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接触  作者: niya
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第六部


 突如、操縦席のビーコンが大きく鳴り響いた。

「なんだ……ロックオン!?」

操縦席中に警告音がけたたましく鳴り響く。

「家長! ロックオンされた!」

「ロックオンって!? あいつ生物だろ!?」

「そんなの知るか!」

「とりあえず、こちらから管制塔に連絡を入れるから耐えろ!」

「はやくしてくれ! いつやられるかわからないぞ!!」

 家長は目の前で起きている現状に、今まで感じたことのない感覚を感じていた。

今までも何度も他国の航空機とやりあってきた。当然、そこには緊張も存在した。

しかし、ガラスを通し、目の前で起きているのは、得体の知れないアンノウンが自分の友を殺そうとしているという情景は、不安、恐怖、そういった感情と緊張・焦りといった感情が、まるで幾つもの絵の具を混ぜるかのように入り乱れていた。

家長の頭はパンク寸前。いや、部分的にはもう処理できずにオーバーフローを起こしていたのかもしれない。

それでも、最低限しなければならいことしようと無線機に叫ぶ。

「管制塔! 応答してくれ管制塔!」

 すると、向こう側でも連絡を待っていたようで即座に反応があった。

『どうしたイーグルワン!』

「こちらイーグルワン! どうやらアンノウンにイーグルツーがロックオンされた。回避行動を実施しているが、なかなかアンノウンを引き剥がせていない!」

『アンノウンが、ロックオンだと!?』

 数秒前の家長と同じ反応が無線機から響く。

「ああ! イーグルツーがやられる可能性がある! 攻撃許可を!」

『こ、攻撃許可!? もう少し持ちこたえられないのか!?』

 攻撃許可という言葉に管制官は過敏に反応した。当然だ。この日本の領空内でアンノウンに対し、攻撃を仕掛けるという事象に前例は存在しなかったからだ。

管制塔では、色々な思惑が交錯しているのが、無線の背後から聞こえる雑音から伝わってきた。

もし、アンノウンの正体が他国の所属機なら。もし、アンノウンが最新鋭の戦闘機であったなら。もし、アンノウンが友好国の所属であるなら。もしも……もしも……。

「こっちには時間がない!? 早急な許可を求む」

『すぐには』

 家長は奥歯を噛み締める。

『ほかに手があるだろ。相手を攻撃するということは国際問題に発展しかねない非常にデリケートなことなんだぞ』

 目の前で繰り広げられる情景は、その言葉の軽薄さを家長には感じさせた。

間が少し生まれ、家長は無線機を睨む。

「長友が死ぬかもしれないだぞ!!」

『……』

 家長の言葉が、無線の向こうを駆け抜け、無線の先を押し黙らせた。

それほど家長達の状況は逼迫しているといっても過言ではない。

 その間にも長友は、襲い掛かるGと迫りくるアンノウンの恐怖心に絶え続けている。

 管制塔からの返答がないまま、膠着した状態が続く。アンノウンは長友を追い、家長はそのアンノウンを追い続ける。

 痺れをきらした家長が叫んだ。

「管制塔!」

『……こちら管制塔』

「?」

 無線から返ってきた声質が先程と違うことに気づく。

『聞こえるかイーグルワン』

「はい」

『私は、高田幕僚長だ』

「幕僚長!?」

『緊急事態だ。用件は手短に言う』

「はい」

『アンノウンに対する攻撃を許可する』

「了解しました」

『これは隊員の生命を守るためのものである。これこれにより発生する一切の責任は私にある。仮にアンノウン攻撃を実施し効果が見られなくとも現状を離脱できるのであれば離脱すること。深追いは絶対にするな』

「わかりました」

 家長はその言葉に重大さをひしひしと感じていた。

アンノウンの睨む目がより一層厳しい状態に変わっていた。意識の部分にしても一つの変化が表れ始めた。

それは奴を殺害しようという意思だ。

”奴をやらなきゃ長友はやられる。俺がやらなければ誰がやるんだ”

