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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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デュクスの騒動16


 一足で懐に潜り込んで、魔剣ではなく魔鉄製の剣で腕を斬る。魔力を吸い取る攻撃ではないので、斬った場所から血が零れる。剣がなまくらだったため、斬撃よりも打撃としても面が強かったらしい。


 突然の痛みに転げまわってから流れ出る血を見て、奇声を上げて慌てて怪我を治している。その治療スピードは雅紀と静には届かず、この街のシスターたちともいい勝負かもしれない。神官のくせして戦闘用の魔法の訓練していたことが丸わかりである。


 膝をついているところを鳩尾を爪先が抉るような蹴りをお見舞いする。巻き添えで腕の傷が開くだけでなく骨まで折れるが、気に掛けることはない。


「おい、あの森の魔物は何なんだよ。さっさと話せ」


 騎士との出会いの怒りだけでなく、この街で何をしようとしていたのかをほぼ理解したために湧き出してきた怒りをぶつける。恐怖をあおるためにわざわざ靴音を立てて歩く。


 蹴られた宣教師が咄嗟に取った行動は障壁を展開することだった。何重にも展開する。そのスピードは先ほどの回復とは比べ物にならない。通路に張られた障壁は、雅紀が手を振るうだけで消滅し、変わらぬ歩みが続く。障壁だけでは止められないこと、展開してもすぐに消え去ること。それが分からないはずもないのだが、それしかできないかのように繰り返す。


 雅紀が指さす。それだけで障壁が消える。それにも飽きてきたのか、ついには障壁を出すことさえ許さなくなる。魔力を溜めている杖に魔力をぶつける。精霊に魔力を渡したところに魔力をぶつける。その精霊が変えようとしている事象を重ね塗りする。


 様々な方法を試すようにして、自信を打ち砕いていく。すべての手段を封殺されたというのに、プライドだけは一人前のようで許しを請うことはない。請うことがないだけであり、上から目線で何かを言っているようだが、雅紀の耳には入らない。


 遂に雅紀が見下ろすところまで近づき、逃げないようにと足を踏んでいる。逃れるようにじたばたしながら何かを叫んでいるが、意味のある言葉はない。感情のままに叫んでいるだけである。


「ぐわあああ、痛い痛い痛い、さっさと離れろよお!?その足退かせって言ってんだあ!!」


 口調からも初めの面影は消え去っている。この姿が本性なのだろうが、これを使節団の人間は知っているのかと気になるが、知らないだろうし、違ったとしてもどうでもいいかと流す。


 杖を折れた腕で振ろうとして痛みにのたうち回るという、馬鹿なんじゃないかと思わずにいられない光景だったが、握力が死んでいるようでポーンと何処かへ飛んでいく。それを見送り、手元に何もなくなったからと手の届く範囲のものを投げ出す。石やら本やら手帳やらが飛んでくるが、コントロールもくそもないため当たるはずもない。


 駄々っ子はおねんねの時間、などと考えながらとどめに剣を振り下ろそうとしたところで、後ろから高速で何かが突っ込んでくる。先ほどまで気配の欠片もなかったところから突然現れたそれに驚きながらも、剣を振りぬく。


 この戦いで使っていたのとは違う、確実に命を奪うための剣。その剣が突然走り寄ってきた魔物を上下の二つに分ける。


 何事かと切り捨てた立派な角突きの牛を見ていると、視界の端で魔力があふれ出して形を成して同じように突っ込んでくるのが見える。何が起こったのかはまだ分からずとも、とるべき行動は変わらず、腕が動く。


 その二体で打ち止めだったようで、何が起こったのか調べるために現れた場所を見てみれば、そこには高そうな魔石が砕けていた。この魔石が魔物の発生源らしいことが分かり、回収してから宣教師の下へと向かう。投げた本人ならばこれが何か知っていると考えたからである。


 再び見下ろして一言。


「ったく、なんでこれで気絶するかね」


 牛の魔物に押しつぶされる未来を描き見たのか、泡を吹いて倒れている人がいた。詳しいことを何も聞けないまま、黒幕の内の一人であるこの宣教師を捕まえることに成功するのであった。


 街中の騒ぎがおさまり、教会に戻ってきた司祭が見たのは、ドンパチやりまくって壊した教会を直して血だまりを拭き掃除している雅紀とそれをみて首を傾げている獣人の子供の姿であった。





 その地下室の有様は、英雄たちの墓場というのにふさわしい光景であった。


 墓標のごとく、世界で語られている英雄譚に出てくる武具が見渡す限りに林立している。そして、何よりもその武具がかすかに光り、端から光の粒子へと崩れて空へと昇って行っていることがそれに拍車をかける。


 一応は地上にいる人への配慮はしているようで、貫通して土台がもろくなってしまわないように天井にはほとんど傷がついていない。傷はすべて床であり、それを辿っていくとそこにはその傷を作ったのであろう剣や槍が突き立てられている。


 その中で、今もまた新しい傷が刻まれている。



 康太の拳が唸る。床にひびを入れるほどの拳をエミールは避けようと身を捻るが、その程度で逃すわけもなく腕と胴体半分を掻っ攫う。致命傷を受けたエミールの身体が光を帯びるが、お構いなしに朱莉の刀が残された身体をばらばらにする。


