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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
9/100

出発・・・できません


「なあ、静、許してよ」


「・・・」


「そんな目で見詰めないでくれよ、惚れちまうぞ?」


「・・・」


「・・・」


「・・・こっちきて」


「待って、ごめん、まぢでごめんなさい。だからそんな引っ張んないで、って、つよ!待って、ねえ、あ、康太、たすk」


 雅紀が静に涙目で迫られ、連れ去られるところに(康太視点)、康太はオオカミを浮かべながら帰ってくる。


「おうおう、お熱いこって」


「では、私もさせてもらいましょうか」


「別にいいけど、なにを?」


「ふふ、覚悟はいいですか?」


「お、おう、なんか怖えな・・・」


 オオカミが二〇〇を超えて襲ってきた後とは思えない光景だった。康太は朱莉に引っ張られつつも、ともしていた照明代わりの光を消すのであった。その後を見ていたのは真ん丸お月様だけであった。




 翌日の朝、出発の日だというのに体力はありふれているのだが、静に連れていかれて寝たせいで精神だけが異常に削られた雅紀、満足そうにつやつやしている静、静かにイチャイチャしている康太と朱莉の姿があった。あくまでも、学生として節度あるお付き合いをしている二組。雅紀がやつれているのは、静の好きなように甘えさせていたのが原因である。一歩でも踏み出すと、どこからともなく、凶器を持った大人が襲ってくる環境で過ごした雅紀たちにそんな度胸はない。


 荷物を整理し終えて朝ごはんを食べる。オオカミには手を出さず、イノシシの肉をかじりながら、最終確認していく。


「荷物は大丈夫そうだな。あとはどれくらいで街に付けるか」


「西に進み続けりゃいつか着くだろ」


「確証が欲しいところなんだが、まあいいだろ」


 みんなが思うところがあるように目を閉じて考える。気にしないことにして目を開ける。

 本が机の上にある。魔法を使っても、何の前兆なくものが現れることはない。見た目は、ちょっと高級な日記帳みたいであるのだが、そこから感じられる魔力は無に近かった。


「なんだこれ?」


「ええっと、題名は、い、せ、か、い、の、せ、つ、め、い、しょ、だって。なんで読めるんだろう」


「開いてみるか」


「離れて開こう。罠かも」


 イノシシジャーキーをかじりながら、長い枝を使って表紙をめくる。十秒ほど待っても何も起こらないので、雅紀だけが机に戻ってもう一枚めくる。

 そして、本を閉じる。


 内容はというと・・・


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。・・・」


 病んでいた。


 とてつもなく病んでいた。


 これはやばいと思ったのか、速攻で本を閉じる。


「安全そうだな。よし、康太、これを読んでみてくれ」


 何もなかったかのように、康太に安全を確認したといって、本を押し付ける。


 康太は雅紀の行いに特に思うことがなかったようで、本を受け取ってページをめくる。そして本を閉じ、天を仰ぐ。


「雅紀、俺はな、ヤンデレだけは無理なんだ。ごめ」


 バタッ

 ヒュー パラパラ


 康太が何故か倒れた後、風でページがめくれて普通の文章が書かれていることを知る。


 朱莉が康太の介抱を始める横で、例の部分が見えないようにして、前に戻る。康太はすぐに目を覚ますも、記憶が飛んでいるようだ。過去にヤンデレで何があったのか気になる。


「えーと、なになに。この世界についての説明とこの世界に来た原因について」


 ブチッ


「今更かよ!今更それが分かってどうしようもないっての!」


「うわあ、ほんとに今更だね。で、他には?」


「必要そうなところだけ読むと、言語についてはどれでもいけるようにインプットしました、だとさ。ああ、さっきのか」


「あの表紙の文字がそうなんだね」


「あとは、地図からすれば、西でも東でも町は行けそうだから、予定通り西で」


「これはちょうどいいタイミングでしたね」


「だね。それで飛ばされた原因は?」


「地球から召喚しようといた神と地球から魔力をパクろうとした神のせいで、空間に異常が出た、だそうですよ。神様っていたんだ」


「どうしようもない理由だ」


「それよりも、そろそろ出発しようか。荷物は”n次元ボックス(ただしnは4以上とする)”に入れてあるから、そのまましゅっぱーつ」


「とりあえずその名前短くしようか」


 机をしまって進み始める。康太はやっちまったという顔をしている。昨日オオカミの死体をn次元ボックスにしまえば持ち帰ってこれたのに、と思っているようだ。


 この魔法、n次元ボックス(ただしnは4以上とする)は、ゲームでお馴染みのアイテムボックスと同じである。魔法で物質が作れるならば、逆も可能だ、という理論に基づき、創りあげた魔法である。モノを情報と魔力に分け、どちらも自分だけの空間にしまうという、科学しようとした時点で負けのような考えである。雅紀たちも考えるのをやめ、想像だけでごり押した魔法である。このnについては、情報の次元って何?となり、困ったら変数化のお約束に従ったからである。今回のnを4以上の自然数としているのは、出し入れのときの術者との相対座標で三次元、時間で一次元とし、他にもあるかも、となったからだ。歩いてすぐに、適当な名前を考えるのに飽きたのか、アイテムボックスに名前が変わった。


