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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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デュクスの騒動12


 カチャカチャと小さな床の破片の上を歩く音に加え、確実に落としたと思っていた男の声が聞こえてくる。


「ふむ。聞いた話では、姫は護身術のような体術、そっちの男は体術のみだと聞いていたんですがね。まさき、このような手札を隠していたとは。危ないじゃないですか、危うく尊い命が失われるところだったではないですか」


 そう言っているが、服のどこにも汚れも傷もなく、命の危機にさらされていたとは思えない。その後ろにはもう一人のボディガードが付いて来ているが、こちらはエミールとは違ってダメージを負っている。


「どうやら尊い命ってのには、他の種族の命は含まれてねえようだな」


 どのような方法を取ったのかはわからないが、攻撃を加えれば時間が稼げるようなので、康太は攻撃を緩めない。滑るような加速で近づき、横に足を振りぬく。手加減したつもりはないのだが、反応されてしまい守りの上からになってしまうも、同じように吹き飛ばすことはできた。


 吹き飛ばされたエミールを追いたいところだったが、残念ながらボディーガードの一人が絡んできたためにそちらの対処に追われる。大男のような馬鹿力や小柄な二人のような速さと毒物があるわけではないが、なかなか決め手がない。手を合わせてみて感じたことは、このボディーガードは対人戦闘の経験をかなり積んでいるということである。


 馬鹿力での押し一辺倒や小柄な体と速さと毒を用いた暗殺では身につかないであろう戦闘の読みと駆け引きといった経験。それが康太の目の前の男にはあった。この街の裏社会の住人なのだろうが、一撃離脱の戦い方をしないというのは素直に驚くところであった。てっきり裏社会の人間は、暗殺をメインにしているものだと思っていた。


 裏社会の人間がシェーダ商会の暗躍に関わっているのだが、どちらが先に声を掛けたかについては、エミールが先のように感じられた。その声を掛けたのがさきほどののした男たちであり、エミールを守るように動いていることからしてみると、このボディガードたちは裏社会の人間と言ってもエミールの駒なのだろう。


 その中でもこの男はエミールの身辺の警護を任されているに違いない。これほどの力量が必要とされるのは、命を狙われている人間でなければ必要とはされないものであるからである。


 それほどの腕前があれば、エミールの下で暗いことをしなくとも冒険者になれば引っ張りだこだろうに、と残念に思いながら、あえて見せた隙を狙うように大振りになった腕を掴んで体勢を崩す。この世界では投げ技や寝技が広まっていないようなので、面白いくらいに技が決まる。お互いに倒れながら、身体を捻って相手が下になるようにしながら地面につくと同時に肘を入れ、今度こそ一撃を入れた感覚を持つ。


 その反動で起き上がり、エミールを切り刻んでいる朱莉の方へと向かう。




 吹き飛ばされたエミールを追いかけようとしたが近くにいた男に止められてしまった康太を見て、朱莉は剣を構え直して走り出す。シーをそのまま残すわけにもいかないので、これまで以上の防御を固める。何処からか出てきた木の根が鳥かごのようになり、その周りを半透明な立方体が覆って数匹の鳥がまわる。すべて呼び出したもののようで、放っている魔力はこの場にいる誰にも傷つけられないことを雄弁に語っている。


 走り出しは康太と似たような滑るような走り方だったが、その姿は靄がかかったように見ようとしても焦点が定まらず、飛ばされているエミールも斬られて初めてその存在に気がつく。握っているものはさきほど召喚した光があふれ出す剣だが、あふれ出している光が収束されており、剣というよりも刀といった方がいいサイズまで抑え込まれているが、体積に反比例するように輝きが増している。


 斬りつけるその動作にはためらいの欠片もない。


「くっ。直接的に命を奪いには来ないと思っていたのですがね」


 毒づくエミールだが、朱莉の手はその間にも動き続け、付け根に光の刀を入れて手や足を斬り飛ばす。本来ならばそれで命が失われるような攻撃だが、斬り飛ばされた腕や足の切り口から零れるものは無く、しばらくすればかすれるようにして消え、本体を見てみれば先ほどの場所から少し離れた場所に五体満足な姿で立っている。


「先ほどの攻撃で大丈夫ならば、これも大丈夫でしょう。どういう原理なのかはわかりませんが、これほどのこと、何度もできるわけではないでしょう。尽きるまでやらせてもらいます」


 斬られた場所を確かめるかのように撫でているエミールを見ながら朱莉が宣言する。しかし、エミールは余裕を崩さない。今のは何もできない状況で攻撃されたからであって、もうこんな機会はないですよ、と不敵な笑みを浮かべて腰につけていた剣を抜く。


「体術に光魔法、それに剣術ですか。才能に恵まれていて羨ましいですね。…是非とも私のものにしたい」


 トスッ


「…は?」


「口を閉じろ下種が」


 眼を離すことなどなかったはずなのだが、いつの間にか背後に回られ、剣で胸を貫かれている。何が起こっているのか理解できないが、このままにはいけないと剣を振ろうとするが腕が動かない。こんな時に何が、と見てみればそこには何もなくバランスが崩れるのを感じるが、それもすぐに解消される。


