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第1部 人の冬 第一話

第一話 運命の日



世界を救うヒーロー、もしくは救世主

男なら子供の時に一度は憧れるもんだと俺は思う(俺だけじゃないよな……なっ!?)


唐突に質問してしまったが、俺は少なくともその一人だった。


まさか本当に世界を救う戦いをするハメになるあの日までは…





20××年 6月6日


シトシトと昨日まで降り続いていた、うざったい雨は嘘だったように今日6月6日(月)は快晴になった。

っとは言っても、湿度が高いせいもあり、肌にまとわりつくような汗が出てくるのもまた事実なんだけどね…


「…蒸しあっつ…」


ついつい目覚めの開口一番がこれになってしまう。

昨日観た天気予報によると、今日は季節外れの30℃になるそうだ。


「んだよ、まだ6時じゃねーか…」

「まぁ、とりあえず着替えるか…」


気怠そうに着替えに自室のクローゼットに向かった彼の名は、「明日乃 未来」

今年の7月7日で20歳になる、自宅警備員。いわばニートだ!


だが、そんな彼も今年の5月から人生初のバイトを始めたのだ!

そのバイトとは、なんと遺跡発掘!!

遺跡発掘と聞くと、専門家の調査団などがしているものと思いがちだが、一般の人にアルバイトというかたちで、一緒に採掘作業をしているそうだ。

チラシに載っていたこの募集記事をたまたま見つけた未来は、面白半分で応募してみたのだった。


つまらなそうなら、すぐに辞めるつもりだったが、これが意外とハマってしまっているのが現状である。

そして、彼は今日もまた、いつもと変わらない遺跡発掘のバイトの一日を過ごすはずだった…




「行ってきま〜す」


時刻は午前7時34分

現場までは、未来の自宅から自転車でおよそ10分ほどの場所だ。

住宅街を抜け、少しひらけたその場所に、遺跡発掘の現場がある。


午前7時58分現場に到着


「おはようございまーす」


「おーう!おはようさん!」

「おはよ!未来君!」

「今日も相変わらず眠そうだなおい!」


共に現場にバイトに来ている人達は、主に40〜70代の男女がおよそ40名ほど一緒に働いている。

その中でも未来は一番若いので、みんなから可愛がってもらっているのだ。


午前8時30分


「それでは、今日も一日よろしくお願いします!」


現場監督さんの挨拶も終わり、作業開始だ。

未来は主に鋤簾と呼ばれる道具を使い、地面をならしていく作業を担当している。

しかし今日は、昨日までの雨の影響で、現場に所々水溜りがあるので、それを取り除く作業から始まった。


「未来く〜ん!そっちのベルトコンベアの奥をおねがーい!」

「わかりましたー!」


「うわっ、スゲー溜まってんじゃん…」


スポンジと柄杓を使い、水を取り除いているその時だった


「ん!?」

「なんだこれ?」


未来が見つけたのは、美しく碧色に輝く指輪だった。

深海にも近い深い碧。なんとも表現しがたい不思議な色の指輪だった。


好奇心

まさにその心のままに、未来は指輪を取り上げていた。


「スゲー綺麗な指輪だな…にしても、誰かが落としたのかな…」

「まぁ、とりあえず聞いてみるか」


「すいませぇ……ん」

「ん!?」

「誰だ、あの人?」


振り返り、指輪の落とし主を聞こうとすると、見慣れない人物が未来からおよそ30mのあたりに立っていた。

その人物を囲むように作業員たちが集まってきた。


「どちらさんだい?」


作業員の中でも最年長の石川さんが問いかける


「……」


その人物から返答はない


ざわざわ

「どーしたのかしらあの人」

「もしかして外人さん?返事をしないし」


「おーい!」

石川さんがもう一度喋りかけ、その人物の肩に手を置こうとしたその時だった!


