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接触  作者: niya
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第四部

「うわっ!」

 三機で綺麗な編隊が、急にアンノウンより放たれた光輪を回避する為に崩れた。

家長が乗ったイーグルワンはそのまま前進し、長友のイーグルツーは舵を左入れて機体もその指示に従い、左下に大きく急速に曲がった。逆に右上に大きなカーブで曲がったのは坂本と勇が乗ったF2だ。

光輪は、そんなイーグルツーとF2の間に割って入り、そのまま通過していく。

 どれも数秒間の出来事だ。

「大丈夫か!」

 先頭を飛んでいた家長は、稼動範囲の最大まで頭を動かし背後に目を向ける。

「こちらイーグルツー長友。計器等は異常を見受けられない」

「F2田井中。こちらもイーグルツーと同じく特に問題ありません」

 二人の声が無線から漏れてきた。声の張りを感じるに今のところ元気のようだ。

「今のはアンノウンの攻撃か」

 家長はとても重く、事態の深刻さを物語っていた。家長は静かに口内に溜まっていた唾を飲み込んだ。

 アンノウンは未だ光が続けている。

数秒間の沈黙。

周囲に響き渡るのは三機のエンジン音のみであった。

「きたっ!」

 数秒前の沈黙が、アンノウンの手で打ち破られた。

突如、アンノウンから先ほど放たれた光輪が、またも放たれた。

「うぐっ!」

 家長はすかさず操縦桿を右に傾け、機体も同様に右に傾いた。

光輪は、イーグルワンの下僅か数十センチメートルをかすめていった。

アンノウンは次の光輪を放ち、数秒後にはまたも光輪を放つ。

 放たれた光輪はまたもイーグルツーやF2の近くを通過する。

「このままじゃ落とされるぞ!」

 イーグルツーの操縦席が、急激なGにより、激しく揺さぶられる。

「勇! 無線で連絡!」

「はい!」

 勇は坂本の絶叫に絶叫で応える。

「こちらF2! こちらF2! 管制塔応答願います!」

『こちら管制塔! F2どうした!』

「アンノウンからの攻撃あり!」

 まるで強風にあおられた窓のように軋む音が響く中、勇は叫んだ。

『攻撃! 本当か!?』

「発光していたアンノウンが、突如、我々を目標に光輪を発射。各機、回避行動で対応していますが、アンノウンは尚も光輪を発射し続けています」

 勇と管制塔とのやりとりがおこなわれる間もアンノウンは、数秒おきに光輪を発射し続けている。

浮遊した砲台と化したアンノウンは、的確に家長達を打ち落とそうと一定の場所からではなく各部から光輪から飛んできた。

ある時は最上部から放ち、また、ある時は左から放たれる。

「管制塔! 指示をお願いします!」

『ま、待て! 早急に指示を出す!』

「管制塔!」

 勇の生きてきた短い人生のなかで、今日ほど声を荒げた日はなかった。

「ちっ! まずいな」

 無線のやりとりから坂本の脳裏に管制塔も初めての事態に混乱をきたしているのは容易に想像できた。

その時、F2の後方からアンノウンが放った光輪が迫ってきた。

完全に予期していなかったかった為に回避行動をおこなうことはできなかった。

「坂本さん!」

「勇! 来るぞ!」

 大声を張り上げた坂本は、最後まで諦めずに操縦桿を右に切る。

しかし、コンマ何秒の世界で、一秒以上かかることは、遅いと言わざるを終えないものでしかなかった。

アンノウンが放った光輪の半分が、F2の全長の半分を包み、そのまま通過した。

「ぐわっ!」

「うわぁぁぁぁ!」

 光がF2の機体を通貨した瞬間、大きな火花が各部から散り始める。

機体がまるで大地震の最中に居るかの如く、激しく上下左右に揺さぶられる。

「F2! 大丈夫か!?」

「二人とも応答しろ!」

 家長と長友は大きな声でF2に向けて、絶叫した。

F2の操縦席では、今の状態が非常に危険なことを示すアラート音が鳴り響く。そして、操縦席に備え付けられたランプが激しく点滅している。

 フラフラと揺れる機体の水平を維持しようとする坂本の操縦桿を握り締めている手が、筋肉を張り詰め、若干の痙攣が起こっていた。

「坂本さん! 坂本さん! 早くこの場を退いて下さい!」

「なっ、何!?」

「このままでは、機体がアンコントロールになって撃墜してしまうかもしれない。今ならまだ間に合います」

「しかし!」

「躊躇している間はありません。奴の攻撃を受けたらそれこそどういった事態になるかわかりません。幸いここから基地までは遠くない。戻るなら今の内に!」

「坂本さん! ここは俺達が引き受けた。早く帰還してくれ!」

 坂本はマスクの奥で奥歯を噛んだ。

「坂本さん! あなたの後ろにもう一人いるんだ。彼を無事に連れて帰る義務があなたにあるんだ」

 坂本は背後を振り返った。そこにはアンノウンの攻撃を受けて、言葉を失いガタガタと震えている勇の姿があった。

「……わかった」

 いまだに激しく上下左右に揺れるF2のコックピット内で、坂本は静かに揺ぎ無い決意をしていた。

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