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異変のじごく

 世界番号2。通称地獄。


 ここは、全ての世界で罪を犯した生物が、生命活動を停止させた後、罪の償いをするために、罰を受ける場所である。


 それは人間以外も同様で、多種多様な生物がこの世界にはいた。ドラゴンや、気味の悪い怪物なども、うじゃうじゃといるのだ。


 その怪物たちが共通して、重い罪を犯しているということもあり、この世界は、常に厳重なセキュリティーがかけられていた。



 そのセキュリティーの一つが、天使たちによる監視である。彼らはこの怪物たちの動向を確認し、地獄からの脱出が出来ないように監視していた。しかし現状は……



「どうして俺たちっているんですかね」



 ふと、デスデビル管理局の局員の一人が言った。


 彼らが座っている席は、巨大モニターが複数台置かれている管理室のものだった。モニターには地獄内の罪物及び罪人が映っているのだが、彼らは何かアクションを起こすわけでもなく、たんたんと己のしたことの償いとなる重罰を受けている。


 その重罰により、血が飛び散ったりと悲惨なモニター映像だったが、そのモニター映像を除けば管理室は平和そのものなのだ。

 さきほどの言葉も、ここまで厳重に管理する必要があるのか。と、いう意味である。



「そんな深い話を始めるなよ。俺は退屈で死にそうだ」



 彼の隣に座っていた局員が、彼をたしなめた。



「もう何億と、こうしてこの世界を見守っているが、事件などせいぜい罪人同士の喧嘩が月一で起こるぐらいだ。俺らはこのまま何もすることなく一生を過ごすんだ。そのために()()()()んだよ。俺たちは」


「そうっすねぇ。生まれた時からこの席に座っていたんですもん。いい加減あきらめもつきますよ」



 こう切なく笑い合う天使らは、彼らの言う通り、こうして地獄を観察するだけに生み出された天使である。そう考えると不思議と、彼らの上に浮かぶ輪っかの光も、弱く思えた。



「本当にこのボタンって機能するんですか・何兆年も設備は変わっていないんですよね?」



 また天使二人組の一人が、自分の座る席前に、唯一おかれたボタンを指さし、言った。



「当たり前だろう?それが俺たちの唯一の仕事で、生きがいなんだからな。

地獄内で重大なトラブルが発生したらこのボタンを押す。このボタンが経年劣化で壊れるほど、脆くて、適当に作られたものなら、わざわざ俺たちのような存在を作る意味がない。

俺らの仕事は結構重要ってことさ」


「そうっすよね……」



もう一人が答えるのを眠そうに聞いた一人は、目の前のボタンをただただ眺めた。



「暇だなぁ……」


「そうだな……」



 この仕事をここまで怠惰で過ごしていたのは、別にこの二人に限った話ではない。


 椅子の背もたれに寄りかかり、目を完全に閉じている者。ぼうっとモニターを眺める者。二人のように雑談をする者。むしろ真面目な形相でこの部屋にいる者は皆無だ。こうして数億年間生きてきたのだ。


 みな何も起こらないことを知っていて、みなやることがない。


 平和であり、一周回って退屈で、地獄なような管理室。局員たちは、皆その地獄に耐えながら、各々時間をつぶしていた。



「あれ?」



 そんな中あがった、ひときわ大きい声は、管理室の注目を一点に集めるのには十分だった。



「なんだあの裂け目……」



 声を発した局員が指さすモニターを、局員全員が注視する。


 そこに映し出されている景色は、多くの生物が暮らす、地獄の中心地点のような場所だ。

 その地点の空中に、空いた裂け目は、紫色の稲妻を周囲に放ちつつ少しづつ拡大していた。



「まずい!」



 その裂け目を確認した一人の天使が、迷わずボタンを叩いた。

管理室内にけたましすぎるブザー音が鳴り響き、その初めて聞く音に、身を縮める天使たち。


 ボタンを押した職員は、管理室のなかで最も長くこの仕事を務めていた者だった。そして経験として知っていたのだ。あの穴の正体を。



『世内総本部だ。次元世界2の管理局。状況を説明せよ』



 室内のどこからか、局員に監視を任せていた機関の指示が聞こえた。

 その指示に、ボタンを押した職員は答える。



「世界内に()()()()を確認しました」

『な…なんだと……⁉』



報告を聞いて通信先は慌てたようだ。途端に、ガヤガヤとした雑音が聞こえる。



『現在の大きさを、目視でいいので報告求む』



 新たな指示を聞き、天使たちがモニターに目を戻す。しかしこの目を離した一瞬で、()は針山地獄すらをしのぐほど巨大となっていた。



「は、針山ほどです……」

『……そうか。こちらで原因及びその詳細について調べてみる。気になるだろうから結果が分かり次第こちらにも報告しよう』



 大きさを聞いた途端、諦めたような、焦ったような。そんな口調になった通信の相手は、そこで通信を締めくくった。



「なんなんですか?あの穴」



天使の一人が、最年長である天使に質問した。



「世界の穴。生物のみを対象にし、吸収して、他の世界に連れて行く、世界同士をつなげるワープホールの様なものだ。見てみろ」



年長天使はモニターを指さす。そこには穴に飲み込まれ、罪物や罪人の姿があった。



「どこの世界に繋がっているかは分からんが、どちらにせよ大量の災厄が、繋がった先の世界にふりまかれていることだろう」



 送り込まれた先の世界の生物は、どうしようもなく、ただ絶望するしかない。そう言いたげな最長天使の姿に天使たちは黙るしかなかった。その間も裂け目は拡大し、地獄の生物を吸収していく。


 この場の誰もが、様々な感情をもって、呆然とモニターを眺めること数分。再度管理室に音声が流れた。



『え~諸君らに報告である。原因は解明できていないが、ひとまず穴の接続先は分かった。』



どの世界に繋がっていても、事態の重大性は変わらない。そう言いたげな面持ちで、次の言葉を待つ最年長天使。



『……。 世界番号0に繋がっていることが分かった』



 その言葉を聞いたとき、最年長天使はひどく青ざめて、泡を吹き倒れた。

管理室で、ことの重大さに気が付いているのは、やはりこの最年長局員のみだったのだ。


 世界番号0。通称()()()()に怪物がばらまかれたことの重大さに…

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