「ん?なんだ?」


未来は不可思議な違和感を感じた


「あれ?なんで石川さん肩に手を乗せようとして、すん止めしてんだ?」

「それに他のみんなも動かないし」


異様な光景だった。

作業員達はピクリとも動かなくなり、まるで時間が止まっているようだった。


「動かないも何も君と私以外、全ての時間は止まっているからね」


聞き覚えのない声が未来の疑問の返答として飛んできた。

それはあの謎の人物からだった。


「えっ!?」

「時間が……止まってる!?」


常識で考えればありえないことだ。

しかし目の前の光景は紛れもない事実として未来の目に飛び込んできている。


そして、先ほどの疑問に答えを出してくれた謎の人物が、ゆっくりと未来の方を向きこちらに歩を勧めてくる。

それまで距離が離れていたことと、こちらを向いていなかったこともあり、ようやく人物の様子をしっかりみることができた。


身長は180㎝ぐらいか、おおよそだが多分そのくらいだろう。

体格は太くもなく、かといって細いわけでもない、モデルさんみたいだな。


近づくにつれて顔もよく見えてきた。

男とも女ともとれる、いわばキレイな顔立ち。それでいて髪は腰まであろうかというようなグレーの長髪。


そして何より作業現場に似つかわしくない、黒い革のコートのようなものを着ている。


未来の頭の中は、一体なにから説明をつければ混乱が解けるのか、というくらいこんがらがっていた。

そして混乱が解けぬまま、気づけばその長髪コートは未来の目の前に立っていた。


「ほう…やはり此処に来ていたか…」


長髪コートは未来の持っていた指輪を見ながらそう呟いた。


「あっ、あの…」


未来が長髪コートの呟きに質問しようかと思ったその刹那!


ズブッッッ!!!


「えっ!??」


一瞬の出来事だった。

未来の腹部には、長髪コートの物であろう短剣が刺さっていた。


「あっ…うわっ……」


もはや言葉もつたない程に混乱は最高潮に達した。


……


しかし変だ


痛みが無い


腹を短剣がグサリと刺しているのに、血どころか痛みさえも無い。


「あ、あれっ…?」

「なんで痛みもないんだ……」


「ほぉ……この男に託すというわけか」

フッ…


最早何を託すのか、なんでキザに笑うのか

未来の頭の中はいよいよパンク寸前だった。


「男よ!」


「うわっ!!ビックリした!いきなりなんだよ!」


「喜ぶがいい、指輪は君を主と認めたようだ!」


「ほえ??」

思わず変な声が出てしまった


「男よ!名は何という?」


「あ、明日乃 未来……」

あ、簡単に個人情報バラしちまった……


「明日乃 未来よ!!この世界の命運は君達に託された!!」

「その指輪と共に進むがよい!!」

「君の!いや…この世界の幸運を祈っている!!」


「え、あ、いや、一体何のはな「ではさらばだ!!」


「おっ、おい!!」


一方的に喋り続けた後、長髪コートは指をパチン!と鳴らした。


ギュウオオオォォォォォォォ!!!


「うわっ!!何だ??」


辺りの空間が歪む。

空間が歪む光景など見たこともないはずなのに、一瞬でそう理解できてしまう光景だった。

そのまま空間の歪みは長髪コートを飲み込み、何もなかったかのように跡形もなく消えてしまった。


「夢でも見てんのか俺は……」


最早、夢にでもしてしまいたい信じられない出来事が、次々と起こったのだ。


「あっ!そういえばみんなは!?」


はっ、と作業員の人たちがいた方を見ると、そこには何事もなかったかのように仕事を再開していた光景が広がっていた。


「元に戻ってる…、まあ、よかったっちゃあよかった、か……」

「ふう……今日はとりあえず早退させてもらお……」


あれだけの事があり、未来は精神的に疲れ果ててしまった、本当に先程までの出来事は現実だったのだろうか……

しかし、未来の手に握られていた指輪だけは、そこに本当にある現実なのだ。


運命は動き出した!これは、少し前までニートだった男の物語である!




第一話 終

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