- 再掲 少女と銀火器と大きな背中 -
──物心ついた時から、あの人の背中を追っていた。あたたかくて大きくて、大好きなあの人の背中。
あたしの親父は、仲間達を後方で支援する機械軍の機械技師。傷ついて帰ってくる仲間達の装備を直し、返却する。そして、再び戦地へ赴く仲間達を見送る。そんな父の姿を見てきたあたしも、少しだけ分けてもらった部品を組み合わせて何かを作ることが好きだった。あたしは父親の仕事場にもついていくようになって、父親の仲間からも技術を学んでいった。その頃は「パパみたいな きかいぎし になる!」と言うほど、父は憧れだった。とはいえ機械技師という役職は、ただ装備をいじっているだけではないということも知る。
ある日、パパのところへボロボロの袋が運ばれてきた。その時だけ、なぜか中身が気になって、袋の口を開けてしまった。中身は...汚れてはいるけど全体的に金色で大きな...武器...?とても大きく、微かに火薬のにおいが残っていた。よく見れば壊れているところもある。奥にいるパパを呼んで、袋の中身を見せようとした。だけど、パパはその袋を見た瞬間立ち止まり、ぽろりと涙をこぼした。一歩、また一歩、ゆっくり近付いて、袋の前でしゃがんだパパは、声を押し殺しながら袋の中身を確認し、また涙をこぼす。そんなパパを見て、もう1度袋の中の金色を見つめた。...もしかして、前、パパが一生懸命直してた武器...?また壊れちゃったのかな...?パパは静かに袋の中身を見つめていた。パパは泣いてるからお仕事できない...わたしが、パパの代わりに直してあげなきゃ!
「これ、パパの代わりに、わたしが直す!」
顔を上げたパパは、悲しそうな顔だった。急いで自分の整備道具を持ってきて、その金色の武器の壊れている部分を取り外した。早くパパに笑ってもらわなきゃ!傷だらけで、もはや取れかかっている外装を剥がす。細かなパーツは激しい炎に焼かれたのか、爆発に巻き込まれたのか、跡形もなく溶けてしまっている。溶けたパーツを取り出そうとするが、上手く取れない。パパはわたしを見つめている。やがて、バキィッ!と音を出して、溶けていないパーツまで割れてしまった。力を入れすぎたせいだ。もういいよ、と言うパパに激しく首を振り、再び目の前の壊れた部品に視線を落とす。溶けたパーツは取り出せそうにない。じわじわと奥から溢れ、部品の上に涙がこぼれおちる。わたしはこれを直せない。パパも笑顔にすることはできない。落ちた粒の数が2つになったとき、パパが優しく抱きしめてくれた。
「...この武器は、お前にあげよう」
「え...?でも、これ...修理して、パパのともだちに返してあげなきゃいけないんじゃないの...?」
視線を上げると、涙を拭いて優しく笑うパパの顔があった。
「こいつには...修理しても、もう使ってくれるヤツがいないんだ。だからいつか、お前がこいつを直してやってくれ」
まだ幼くて、言葉の意味がわからなかったわたしは、笑顔で強く頷いた。
その後、魔法軍との戦争も激しくなり、機械軍は兵力不足となる。やむを得ず兵士として回されたのは、一部の後方支援の機械技師であった。戦闘経験のあったシーユの父親も戦地へ回されたが、再び戻ってくることは無かった。大きくなるのは魔法軍への憎しみばかりで、現状は何も変わらない。父のような機械技師になる...その為にはまず、誰かから技師としての知識を学ばなければ。そう考えた当時のあたしは、父の友人で機械技師である人に頼ってみることにした。