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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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デュクスの騒動11


 暖炉の中はそれなりの広さがあり、大の大人が優に十人は乗れるような大型エレベーターサイズだった。その真っ暗な中を飛び降りて十メートル少しのフリーフォールを楽しみ、壁に指を突き刺して減速して地に足を付ける。


 そこは照明の魔道具がまばらに配置されただけでぼんやりと物が見えるだけで恐怖感がさらに煽られる。ぼんやりと見える空間だが壁は見えず、先から聞こえてきている声を考えるとかなりの広さであることが分かる。


 動かないことには何も進まないので歩き出す康太と朱莉だが、すぐに視界に何かが入る。入ってすぐのところは幅があったのだが、そこではその幅狭くなっており、そうなっている原因はこの並んでいる鉄格子である。今のところ通り過ぎた場所に閉じ込められている人はいないが、それなりの数が捕らわれているという雅紀からの情報があるので他にもあるのだろう。


 使われていない檻を見ながら進めば、また元の幅を取り戻すが、今度は先ほどから聞こえていた声がはっきりと聞こえるようになる。近づいてくる二人に気付いたようで、話し声が止んで光が向けられる。


 照らされて姿を見せる二人だが、同じように照らしている側の姿も康太たちに捉えられる。その数はやはり話している声の数よりも多いが、地下ということもあってそれなりの数しか入れていない。どいつもこいつもこの道何十年というような悪人面している。


 命を危険にさらしながら仕事してきただけあるようで、身のこなしから街中のチンピラとは違うことはわかる。見慣れない人間を、よりにもよってこの機密が押し込まれている地下空間で見つけたのだから、すぐさま排除するべくそれぞれの武器を手に取っている。


 康太と朱莉は姿を見せた状態で武器を前にしているというのに動きを見せない。裏の道で長いことやってきて敵を見つけるのが得意であったのに、向こうから姿を現して初めて気づいたということに警戒心が呼び起こされ、動いていないようで動いているのかもしれないと康太と朱莉を見ている。


 そんな状況を利用してさらに奥を見てみると見覚えのある人間を複数見つけたため、連れ去られたシーを探してみれば、他の人に渡されて今にも檻に入れられようとしていた。


 それを見てからの行動は速かった。


 力強く踏み込む康太を見て悪人面どもがそれに合わせて武器を振るうが、インパクトの瞬間では空振り、正面には康太、背中には朱莉が姿を見せる。慌てて追いかけようとするも康太が許すはずもなく、手っ取り早く無力化するために向けられた武器は砕き、投げ技と突きで骨を叩き折る。


 その間に朱莉はトップスピードで駆け抜け、狙いが見えたときには札を投げつける。地上でばらまいたのと同じそれは鳥へと変わり、シーを掴んでいる男へと突っ込んでいく。迫りくる敵に気が付いて壁と散弾を持って対処しようとしたようだが、ありったけの札を使った甲斐あって、そのうちの何匹が潜り抜けて掴んでいた腕に突き刺さる。


 突き刺さると同時に爆発して宙へと投げ出されたシーだが、同じように飛んできた鳥がその肩へと止まる。鳥が突っ込んでこなかった一人がそれを撃ち落とそうと投擲するも、そのときにはその場に居らず、虚しく地面に突き刺さる。


 突然姿を消したシーを探す男たちは、すぐにその姿を朱莉に横に見つける。汚れを叩いて落とし、濡れタオルで顔を拭いている。されているシーは離れようと必死にもがいているようだったが、朱莉は放すことはない。


 この状況で和むなど余裕を見せているとしか思えず、拉致した男たちは狙うが、走り出してすぐに顔面と体を同時に殴られて後ろに吹き飛ぶ。何が起きたのか見てみても、そこには誰もおらず、隣には同じように殴られたらしい仲間がいた。


 よくわからなかったが、近寄り方が悪かったのかと走る場所を変えてみるも、変わらず衝撃が加えられ、先ほどよりも過激になったそれを受けてさらに飛ばされる。もう一度、と飛ばされた三人が顔を上げてみると、真ん中の男の目の前には足が迫っていて躱す余裕もなく、丸めた体で受けるしかない。


 そこを攻撃しようとしていた二人は、それでも飛ばされたもう一人を見て何やら叫んで突っ込んでくるが、同時に向かってくる二人を宙へと躱し、背中にかかと落としと顔面に蹴りをお見舞いする。


 ここで骨を砕いておいたうちの何人かが復帰してくるが、康太が腕を振るうのに合わせて吹き飛んでいく。


 ここで深呼吸を入れるも、間髪入れずに飛んできたものの対応に移る。いやらしいことに、朱莉とシーを狙って投げられたそれを叩き落としていくが、落としたそれが突然火が吹く。突然のことだったが範囲は狭かったので特に問題とならなかったが、シーの傍に多数落ちると朱莉がカバーしきるのに忙しくなるので、宙で処理する。


 康太も朱莉も何の動きも見せないが、投げられたものすべてが途中でどこか遠くへと飛んでいく。ものが投げられてくる方向をじっと見つめると、重いモノ同士がぶつかったような音が鳴り、しばらくするとそこから四人の人間とそれに守られるような立ち位置にいる人間が現れる。


 そのうちの一人が見覚えがあるとは言いたくない人間であったことに康太は顔を顰めるが、ここにいるということは悪事に加担したということであり、躊躇いなく殴り飛ばしていい、と思えば気が楽になる。


