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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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エピローグ1


 シェーダ商会の地下。何もかもが終わり、そこに差し込んだ光にうっとりしていたものの、あれ?、と思う。


 地下空間の天井にひびが入っているって、やばくね?、と。


 ギクッとするも、それを反省するだけの間もなく部屋が嫌な音を立て始めたため、慌てて助け出した人を抱え込んで天井をぶち破って抜け出すことで危機一髪助かった。それが決定的な引き金になったのか、地上に出た康太たちの眼下には、広い庭が陥没している商会の隣の屋敷が広がっていた。


 その屋敷が誰のものなのか。罪に問われたらエミールに擦り付けようと誓うのだった。




 そして、騒がしい夜が過ぎて一日が経った昼。


 雅紀たちはというと……


「静ー、そっちのもも肉取ってくれ」


「分かったー、ちょっと待ってて。あ、その野菜貰ってもいい?」


「ああ、持ってけ持ってけ。康太、そっちは足りてるか?何か追加でほしいものは無いか」


「お、それなら焼きそば貰ってもいいか。シーが気に入ったみたいでな。ん?どうした、そんなに首振って」


「ダメですよ、康太さん。デリカシーが足りませんよ、ねえ、シーちゃん。…ほら、やっぱり」


 顔を赤くして首を懸命に振っているシーを撫でながら朱莉が諫める。


「そんなもんか?子供は元気に遊んで食って寝てなんぼじゃねえか」


「わかっててそれか。ダメだって、康太。女の子は子供でも女なんだから」


「なんでそんなこと知ってんだよ、雅紀。誰情報?」


「小学生の従妹」


 ザッザッという足音が消える。


「危なかったですね、雅紀さん。後ろで鬼が出かかってましたよ?」


「はっはっは。…イゴキヲツケマス」


「どうしたの、何のこと?あ、これ、頼まれてたもも肉と焼きそばって言ってたからバラ肉も。大きい方から持ってきたけど、いいよね?」


 本人は至って無意識な模様。


「ああ、どっちでも大丈夫だ。っと、焼きあがったからこれ持って行ってくれ」


「うん。けど、雅紀もちゃんと食べてる?交代しようか?」


「いいって。いつものお礼も兼ねてるんだから、のんびりしててくれ」


 そう言いながら持ってきてもらった肉を鉄板に載せ、肉の焼ける音をたてる。ついで野菜と面も投入し、広い鉄板を生かして同時に進め、たれを混ぜたところで匂いに釣られたのか子供たちが集まってくる。


 現在、雲一つない青空の元、雅紀たちは孤児院でバーベキューをしていた。バーベキューといっても網焼きから鉄板焼きから、外でやる料理なら何でもありといった状態ではあるのだが。


 孤児院にはあの騒ぎの後に新しく入って来た子供もいるわけであり、その騒ぎを起こそう原因になってしまったことへのお詫び、そして雅紀が教会を直したとはいえ半壊にまでしたことの埋め合わせである。手持ちに大量の肉があるのでそれを出そうとしたら、そんな高級品は、と司祭様たちに全力で止められ、街で買い込んできた肉を使っている。ちなみに、こっそりと司祭たちにはオーク肉を渡したところ、これで一杯やるつもりらしい。


 野外料理祭りともいえる中、子供たちはこれでもかと山積みになって用意されている料理に夢中になっている。雅紀も言っていたように料理しているのは、男二人組で、なぜか野外料理の達人である。家庭料理では普通のものしか出せない中、直接火で炙ったり、網焼きにしたりすると突然上手くなる。


 口いっぱいに詰め込む子供、興味ありげに見てくる子供と一緒に焼いてみたりとワイワイと楽しみながら時間を過ごす。


 昼でそれだけはしゃげば眠くなるのは当然で、幼い子供たちは余すことなく昼寝に直行し、年長の子供たちはシスターたちに連れられ、室内でいつものように手を動かして学んでいる。その結果、庭には司祭と雅紀たち、そしてついさっき合流したカナックだけが残る。




 地上に出た康太と朱莉は、助け出した人たちが身体を休められる場所として教会を選んだ。孤児院もあるので子供が増えても問題が無いことに加え、非常時には教会が避難先として働くことからである。ついでに、そこに陣取った雅紀がどうにかされているとは考えられないからである。


 教会に向かうことを決め、スラム街にいるはずの静に連絡を取って移動を開始したところ、スラム街に現れていた悪党は残すことなく排除が済んでいたようで、文字通り飛んで助けに来た。突然すぎる登場に驚く気力さえ残っていない人たちを前に、移動しつつも診断を始める。診断といっても大半が栄養失調や水分不足といったものであった。


 引きずられている人の顔に首を傾げながら街中を進む。街中はボヤ騒ぎがあったせいか慌ただしい雰囲気が広がっていたが、今の街にはそれ以外にも何か喜ばしい雰囲気が広がっている。忌々しい商会が一つ潰れたことに対するものでないことを祈りつつ、教会までたどり着いた。


 教会内はそれはそれは人であふれかえっていた。横になっている者たちは例外なく体のどこかに包帯を巻いている。これほどの人がどうしたのかと入ってきた三人には思い当たることがなく考えていると、人込みの中から聞きなれた声が投げられる。見渡してみれば、頭が並ぶ中に腕一本、ひょこっと飛び出している。


