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4話

ピンク、水色、薄紫、青、若草色、レモンイエロー。


 目の前に並べられたたくさんの色を、私は困惑しながら見ている。


 「あの、リリスさん」


 「はい!なんでしょう、ステラさん?」


 「これは一体……?」


 「お洋服です!」


 「それは、わかるんですけど……」


 自信満々に言うリリスさんに言えば、彼女は気にしないでください!と声を上げる。


 「ステラさんがその今来ている入院用の服に着替える前のドレスはとてもとても素敵で高価そうでしたが、残念ながらこのお城では寒すぎます!暖かい格好をしないとまた凍ってしまいかねないとのことで、こちらで色々用意させていただきました」


 「いえ、でも、そんな……」


 確かに目の前にあるのはどれも暖かそうな服ではあるが、いかんせんとても高級そうだ。毛皮を使ったものはどれも非道く高級だということは知っている。……母や妹が着ているところをよく見ていたから。


 「良いんですよ、使わないと埃をかぶっているだけですし。この城の女にはどうにもサイズが合わないものばかりなんです。だから、ね?」


 使ってあげないとかえって服が可哀想です!とまで言われては、選ぶより他はない。だから、私は色を前に悩んでいるのである。


 王宮にいたときに、服の色を選ぶことは出来なかった。そもそも、服自体を選ぶことも決してなかった。私が王宮で身につけていたのは飾り気のないグレーのワンピースと、社交の場に引きずり出される時用の金色のドレス。それから、ここに来る前に着させられた上等な白いドレスだけだったから。

 

 だから、正直なところ目の前に並べられた色とりどりの衣装を見て__密かな喜びを感じてしまっている自分がいることも事実だ。けれど、どれが良いのかさっぱりわからない。助けを求めてリリスさんを見ると、彼女は「うーん」と言った。


 「私が選んでしまっても良いのでしょうけど、やっぱり自分が好きなものが一番良いと思います!難しく考える必要はないですよ。これだ!というものを選べばそれでいいんです」


 「好きなもの……」


 そう言われて、じっと用意されたものを見る。好きなもの。これだと思うもの。しばらく悩んで、そして私は一つを選ぶ。それは、濃くて深い藍色__夜空のような色のケープコートとワンピースのセットだった。指し示せば、リリスさんはにっこりと笑って「わかりました!とっても素敵だと思いますよ、それじゃあ次は靴、その後は小物ですね!」と言ったのだった。


♢ ♢ ♢


 「フランさんから聞かされているかもしれませんが、ここはトルメンタ城。キルシュ王国の最北端__キルシュと隣国のゾンネンを分かつレーゲン山脈の麓__に位置するお城です」


 リリスさんが持っているランタンの光に二人分の影が映る。私は今、リリスさんの後について長い長いらせん階段を降りていた。私がいたのは塔の上であったらしい。部屋を出た先には湾曲した廊下とドアがひとつだけあって、開かれたドアの先にはらせん階段が続いていた。それなりに急なので気をつけて、というリリスさんにならい、慎重に階段を降りていく。慣れないブーツに苦戦してゆっくりとしか降りられないと謝った私にリリスさんはそれならお話でもしながらゆっくりと行きましょう、と言ってくれた。本当にいい人だ。


 どうしてそんなに親切にしてくれるのかと尋ねれば、それが仕事だからと返ってくる。フランさんと話した時にも感じたが、やけに二人とも仕事という言葉を口にする。仕事だから仕方なくお前の面倒を見ているのだ、思い上がるな、ということだろうか。なんにせよ、こんなに親切に接してもらったのは久しぶりのことで、素直に喜びが勝っている。


 「お城の持ち主はあの方__冬の王です。ここは、ずっと昔の冬の王がお作りになられた場所で、今でもその様相はほとんど変わっていないんです。石造りだし、寒いし所々崩れているし……中々にボロボロですが、住むには困らないって感じでしょうか」


 雨漏りや雪漏れは勘弁して欲しいんですけどね、と言うリリスさんに尋ねる。


 「あの__気を悪くさせるようであればごめんなさい。先ほど、フランさんからここはキルシュの人間が戻らずの城と呼ぶ場所であると聞きました」


 「あぁ、あの聖女伝説のことですか?そんなもの、後世の人が勝手に考えて作り上げたねつ造ですよ!……と、私はオルドルさんにそう聞かされながら育ったのでそう信じていますが__実際のところ、あの伝説が一体なんなのか、そもそもここがなんのために作られたのかはよくわかっていないんです。所詮500年も昔の話だし、真偽なんてとてもとても」


 私の問いにからからと笑ってリリスさんが答える。その笑顔にはぁ、と言うと「あ、もしかして」と何かに気づいたように


 「もうひとつの噂のことを気にしてますか?」


 と訊いてきた。その言葉に静かに首を縦にふる。すると、リリスさんはそこで急に声を潜めた。


 「その話は、このお城の中ではしない方が賢明です。気になるかもしれないので言っておきますが、あなたが気にしているであろうこと__具体的に言うと、ここに巣くうと噂されているもの__の噂の真偽に関しては、はいであるとも言えるし、いいえであるとも言えます」


 「はいであり、いいえ?」


 「はい。……申し訳ありませんが、今私の口から言えるのはそれだけです。いずれわかることだから、今は案内に夢中になってくださいませんか?」


 ね?とお願いする格好で言われてしまってはうなずかざるを得ない。こくんとすると、彼女は安心したかのように息を吐いて、「さぁ、階段は後少し!まずは、そうですね……厨房に行きましょう!ステラさんに紹介したい人がたっくさんいるんです!」と輝く笑顔に戻って私の手を掴んだ。







 



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