表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
88/100

デュクスの騒動10


「シェーダ商会」


 日も完全に沈んで月明かりも煙か雲のせいで遮られ、目の前に多くの人間が構えているのを感じながら、そうつぶやく。


 この街で生活している間によく耳にした名前だが、その内容はお世辞にも良いとは言えないものだった。値段が質に見合っていないが他では手に入らない、その意識の下で殿様商売でウハウハ。


 そんな商会を前に数という面で圧倒的不利な状況でありながら、怖気づくようなことはない。魔力を自身の周りに纏いつつも己のテリトリーを広げるように魔力をばらまく。それに気づいた敵もいるのだろうが、商会が用意していた人数が人数だけに誤差でしかない。


 そんな相手の懐の中へと理性を総動員して怒りを押し込めて入っていく。



 冒険者のほとんどが地竜討伐依頼に駆り出されているため、残っているものは専属契約を結んでいる冒険者というよりもボディガードとガラの悪い連中のみ。


 冒険者も依頼を受けているわけであり、その依頼は、商会への攻撃の対処、のように至って普通のことしか書かれていないのだろう。商会に入り込んでから道中に立ちふさがった冒険者は口をそろえて、「ここはシェーダ商会であり、無関係なものの侵入を禁ず」と正論を口にする。


 もちろん日常でそういわれたのならばそれに従うのだが、残念ながら現在は緊急時である。申し訳ないとは思いながら、出会った人間を冒険者従業員関係なしに意識を刈り取らせてもらうことにしている。



 雅紀が教会でようやく黒幕と相対していた頃。康太と朱莉は雅紀が読み取った情報に従って街中を抜け、シーが連れ去られたと思われる場所へとたどり着いた。それがシェーダ商会であった。


 その中を出会った人間を片っ端から横に倒して商会内を探し回る。雅紀の見た情報では地下にそれらしい空間がるようなので、下るための階段を探しているのだが、これがまたなかなか見つからない。


 魔力をこれでもかと言わんばかりにばら撒いているせいもあって道に立ちふさがる者がわんさかと出てくるが、ほとんど時間を取られないとは言えどもこの微妙な時でさえも惜しい。


 隠し階段があるかもしれないとありとあらゆるを部屋へと失礼し、品物が積み上げられてる倉庫、お偉いさんが集まっている会議室、本棚ぎっしりの資料室、従業員専用更衣室など様々なところを見て回る。ときに康太が朱莉の目を隠し、頻繁に朱莉が康太の目を潰し、刺激の強いものは見なかったことにして進む。


 一階だけあって物を置いておく部屋がほとんどであり、物陰までもしっかりと探すとなかなか骨が折れる。朱莉が気配を辿ってみても、下から妙な気配を感じるだけで細かいことはわからず、建材が特殊なのか壁や床を挟んでの感知の精度が落ちてしまう。


 時間をかけて探したものの、残念ながら下へと向かう階段が見つからずに一通りの部屋をまわってしまう。それだけの時間をかけたのだから集まってきた人もそれなりであり、廊下は野戦病院さながらに人が床を埋め尽くしている。商会に踏み込んですぐに会った冒険者たちがそろそろ目を覚ましそうなほど時間が経ってしまっていた。


「地下に行く階段は一階にあるもんだと踏んだんだが、ひねくれた野郎みたいだな」


「そうですね、そこまでして隠したいのでしょう。とにかく今は時間が惜しいので、二階に行きましょう」


「悪いことをしたとは思ってるんだが、また起きて来られると面倒だな」


「…それもそうですね、何とかします。…”ダグザの竪琴”」


 腕に抱えられるようにして現われたそれを、指で弾く。そのときに音と共に広がっていく何かを康太は感じる。気を強く持っていなければ持って行かれてしまいそうな感覚に襲われるも、朱莉の指が動いている短い間だったが耐えきる。周りに意識を向けてみれば、廊下で倒れていた人たちが深い眠りに落ちているのが分かる。


「こんなものでしょう。あまり馴染みのあるものではなかったので、想像力不足でしょうか、あまり効果がなかったようですね。あまり長くは持たないでしょうから先を急ぎましょう」


「おうよ。ところでこの建物は何階建てだろうな」


「高さと天井までを考えると、4階建てぐらいだと思いますが…、まさか?」


「こいつの捻くれ度がもしかしたら、な」


 可能性を提示されてしまうと、それを考慮せざるを得なくなるのが人の性。一階に階段がなかったという時点で、他のどの改装に階段があるのかは皆目見当もつかない。端にあると見せかけて、実はその間…と見せかけてやっぱり端っこ。そう考えてしまうとどうしようもない。


 どれだけ考えても答えが出ないのならば、後悔がないように動くのが一番。


 誰かが言っていたことが頭をよぎり、朱莉も康太も顔を見合わせてどうするかを決める。


 最上階へと向かう。そう決めて二人は階段を駆け上がっていく。そこにいない可能性、予想が外れたときのために、二階と三階を過ぎていくときに朱莉が何かを廊下へと投げ込む。投げ込んだそれを中心として魔力が渦巻き、集まった魔力が身体を構成して犬の形へと変わり、犬さながらの敏捷性を見せて散っていく。


「朱莉、手え出せ」


 二回分の魔術を行使した朱莉を気遣って康太が魔力を譲る。康太も魔術を使うが、難しいことはしないため燃費は非常に高く、魔力を持て余すことになりがちのため、数割を譲ったところで戦闘力に変わりはない。朱莉も独立したプログラムで動くように作っていたようで思考が割かれている様子はなく、ただ魔力を使い過ぎただけのようで康太からの補助で持ち直す。