 連れてきた人たちを抱えたまま人をかき分けて進むと、雅紀が部屋に手招きしている。見えないのにどうやって気付いたかについては、こいつらに関しては聞くだけ野暮というものだろう。いろいろ前もって用意されていた部屋に運び込んで手当てをし、同じく引きずってきた男どもを、何故か磔にされていた男の横に並べていく。


 火事騒ぎがおさまったことはスラム街を見ていた静も分かっていたようだが、現在この街に漂っている戦勝ムードは、どうやら昼に出撃した討伐隊が無事に任務を終えて帰還したからであった。こればかりは先ほどのこと故、戻ってきた連中を直接見なければどうしようもない。この教会に運び込まれた怪我人はそれによるものだとか。


 貼り付けにされた男たちについては、雅紀が後片付けという証拠隠滅を図っている最中に一足先に戻ってきた司祭にばっちりと目撃されてしまったようで、「見られちゃった、メンゴ?」と雅紀が舐めたことを言ったため制裁が加えられることとなった。癪なことにそのおかげで連れてきた人たちの説明が楽だった、とは康太の弁。


 司祭に後のことを任せ、その日は宿に戻ることにした。月は既に空高くまで上っていた。宿に戻ってみれば、突然飛び出した後で大騒ぎになって心配したんだからと店の人に詰め寄られ、平謝りするしかなかった。


 その次の日は、討伐から戻ってきた衛兵のエリートたちが合流した結果か、昨日の火事騒ぎ、地盤沈下事件、スラム街での大量の犯罪者の確保、そして聖神教使節団の逮捕等々と一晩で起きた大量の事件の捜査が一斉に始められ、街中を多くの人が行ったり来たりすることになった。そして、教会からの情報によって雅紀たちにも連絡が来たのである。


 それに対する返答が、翌日の午後、つまりバーベキュー大会の後ならOKであった。




 誰もいなくなった孤児院の庭。そこで後片付けをしながら雅紀たちは司祭を交えてカナックと話していた。カナックはこの街の治安を維持する部隊の隊長という立場だけでなく、この街を治める領種の家系という立場でもここにいるようで、後ろには見るからに衛兵ではない種類の人が控えている。


 事件を話すのに、最も適当な場所。それがこの孤児院の庭であった。庭というよりも孤児院である。獣人の子供が保護されている孤児院。スラム街で静が全力を出したおかげでほぼすべての子供に目印をつけることに成功し、保護することによりスラム街での保護活動は終わりを迎えた。今日の野外料理祭りは新しく入って来た子供たちがなじめるようにするためのものでもあり、事はうまく運んだようであった。


 片付けと言っても食べ物は残すことなく食い尽くされており、鉄板も加工のおかげで軽く水洗いすればそれで終わる。皿だけが山のように積み上げられてはいるが、シスターたちのおかげでそれもすぐに終わる。その短い時間でここのところ続いた事件の説明を受けていた。


 そしてそれを物凄く要約すれば、”エミールがやらかした”、この一言になるらしい。


 それ故、巻き込まれた人に対する謝罪するために領主一族という立場でも動き回っているらしい。


 スラム街で動いていた静だけがその実感がわいていないようであったが、エミールと共謀関係にあった聖神教と対峙した雅紀と、エミール本人の口から聞いた康太と朱莉には驚くことではなかった。


 ここのところ続いていたシェーダ商会の魔石の買い占め、怪しい魔物の目撃証言、聖神教のあれこれ、スラム街に突然現れた悪党ども、地竜騒ぎ、火事騒ぎ。どれもこれもエミールが計画していたもののようで、その目的は獣人の確保であったようだ。他の貴族の中に獣人を高値で売りつけていたようで、商品の補充だったらしい。


「この国では奴隷制が禁じられているというのにけしからん。ここまでの阿呆だとは思わなかった」


「いや、獣人以外にも手を出してたり?うちの連れを見てた時の目、ヤバかったぞ」


「うむ、残念ながらそのようであった。こちらはグレーゾーン、というよりも辛うじて違法でない手段で行われていたこと、被害者が泣き寝入りしていたようでどうしようもなかった。合法と言っても、違法でないというだけだがな。まあ、これで奴は金輪際表には出ない、というか出させないつもりだ」


「まあ、しっかりと対応してくれるならそちらに任せますけど」


「ああ、任せてくれ。しかし、よくぞ捕まえてくれた。分身を作り出す魔道具を持っているとはな…。道理で表舞台にいたあいつを見張っていても気付けないわけだ」


 自分の弟が貴重な魔道具を使ってまでしたかったことが、違法行為で金稼ぎであったことに不甲斐ないと嘆くカナック。話を聞いていてうずうずしていたのが見て取れたのか、苦笑いしながらその魔道具を見せてくれると約束する。


「しかし、何処でそんなすごいものを手に入れたんですかね」


「ああ、それなら今持ってきてもらっている。俺も手にしたことがあったんだが、そのときは気づけなかった。…ああ、あの馬車だ」


 聞こえてきた馬車の音に従って教会から出てみれば、商人が使うものとは一線を画する豪華な馬車が近教会の前に止まっている。そして、カナックがその扉の前に立つ。次期領主であるはずのカナックが下働きの男のように動いたことで乗っているのがどういった人物であるかを理解するも、降りてきたその人を見て頭の回転が一時ストップする。


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