1.プロローグ
また、同じ夢を見ていたーーあの場所、あの人の夢。
そこでは、僕は一人、薄暗い廃駅に佇んでいて、周りはずっと、何処までも滑らかな草原が広がっていて。
風が夏空を洗って、そよそよと優しく僕に語りかけてくる。
そして、草原の彼方、なだらかな丘陵の上に、彼女が立っている。
夏服のスカートと、長い黒髪を風に委ねながら、僕に背を向けて立っている。
青空を泳ぐ入道雲の下にいる彼女は、なぜかとてもーー神々しかった。
彼女がこちらを振り返る。その深い蒼色を孕んだ瞳が、僕を見とめて、わずかに見開かれる。
僕は彼女に向かって、走り出す。途端に、それまで鮮やかに輝いていた草原が、赤黒い、絡みつくような泥へと変わっていく。
踏み込むたびに、身体が地中へと引きずり込まれて、粘ついた泥が全身を包み込む。
彼女は、その場から動こうとしない。その目には、もう既に、先刻の驚きはなかった。
まるで、この状況が自明のことであるかのように、避けようのないことであるかのように。
僕は、胸まで埋まった身体をなんとか動かし、彼女に向かって、手を伸ばす。
ーー何が……一体、何が償いとなるのだろうか?
彼女の名前を叫ぼうとしたその瞬間、遂に頭まで一気に沈み込み、世界が暗転する。
そう、これは夢だ。
これは、僕の夢見る、僕の罪の物語だ。