 雅紀たちは、ここで情報端末であるスマホを使うことにした。データなら電子機器で保存できると思うことで、データ、魔力ともにスマホに収納させる。品目も表示できるようで、忘れて取り出されずに放置なんてことは避けられそうだ。スマホの万能性に万歳。


 雅紀たちは神様からの贈り物であろう本をほとんど読まず、森に踏み込んでいくのであった。


 ここで雅紀たちの飛ばした情報を加えておくと、空間に異常が出てもすぐさま異世界に行くわけではない。普通なら、同じ神様の星内で空間がつながる。しかし、今回は世界を超えての召喚がすぐ横で行われていたせいで、神様がつなげた通り道に紛れ込んでしまったのである。


 この神様の作った道では、召喚される人以外の一般人なら体が持たずに魂だけが抜けだすところ、この四人は魂が入ったままの肉体で、召喚勢と一緒にこの道に来てしまった。そして、この道を通って、別の世界、ユーテリアに来てしまったのである。魂だけならば神の道で止まり、移動しなかったのだが、肉体を持っていたせいで移動できてしまったのである。ここに魂だけで止められた人は、記憶を消されて元の生活に戻っている。そのため、行方不明になった人は、教室にいた人と、廊下にいた雅紀たち四人だけである。


 召喚勢以外で飛ばされている人がいるのに気が付くのに一週間ほどかかり、今になって地球側の神が召喚勢に施した処理を後付けで四人に施したのである。


 後に生身で神域を通った影響が出るのだが、この時は全く考えもしていなかった。




 西の深い森に突入すること3時間、雅紀たちはものすごくいい笑顔で進んでいた。


 この森、進むにつれて、空中の魔力濃度が上がっていき、50メートルの木々でさえも低めに感じてしまうほど、物凄く高い木々が育っているのである。直径は3メートル越えが基本であった。しかし、枝を広く伸ばすので、上空は枝で埋まっていても、地上は幹で埋まっておらず、どちらかといえば広い空間に太い柱がぽつぽつ存在している感じである。上空がそんなことになっているのだから、地上に光が届くことはなく薄暗かった。遠くからみると地面が急斜面になっているのだろうと思うほど、奥の木が高いのである。


 雅紀たちのいい笑顔の裏にあったのは、長くても30分に一回は群れのとの戦闘があり、満足のいくまで戦うことができた、ということがある。なかなか進まないものの、そんなことを気にした風もなく、楽し気に進んでいる。倒したのは美味しい肉のイノシシや、角が生えていて超高速で飛んでくるウサギ、夜襲を受けたオオカミがいた。どの動物も奥に行くにつれて図体が大きくなり、数が小さくなっている。


 昨晩と同じオオカミを撃退し、休憩に入る。


「お、十二時超えてる。ここらで休憩挟もうか」


「イノシシは食べてもなかなか無くならないなあ。今日も一頭追加されたし」


「今は、悪くしないでとっておけますから、あのおいしいステーキが毎日食べられますから、大丈夫ですよ」


「けどここまで旨いと、他の魔石持ちの肉も試してみてえな」


「オオカミはさすがにおいしく焼ける気がしなかったよ」


 朝に挑戦したのか、オオカミの焼肉はとても硬かったらしい。魔法で冷たい水を出しながら、新しい旨いものに期待を膨らませる。材料がそこそこでも、静の腕なら十分においしいのを作れるが、そこで満足しないのが静クオリティー、いい材料からいい設備まで試せるものはすべて試すのである。


「けど、上からの敵襲がなさそうなのはありがたいな」


「枝が低くても、20メートルほどありますからね、降りてきたら登るのが一苦労です」


「空もまったく見えないしね」


「これはアメリカの国立公園並みの絶景があると信じてるぞ」


「既に、森に入ってすぐのところで写真撮りまくってたでしょ」


 静に苦笑いされるほど雅紀は、きれいな森の木々に興奮してスマホで360度写真も撮っていた。雅紀はさらなる絶景を求めて、山側に進みたがり、旨い山の幸を求めてほかの三人も山に行きたいようですんなり決まる。北側に進路を修正して再出発する。


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