「おや、そこにいるのは捕らわれの姫ではないですか。ああ、それとお前もいるのか、愚物」


 いつぞやの迷惑極まりない男、エミールの姿がそこにはあった。




 反応は即時であった。


捕らわれの姫と呼ばれた朱莉が全力で矢を放つ。天井も高く、道場と同じように動ける以上、魔力まで込めて放つ矢の威力は大抵のものならば貫通するだけの威力を誇る。しかし、エミールは何をするわけでもなく、隣にいる大男が引きずってきたものを掲げる。


 それだけだったが、朱莉の放つ矢はそれによって阻まれてしまう。引きずってきたそれは、檻だった。捕えてきた獣人を閉じ込めておくための檻。格子もそれなりの太さで床と天井に使われているのは十センチを超える金属の板。その重量は計り知れない。


 加えて、ただの鉄であれば朱莉の一撃が貫けないはずがない。つまりはこれだけの大きさの檻に鉄以上の金属か魔法的な補助を加えているのだろう。どちらにしてもそれだけのものを用意するとなれば、必要となる金額はとんでもないことになるのだろうが、そこは国内指折りの商人の町デュクスの有名商会ということだろうか。


 いい噂を聞かなかった商会であったが、裏ではここまでの悪行を働いていたことが上に伝われば、間違いなく潰されることになるはず。今日までそうはならなかったのは、今、目の前にいるエミールが一枚噛んでいるのだろう。


 普通の貴族を考えるならば、エミールの立場は顧客側なのだろうが…


「それで、どうしてここにいるんだ。貴族じゃなかったのか」


 康太の背中に朱莉、その背中にシーが来るように立ち位置を直す。シーも初めは離れようとしていたのだが、ここまで連れて来られてきてしまった以上はこのまま助けてくれたお姉さんに頼った方がいいと判断したのか、素直に守られている。


「私の商会に私がいるのはおかしなことでもないだろう」


「へえ、お前が銭ゲバのトップなのか」


 貴族が商売に手を出すのは破滅への第一歩というのは、この世界でも同じだと覆っていたのだが、この貴族は成功を収めていたらしい。驚きの真実だが、この際はどうでもいい。殴ろうと問題ないということに変わりはない。そして、シーを守るために倒すべきであることに変わりはない。


「相変わらず、癪に障る男だ。お前如きがこの私と話ができるだけ光栄に思え」


「お前の兄さんはこのこと知ってんのか、って、そんなわけないよな。あの人はこの街のためならお前であろうと親であろうと切り捨てるだろうからな」


「あの理想主義者はどうでもいい。このままいけば例え家を継げずとも、商会のトップになりさえできれば好きなように生きられるからな」


 家督が継げないことを仮定のように話しているが、まず間違いないことは傍からしてみれば明らかなのであるが。エミールは楽観主義者とでも言えばいいのだろうか、いつかは商会トップになれるというのも馬鹿馬鹿しい。今がうまくいっているのは、目新しい、その一点だけによっている。他の商人に真似されることはないと、他の商人をなめている時点で商人失格である。


 聞くだけ無駄な気がして、とりあえず身柄を拘束させてもらおうとするが、大男が邪魔するように檻を動かし、小柄な二人がナイフで斬りつけようとしてくる。そのナイフが怪しい輝きをしているので触れないように気を付け、ところどころで魔術で対応しながら質問を重ねる。聞かれたことに答えてくれる自信過剰男でよかったと思える。


「それで、どうして獣人を襲う。この奥にもいるんだろ」


「どうしてそれを知っているのか不思議だが、どうせ勘か何かだろう。偶然とはいえ正解したんだから答えてあげなくてはね。獣人だから、それだけだ」


「あいよ、お前もあのクソ宗教の一員ってことか」


 理解はできないが納得はする。このままフリーにしておけば被害者が増えるのは予想できるので、ここで叩いておきたい。そう思っていた二人だが、次の言葉ですべてを投げ捨てる。


「あの宗教とは一緒にしないで貰いたい。排斥なんてとんでもない。…あれは金になる」


 拳が迫る。


 人ではなく巨人。何処かに当たるのではなく、何処にでも当たる。


 エミールに迫るものとは別に特別製の檻をぐしゃぐしゃに潰したうえで吹き飛ばし、本人は毒を振りまいてくる二人の首を地面に埋め込む。地下ということで頑丈にしていたはずの床も天井にも削り取られた跡がくっきりと残っている。


 朱莉も手を前に掲げ、光り輝く剣を振り下ろして、部屋を照らすとともに壁まで裂け目を伸ばす。地下だというのに二人とも遠慮などせず全力で放ったものだから、地面を揺らすだけでなく、建物までも崩壊させる一歩手前まで行き着く。


 感情が怒り一色だった二人だが、怯えるように袖を掴まれてハッとする。助けに来たというのに、本人に拒絶されてしまってはどうしようもない。今の光景から何とか意識を逸らそうとあれこれして、最終的に朱莉の腕の中に収まる。小柄故にそれほど年が離れていないように見える。


 感じ取れた魔力からしてみれば受け切れるとは思えないほどの過剰な威力の一撃を加えたのだから、これで終わってくれればよかったのだが、残念なことに砕けた床の上を歩く音が聞こえてくる。


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