると、元来た道を走り出す。少し乱暴ではあったが、紫砂斗の意識は怪物からできる限り離れることにしか向いていなかった。


 二人が走りだした直後、二人すぐ背後の地面はコンクリートがめくれるように持ち上がるようにして割れ、怪物が飛び出してきた。パラパラと砂や細かい石が二人の頭上から降り注ぐ。


 ここまではっきりと己を主張する怪物だったが、やはり美奈は怪物の存在に気が付いていないようだ。



「きゃぁぁあ!」



 この一連の事件の原因を、不発弾だと勘違いしているらしいが、それでも恐怖心を抱いて逃げているのでまだいい方。危機的状況で正しい判断をするためには、状況を理解しておくことが重要不可欠となってくるのだ。


 爆発のような衝撃と共に降ってくる、怪物の猛攻と衝撃波を何とか避けつつ、二人は狭い路地へと駆けこんだ。



「なんでこんなに連鎖して爆発が起こってるの!?」



 美奈が今もなお、路地の外で連鎖する爆発(怪物の攻撃)の様子を見つつ、叫ぶように疑問の声を上げた。



「だから怪物が追ってきてるんだよ!」

「はぁぁ?」



 紫砂斗がどれだけ強く説明しても、美奈が愛物の正体を認識することは無かった。だがそれも当然とすらいえる。現にこの状況になっても、怪物の存在を信じる人間は一握りだろう。そこで紫砂斗は信じてもらうことは諦めた。



「分かった。信じなくてもいいから、今は俺の言うことを聞いてほしい。これ以上目の前で知り合いが殺されるのを見てられないんだ!」



 紫砂斗がこの上ないほど真剣に言葉を言いきった途端。再度大きな破壊音とともに、紫砂斗たちの隠れている路地の半分がえぐれ、景色が開けた。それでも二人は真剣に見つめ合う。そのまま数時間にも思える数秒が過ぎ……



「分かった。信じてみる。」

「本当?」



 美奈が折れ、怪物が存在すると仮定することにしたのだった。



「怪物の特徴は?」

「今回のは、カラスみたいなやつ。」

「分かった。意識して探してみるわ。」

「ありがとう。でも……。」



 紫砂斗が礼を言いつつ空を見上げると、そこには大空を飛び回る巨大な鳥の姿があった。



「これが今見えていないなら、もう見えることは無いのかもね。」



 紫砂斗は呟くが、その予想に反して隣にいた美奈の反応は大きいものだった。



「な……なにあれ?」



 空を飛ぶ怪物を指さし、次の言葉を探しているようだった。



「ま、まさか竹内さん。見えたの!?」

「う、うん」



 紫砂斗と美奈の興奮した声が響く。



「なんで急に見えるようになったんだ?」



 その新たな疑問が晴れる前に、カラスの怪物は紫砂斗たちの頭をめがけて下降してくる。



「かぁぁあああ!」



 おぞましいその鳴き声は、はるか遠くの()()()()()()にも届くほどのものだった。

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