 何が起こったのか理解して、それに文句を言おうと声を上げようとするが、最後まで発されることはない。


 先ほどよりも多く切り刻まれるのを感じ、視界に朱莉が映し出されたときには剣を振り下ろす。腹部に衝撃を感じて世界が傾く。


 再び朱莉が視界に入ってくるが、冷静さを取り戻したのか距離を取ろうとする。背中に衝撃を感じて席が上にずれていく。


 今度は朱莉の背中が視界に映って守りの態勢に入る。目玉はどこについているのかと問い正しくなるほど正確な狙いを付けて刀が振り向きざまに襲い掛かってくるが、何とか受け止められる。ここからいけると思うが、その瞬間に世界が回り始めて黒く染まる。



 そこからは一方的であった。



 エミールから見てみれば何が何だかわからないが、朱莉がやっていることは今までと変わらない。


 影渡りをして無防備な背中を貫き、不快な言葉が紡がれる前にそこから刀を動かし、両腕から始まって全身を切り刻む。


 先ほどと同じようにその近くに現れて襲い掛かってくるのを居合で胴体を二つにおさらばする。


 今度は現れてすぐに逃げようとするが、背後に回って肩から脇にかけてを切り落とす。


 背中に現れたくせに守ろうとする男にあえてわかりやすい起動で振るい、難なく受け止めたところで足を蹴り飛ばして回した状態で土手っ腹をぶち抜く。



 殺しても死なず、かつ血液が飛び散ることも無いのをいいことに、真剣でやるには殺傷力が高すぎた刀を振るう。


 追加で何回か臨死体験させたところで康太が戻って来る。戻ってきた康太とこれからどうするかを決める。この男をいようといまいと、獣人の子供を狙う輩はいるだろうが、それでもどうにかしておけばそれだけ狙われる確率が下がる。


 朱莉から受けた臨死体験の影響が引いているのか、朱莉を恐れて距離を取ろうとはしているものの、何度も背後を取るときに使われた技が影の移動だと気が付いたのか、朱莉の輝く刀から離れようとはしない。部屋の端まで行くと全方向が真っ暗闇に覆われることになってしまい、さらなる恐怖を味わうことになるからだろう。


「この男、どうやら死なないらしい。いや、死んでもいい何かを動かしているといった方がいいのかもしれない」


「なるほどな。それよりも、戻って来いよ朱莉。俺はここにいますぜ?」


「そう、ですね。ふう、大丈夫、大丈夫、もう大丈夫。……落ち着きました」


 額を何回かこつんと叩きながら、唱えるようにして言葉を紡ぐ。静かな動きであったが、それは周りに与える影響にも出る。殺すためだけにあつらえたような刀の輝きが微かに和らぎ、ビンビンに放たれていた殺気が鳴りを潜める。もちろん、この男を許すはずもなく、まだ敵意と圧力はかけている。


 斬られた場所をまたも触れていたエミールは、その戦意がもがれた朱莉を見て鼻で笑う。


「はっ。どうやら、姫ではなく野生児ではないですか。いかに上っ面がよかろうと、私の横にはふさわしくない。心まで清く正しい者こそがふさわしい」


「いや、そうなりゃお前、比べられて大変だろうな。片や真っ白、片やドス黒、絶対に合わないだろうよ。…お前に合うのは、お前同様真っ黒クロスケだけだろ」


「何も見えていない、これだから……。まあ、いい。野生児が元に戻ったのならば、お前たちに私を倒す術はなくなった」


 エミールも影響が抜けてきたようで元の勢いを取り戻しつつある。


「お前らがどれだけ私を斬ろうと潰そうと私は死なない。死んでいない。それでどうやって私を倒すと口にするのか」


「身代わりか、そういう魔導具でもあんのかね」


「幻影という可能性もあります」


「見てわかったりしないのか?魔法じゃないことは俺にもわかるんだけどよ」


「初めて会った時もすでに身代わりだったとすると違いが分かりませんね。見て取れる範囲では私たちとも違いがありません」


「気も読めないのか?」


「感じはしますが、どうにも弱くて読みづらいです。魔力のせいなのか、魔道具の影響なのかはわかりませんが」


 康太と朱莉は反応からも判断したいようで、エミールにも聞こえる声の大きさで話している。それで得られた反応は魔道具が当たりということぐらいであり、それもバレて当然と思っているようでほとんど反応がない。


 エミールもこれまでの相手同様、この特殊な不死身性を相手にして手も足も出なくなるのを見て高笑いを上げたくなる。自分を叩きのめすと自信満々に宣言していた奴が途方に暮れる瞬間。それほど痛快なものは無い、と。そこから大抵の相手は逃げ出そうとするのだが、もちろん逃がすわけもない。


 これからは私の手番だ。


 そう思ったエミールだが、このこの二人はその手の考えにはたどり着かない。


 倒せない?そんなもの最後までやってみなければわからない。


 エミールが変な笑みをこらえて顔を前に戻して視界に入って来たのは、光の奔流だった。


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