 コアとなるものと形を成すだけの魔力を使い、簡単な命令をこなす使い魔。今回の命令は子供を見つけたら報告することとした階段を見つけたら突撃することである。体を成すだけの魔力はそれだけでもちょっとした爆弾レベルであり、同じサイズの魔物ならば容易く屠れる。


 少しばかりの予防線を張って階段を駆け上る。流石に階段を別の場所へと配置するような性格ではなかったようで階段探しに奔走することなく、朱莉の予想通りの最上階である四階まで上る。四階は最上階だけあって商会内でも高い地位の人の身が入れるようで、部屋数も少なくそのどれもが凝った装飾が施されている。


 そんな改装に似つかわない人たちがお出迎えしてくれる。


 階段から出てすぐに横から怪しい色をしたナイフで切りつけられる。その後ろからも飛びどおぐで身を固めた連中が構えており、横に逃げるのは許さないとばかりにボウガンが放たれている。


 飛び道具が弓だけでなかったことに驚きながらもそちらに向けていた意識はすぐに引き戻され、飛び上がって振り上げている腕をからめとって投げ飛ばす。投げ飛ばした先へと朱莉が睡眠効果付きの弓を撃ち込む。


 その間にも康太は後ろに構えていた連中と距離を詰め、身体目掛けて放たれた矢を手甲で弾いて脳震盪を狙うようなアッパーをお見舞いする。強い遠距離攻撃は銃以前では連射に難ありと言われているのが明らかである。


 廊下で待ち構えていた分はこれで終わりのようで、一旦静寂が訪れる。その中、何か重いものが動くような音、それも何か物凄く馴染みのある音がかすかに聞こえる。その音を探るように部屋の前まで行けば、その部屋はこの階層で唯一人の気配が感じられる。


 こそこそしていても他に入り口があるわけでもないので正面の扉を使うしかなく、扉を蹴破って入ってやろうと考えはするも、なかなか洒落た扉を気に入ったようで、破壊する方向はやめて堂々と扉を開けて入る。


 もちろん、商会に襲撃があったことは伝わっていたようで先制攻撃が加えられるも、康太がこれでもかという量の魔力を纏っているため、康太の服にすら届かずに地に落ちる。そのまま堂々と部屋に足を踏み入れ、近寄ってくるものは見えない何かに弾かれたように吹き飛ばし、部屋でどっしりと構えている男と相対する。


「よう、どうやら迷っちまったみたいでなあ。ここから下に行きたいんだが、どうしたらいい」


 ぶん殴りたい衝動に駆られるが、救出を最優先とするうちは情報を集める方が優先であるので、力を見せた上で交渉を始める。迷ったというのは誰が聞いても嘘だとわかるのだが、それでも表向きのことを話して本音を隠しておくことは重要である。今回は本音もバレバレなのだろうが。


「下に行きたいなら、まわれ後ろして廊下を右に行った突き当りだ。こんなところまで来るとは、とんだ方向音痴だな」


「もう疲れて歩くのだるくてな。この部屋から下に行きたいんだよ、教えてくれないか」


 嘘だとわかっていても笑っていた男だが、康太の言葉を聞いてからはだんだん低くなる。


「立ってるのも厳しくてよ。この部屋から人がいなくなったのはわかってるんだから、それを使わせてほしいんだが。…あの本棚か、それともあっちの暖炉か、はたまたあの絵画か」


 笑い声もなくなるが、康太は言葉を重ねる。感知で違和感を覚えた場所を挙げていけば、怒りを覚えたような顔になって表情が読みづらくなるが、静の”表情から相手のことを知ろうキャンペーン”を小学生の夏休みに経験させられた二人には反応が読み取れる。一際顔が引き攣った暖炉を覗き込む。これまた趣味が合いそうなのだが、失礼してその入り口を広げさせてもらう。


 広げてみれば、中にはぽっかりと竪穴が存在し、その高さはこの建物の高さを優に超えている。やっぱり捻くれてやがったと思い、この場を失礼させてもらおうとしたのだが、後ろの人が顔を真っ赤にして怒り心頭のようで、後に邪魔されそうなのでここで話を付けておくことにする。


 照明含むいろいろなものを巻き込みながら斧を叩きつけてくるが、魔力を纏って身体強化している康太は容易く止められる。空いた左腕でボディをお見舞いするが、嫌な音がして手を引けば破れた布から金属帷子が複数枚重ねられているのが見える。痛みはあったようだががら空きの身体への攻撃を受け切ったことで心を折ろうとしたのか、必死に笑みを浮かべている。


 康太はそれを向けられても何も感じることはないようで、受け止めている斧を押し返して暖炉に再び向かう。それに再び斧を叩きつけようといた男だが、康太を突然見失う。斧を振り下ろして消えた対象に戸惑っていると、先ほどと同じ場所に鋭い痛みを感じたと思えば背中にも感じる。


 しゃがみ込んで肘撃ちの態勢をしている康太が男の目に入り、何をされたのかを理解し、痛みを感じる腹部を見てみれば帷子が打ち破られて青黒くなった肌が覗いている。それを認識してから更なる痛みに襲われ、康太と朱莉が暖炉の中の穴へと飛び降りていくのを見送るしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