第一部 人の冬 第二話
第2話 邂逅
「ただいまー」
誰もいない自宅に響く未来の声
「まあ、母さんは仕事だからいるはずないか……」
あれ程の出来事があり、バイトの方も集中できなさそうなので、未来は早退させてもらって、自宅に帰ってきた。
時刻は12時20分をまわっていた。
ドスンッ!
「ふぅ~」
リビングのソファーに腰掛けると、おもむろにテレビを点けてみる未来。
(え~、次のニュースはーー)
ピッ!
(50代からはコレッ!)
ピッ!
(先日の日経平均株価の終値はーー)
ピッ!
(続いてのニュースです。イギリスで今、時の人と話題の「デイビッド・シアラー」さんが本日、日本に初来日しました。)
「ん??」
ひとつのニュースに目がとまる
(シアラーさんは、イギリス出身の俳優で、まだ若干20歳ながら、昨年数々の映画賞を総なめにした、今最も勢いに乗っている俳優さんです。)
(俳優の傍、モデル業もこなし、世の女性たちからも絶大な人気を誇っているのです。)
「ふーん」
(今回の来日の目的はーー)
ピッ!
「寝よ」
テレビを消し、自室に戻る未来。
ふとベッドの上に座り、ポケットから先ほどの指輪を取り出す。
「しっかし、何だったんだよ今日の出来事は」
指輪を見つめながら呟く未来
「君は選ばれた…か……」
「そういやこの指輪、俺の指にはめられんのかな?」
指輪をはめてみる未来。
「あ、あれ?」
「どの指にも合わないじゃんか」
左右の指すべてに試してみたが、指輪はひとつの指にも合わなかった。
「騙されたってのも変だけど、なんか詐欺にあった気分だな」
「はぁ~…寝よ」
指輪を机の上に置き、布団に入る未来。
そのまま彼は夢の中におちていった。
………………
…………らい
……ミライ!
(誰かが俺を呼んでる…?)
明日乃 未来!!
「誰なんだ、俺を呼ぶのは?」
ここは夢?の中。
一面真っ白な空間に未来は立っていた。
そして、誰かが未来を呼んでいるのだが、姿が見えない。
【私が見えないのか?未来よ!】
「誰なんだあんたは!? なぜ、俺の名を知っている!?」
【なぜ、お主の名を知るかだと!?】
【笑止千万!それはお主が、拙者の主たる者だからにきまってあろうが。】
「何だと!?」
不意に未来は、あの長髪コートの言葉を思い出す。
「じゃあ、あんたはもしかして…あの指輪なのか!?」
【はっはっはっ!!ようやく理解したか!】
【正確には、指輪の中と言えば良いのか…まぁ、難しい事は考えるな!!】
【ようは、そーゆー事にしておけ!!】
「次から次に色々と……」
「じゃあ、なんであんたの姿が見えないんだ!? 俺が主人なら姿ぐらい見せてくれよ!」
【むぅ…、そう言われてもだな…、……分からんのだ。】
【拙者も、お主の前に姿をあらわしたいのだが、なぜか出来んのだ。】
「えぇ…」
【まあ、そのうちにお主の前に姿を表せる時が来るだろう!】
【その時まで、しばし待たれよ!! はっはっは!!!】
「おいおい…」
【むっ!? そろそろ頃合いだな、また会おう主殿!】
【次は拙者の姿を見れるとよいな!】
「あ!ま、待て!!」
未来の呼びかけも虚しく、現実の世界へと目が覚める。
「未来〜!!ご飯出来たわよ〜!!」
未来が夢の中で、謎の人物と会話している間に、いつのまにか仕事から帰宅し
夕食の用意を済ませていた母の声が聞こえる。
「あ、もうこんな時間だったのか…」
現在の時刻は夕方の18時
未来の部屋の窓から差し込む、夕陽の日差しが、机の上の指輪を照らしていた。