 家長自身自分の命を空で無くしてしまうのではないかと幾度も襲われた。しかし、こうして空を飛び続けていた。

しかし、今回ははっきりと違うもの感じる。

相手の正体が何かわからない未知の物体。

そういった状況が家長に恐怖心を煽るのかもしれない。

猛スピードで飛行し長友を追うアンノウン。 そのアンノウンに対し、狙いを定める家長。

嬉しくもない三角関係だ。

アンノウンが何度もロックオンマーカーに入るが、通過し補足することができない。

「このっ! じっとしろ!」

 家長の言葉を聴いて動きがとまるのであれば、これほど楽なことはない。

アンノウンの激しく上下左右に揺れ、一向に動きをとめようとしない。

 何度もロックオンマーカーが、緑と赤をなんども往来する。

激しく揺れる機体。定まらぬ目標。

家長はふうっと大きな深呼吸をした。

同時に目が今までの状態をリセットし、獲物を狙う虎の如く厳しくなる。

耳に届いていた雑音が、まるで遠くの出来事かのように届かなくなっていった。

今まで激しく動いていたロックオンマーカーもそれに呼応するかの如く、揺れが徐々に小さくなっていく。

甲高い機会音が激しく鳴り響かせた。

アンノウンをロックオンした。

「これで!」

 家長の脳内には、奴をしとめることしかなかった。

 その時だ。


「ギギギギギギギギギッ!!」


 それはありとあらゆる言語とは一致することのない、例えるのであれば黒板を引っかくような音が、家長・長友の脳内を雷鳴のように一瞬の間に通過していった。

「うぐっ!」

 同時に頭部に激痛が走る家長の元に、無線を通じ長友も同じ状態であることがわかる。

イーグルワンのボディも、まるでドライバーの痛みに呼応するかの如く、激しく揺さぶられていた。


「ギギギギギギギギギッ!!」


二人の様子を尻目にアンノウンは、徐々に左右に振動をし始める。最初は、小さい揺れが、徐々に大きくなっていく。数秒後には残像が目に焼き付けるほど激しく振動し続けていた。

「アイツ。一体何をしたんだ」

激痛に苛まれながらも、少し開いた目でアンノウンに対し、家長は厳しい視線を送った。

激しく揺れ続けていたアンノウンは、突如、上空に猛スピードで飛び上がり家長達の前から消え去っていった。同時に周囲に轟音をとどろかせた。

長友は徐々に遠ざかっていく痛みを感じながら、揺さぶられる機体を平行に整える。

遠ざかっていく痛みの中には、自分の恐怖心・緊張感も混ざっている気がした。

「家長。家長、聞こえるか」

 長友は痛みながらも、無線機に呼びかけた。

 同様の状態に陥っていた家長であったが、長友の声に応えた。

「ああ。こっちは大丈夫。長友は大丈夫なのか?」

「ああ。アンノウンの奴は?」

 長友の言葉に促され、機体に備え付けられたレーダーに目を向ける。レーダーにはアンノウンの形跡は一つもない。

「逃げた……」

 安堵が一つ一つと絡み合ったかのような言葉が家長から零れ落ちた。

 その時、無線に管制塔からの通信が届く。

『こちら管制塔。こちら管制塔。イーグルワン。イーグルツー。応答せよ』

「こちらイーグルワン家長」

「こちら高田。状況を報告せよ」

「アンノウンに攻撃直前に、突如、騒音を発生させ、我々が意識を逸らすとそのまま逃走していきました」

 長友も通信に割って入る。

「イーグルワン・イーグルツーともに機体の表面に軽微の損傷がありますが、機体とパイロットともに飛行に問題ありません」

 ふうと呼吸の音が無線に紛れた気がした。

「怪我もないのだな。了解した。このまま二機は帰還してくれ」

「イーグルワン了解」

「イーグルツー了解」

 太陽が西へと徐々に傾くにつれて、空が赤に染まりつつある。所々に雲が黒や灰色の絵の具が塗り重なっていく。そうそれはアンノウンの行方を塗りつぶすかの如く夕闇が塗りつぶしていく。それはまるでアンノウンの謎を覆い隠そうとしているかのようであった。

「大丈夫か? 長友」

 数分前まで、死の寸前まで達し精神が極限まで追い込まれた長友に家長は声をかける。

「ああ、なんとか。心臓の高鳴りも少し落ち着いてきたわ」

「俺もだ。こんな高鳴り初めてだ」

 二機のF15イーグルは、徐々に進行方向を基地に整えた。

夕暮れの空に突き進む、F15イーグルが白の飛行機雲が二つ描かれていた。

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