 死ぬことなど無いように振る舞っていたエミールだが、再び五体満足の身体に戻ったというのに顔が引き攣っている。それだけでなく、全身から今までに感じたことのない違和感が返ってきている。


 その身体は違和感を訴えているというのに、この二人に引きずられるようにしてか、死に直面して制限が外れたのか、そのどちらもなのか、発揮しているパフォーマンスが同時に最高であることはエミールにはわかっていた。貴族として多くの金をかけて訓練してきたうえでの最高のパフォーマンスだというのに、この二人には敵わずにいた。


 これまでとは違い、ときたま反撃を入れることが出来ていたが、数発で致命傷になるほどではなかった。


 力で勝負しようと思えば康太に正面から押し返され、速さで勝負しようと思えば朱莉に背後に回られる。常に相手が全力で来てくれればタイミングを合わせることで一撃を入れられるのかもしれないが、この二人は独自の波を持っているというべきか、常に全力でかかることはせず緩急をつけ、時には担当する分野を交代さえする。


 自領地で住民を捉えて売買していた証拠を取られてしまった以上は、逃げてもどうしようもない。特に、エミールはこの二人を含む雅紀たち四人には負い目がある状態であり、兄であるカナックに伝えられてしまえば終わりになることは明らかであった。せめて証拠隠滅させてくれれば、そう思ってのことであったが、悉く裏目に出てしまっていた。


 バタン


 人が倒れる音が聞こえる。


「残り100」


 ここでまた忘れた頃に魔力でできた体を確保しに来る。


 残り500から削り始め、一分頭に5回は魔道具を発動させている。数十回も死をもたらす攻撃を受けていれば重要度がそこそこの情報など頭からはじき出されてしまう。加えて、その方法がただの攻撃と何の違いもないというのが嫌らしい。こうして、康太と朱莉は証拠品という残機を増やすことに成功し、エミールを追い詰める。



 今も槍で近づいて薙ぐのかと思えば飛び上がっての投擲で剣ごと地面に縫い留める。復活する度に服も装備もきれいに戻っているのを見て、壊れたはずの剣を元に戻しているのか、これも新しく魔力で作っているのか、気にはなるが後回しにしている。


「残り68」


 朱莉のカウントダウンが着実に進んで行く。魔力を物質化というのは夢があること故、朱莉も気にしているようで、ここで斬り飛ばした腕を実体化させたままで確かめている。今まで確保した体はそこら中に散らばっているが触って確かめていなけれど、取りに行くの面倒くさいな、と眼の前から確保している。


 確保したそれが異様に軽いこと、確保した証拠品をよく見てみれば剣が消えかけていること、捨てられた身体が魔力へと霧散していることから、エミールの魔道具の原理が、身体が存在するという情報の書き込みと物理的な接触の発生だけであり、身体のほとんどは魔力でできていて、新しい身体を作り出すのにその魔力を再利用していることに朱莉は気が付く。


 先ほど残り回数を当てたときには本体から減った分だけを観測していたため、残機が分かっただけであり、理屈はわからずじまいのままであり、ようやくすっきりしたといい笑顔になる。


 ここまでのんびりとしているのは、何回もリスボーンさせまくったエミールが現れるとともにその場に倒れたからである。魔道具の影響か魔法を使えないようであり、特に気を付けるべき遠距離攻撃もないからである。気を付けるべきと言えば、エミールと接触する前に倒した奴らとボディーガードがいるが、そこは朱莉の世界大百科事典ともいうべき魔術でしっかりと寝てもらっている。保護したシーも同じようにして精神を守ろうとしたのだが、気絶させられて攫われてせいで、寝るということにトラウマが出来てしまったようなので、リラックス効果のあるもので代用している。


 倒れたままのエミールが意識があることはわかっていたので警戒していた康太だったが、証拠品を確保されたうえで秘蔵の魔道具でも歯が立たずにいることで狂気にでも触れたのか、突然ガバッと起き上がって何かをつぶやきながら朱莉へと突進を始めたエミールに面食らう。それは証拠を隠滅しようとしていた今までの姿勢とは別物であった。


 その復活できるのをいいことにした特攻じみた真似に背筋が冷えた康太が、どうにか間に入ろうとする。間に入らずとも、致命傷を与えれば押しとどめられるのではないかと思うが、朱莉に直接触れる形で復活されるのを嫌がり、代わりに軽いジャブで遅らせることにする。現れた直後にどちらに進んでもいいようにばらけていたのが裏目に出てしまった。


 走る向きと逆の力が加わったというのに、なりふり構わず特攻するエミールに背筋が凍る。こんな時ぐらいは考察は後回しにしてもらいたいもんだと苦笑いしながら、稼いだ時間で間に合わせる。触れるのは嫌だったが、そうでもしなければ取り押さえられる状況でなかったので諦めるが、それでもなお朱莉へと進もうとするその姿が気持ち悪いと思わずにはいられない。


 その身体が接触した康太は何か固いものが腹に当たる感触を覚えるが、剣は腰に下げられたままなので違い、何なのだろうかと首を傾げながら寝技に持ち込もうとする。そのときにぶつぶつと何かを言っていたエミールが叫ぶ。


「代わりにお前も逝ってもらう!!」


 エミールからあふれた魔力に、新しい魔導具かと警戒すると、エミールのその奥から黒いものが覆いかぶさるように襲ってくる。


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