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息子が1歳半健診で引っかかったので秘密の猛特訓をしたらエラい事になりました

作者: あいうえお.

玄関で私は途方に暮れていた。


私は長男の1歳半健診から帰ってきて、眠る彼を抱き靴を履いたまま座り込んでいた。

健診では身長・体重測定や診察などに加えて、発達の検査があった。

積み木を4つ積む、「車はどれ?」などの問いに指差しで答える、発語のチェックの3つである。息子は積み木も指差しも出来ず、発語は「ティンポ」の1語のみ。「ティンポ」というのは、正式名称は敢えて言わないがいわゆる男性のシンボルの事で、夫が毎晩風呂で叩き込んでいたらしい。


保健師には「この時期は個人差も大きいですし、焦らずいきましょう。2歳になるくらいに一応電話で様子を確認しますね」と言われたが、私は自分のせいだろうか、息子との接し方が悪いのだろうかと悩んだ。

後から思えば嫁ぎ先は遠方で相談相手もおらず、育児ノイローゼになりかけていたのかもしれない。


私はこのままでは駄目だと立ち上がり、猛特訓を決意した。2歳までなんて、待っていられなかった。





2ヶ月後。


私と息子は市の福祉センターにいた。

ここでは月4回、保健師に育児に関する相談が出来るのだ。

この日、私と息子は猛特訓の成果を保健師に披露する為にセンターを訪れた。


まずは指差しから。

健診でのテストは、「車」「猫」「コップ」「靴」の4点から選ばせる。しかし私はその程度では満足しなかった。


保健師の前で、私は鞄からお絵描き帳を取り出し、1枚目を開いた。そこには、犬の写真がたくさん貼ってある。横に10列、縦に5列の計50種だ。

わたしは息子に言う。

「ミニチュアシュナウザーはどれ?」

「ん!」

息子が写真を指差しながら答える。正解!彼はまだ言葉を例の「ティンポ」しか言えないのだ。

「チワワ!」

「ん!」

正解!

「ロングコートチワワ!」

「ん!」

正解!

「スタンダードプードル!」

「ん!」

正解!

「トイプードル!」

「ん!」

正解!

「タイニープードル!」

「ん!」

正解!

「アメリカンコッカースパニエル!」

「ん!」

正解!

「カニーンヘン・ダックスフンド!」

「ん!」

正解!

「キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルッ!」

「ん!」

大正解ッ!!


私も息子もハァハァと息を切らし、保健師を見た。どうだ、参ったか!!

しかし彼女は「あらァ、ワンちゃんが好きなのねぇ」なんてのん気なことを言っている。


まだまだこれは序の口だ!これから貴様はビックラ仰天してひっくり返る事になるぞ!


私はお絵描き帳の次のページを開いた。

歴代横綱の四股を踏む姿の、しかもそれがシルエットで描かれた絵が、初代明石志賀之助(あかししがのすけ)から72第稀勢の里寛(きせのさとゆたか)まで、所狭しと並んでいる。

私は息子に問う。

「3代丸山権太左衛門まるやまごんだざえもん!」

「ん!」

息子はシルエットの1つを指さす。正解!

「43代吉葉山潤之輔よしばやまじゅんのすけ!」

「ん!」

正解!

「22代太刀山峯右エ門(たちやまみねえもん)!」

「ん!」

正解!

「60代双羽黒光司(ふたはぐろこうじ)!」

「ん!」

正解!

「32代玉錦三右エ門(たまにしきさんえもん)ッ!」

「ん!」

大正解ッ!!


私も息子ももはや汗だくだ。私達はまた、保健師を見た。

流石にぶったまげたろう?!

しかし彼女は「私は寺尾が好きだったわァ、あ、今は錣山(しころやま)親方のね」などと遠い目をしている。


まだまだまだまだァッ!!覚悟しとけよ保健師!

私はお絵描き帳の3枚目を開く。


そこには元素周期表を貼ってある。

W(タングステン)!」

「ん!」

息子は正確に指をさす。正解!

Nb(ニオブ)!」

「ん!」

正解!

Uus(ウンウンペンチウム)!」

「ん!」

正解!

次は分子式に組成式だ!!

「硫酸!」

「ん!ん!ん!ん!ん!ん!ん!」

息子はH(水素)を2回、S(硫黄)を1回、O(酸素)を4回指差した。

H2SO4。正解!

「グルコース!」

「ん!ん!……ん!」

光の速さで指し示していく。C6H12O6。正解!

「リン酸鉄(II)ッ!」

「ん!ん!ん!ん!……ん!」

Fe3(PO4)2。大正解ッ!!


私達は滝のような汗を流した。

私はペットボトルの茶を、息子は紙パックのベビー麦茶をグビリグビリと飲み干す。

そして2人でペットボトルと紙パックをテーブルに叩きつけて最高潮のドヤ顔を作り、保健師を見た。

だが彼女は相変わらず、ニコニコ笑っているだけだ。

「将来は理系男子だネ!」

なんてこったッ!彼女は何らかの感情が欠落しているのではないか⁉︎


お次は積み木だ。

私は鞄から将棋の駒を取り出した。猛特訓の末に、息子はそれをピラミッド形に積み上げる事が出来るようになっていた。


その時、隣から歓声が上がった。

実はさっきからずっと気になっていたのだ。

隣のテーブルの、息子と同じくらいの背丈の男の子はなんと、一円玉と五円玉を巧みに積み重ねエッフェル塔を作っていた!

グヌゥ……凄まじいまでの潜在能力(ポテンシャル)!!なんて恐ろしい子ッッ!!


私と息子は顔を見合わせ頷いた。

よし、そっちがエッフェル塔ならば、我らはサグラダ・ファミリアだ!!


私達は早速特訓を開始する為に、急いでセンターを後にした。

ありがとうございました……。

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