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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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デュクスの騒動9


 パリーン


 暗殺者らしくたてられている音はないが、そんな効果音が似合いそうなガラスの割り方をして黒ずくめが入ってくる。雅紀はそれを見て、またか、と呆れる。同じように突入した先発組がいるのに帰ってこないことに疑問を抱かず、同じ奇襲方法を選ぶ思考回路が理解できないという顔をしている。


「何度も窓ガラス割んなよなあ、直すのだって楽じゃないんだから」


 そう呟きながら雅紀は割れた窓ガラスの方へと手をかざす。手をかざされた方も魔法を警戒してか、牽制として飛び道具を使うも雅紀に届くことはない。


 そのまま雅紀が追い払うように手を振ると、黒ずくめたちは赤に染まる。体のあちこちに穴が開いてそこから血がとめどなく流れ出している。そのような状態で動けるはずもなく、窓から入って来た勢いも失って地面に叩きつけられる、かと思えば、空中で何かに殴られたように方向を変えて壁へと叩きつけられ、そこに積み上げられていた山の一部と化す。


 特に動くこともせずに侵入者を排除し、見てみれば割られた窓ガラスも元のステンドグラスに戻っている。雅紀は、再び先ほど陣取っていた椅子に腰かける。


 何もしていないようだがそのようなわけもなく、すべてが雅紀によるものである。


 手を振れば、割られて周囲に散乱したガラスの破片が来た道を戻るようにして枠へと帰り、ステンドグラスに戻る。窓ガラスを割って入って来た奴らの前には、そのガラス片があったわけであり、戻ろうとしたガラス片は障害など関係ないように進み、間にあったものには穴を量産した。落ちてきた男たちには横向きの力がかけられただけであり、傍から見ていると、車のワイパーに寄せられる雨粒のようであった(決して重機で寄せられるごみではない)。


 元あった場所へと戻す魔術は位置情報を修正しているわけであり、他のものよりも優先される現象を利用した方法であり、使いようによってはなんにでも穴をあけられる。今回のように、窓ガラスを直し、かつ、同時に敵を排除するという目的にはぴったりだった。



 これほど暴れても何も言われないことからわかるように、教会にはほかに人がいない。


 この教会に入った時に襲ってきた連中を排除した後、教会内を探してみれば縛られた状態の神官が空き部屋に押し込められていた。孤児院にいるはずの子供たちを狙うにしても、邪魔になるだろう神官を生かしたままにしていることを不思議に思いながらも、生きていることにホッとした。


 そして、街の騒ぎの中で怪我人が出たと教会に走りこんできた衛兵がいたため、孤児院に残る一人を残して街へと出て行った。そして、孤児院に元からいた一人、こちらは間に合ったようで怪我一つなかった、にもう一人追加して孤児院の守りに入っている。守りというよりお守が正しい、行動はすべて雅紀が請け負っているのだから。



 そうして、誰の目もなくなった教会の中で次々に襲い掛かってくる暗殺者をコテンパンにしていた。一波ごとに情報を洗っていたのだが、大した情報もなく数だけが増えていき、冒頭の敵を最後にして待つにはそれなりの時間が経ち、さっさと重鎮が来てくれないもんか、とぼやき始めた頃。


 教会の扉が開かれる。


 しかし、雅紀は動かない。音が違った。暗殺者が正面から来る時に立てた音とは違い、また集団で来ているようで足音も隠していない。騒ぎから逃げてきたのか、と入り口に目を向ける。


 そこにいたのは、白い神官の服というこの場に最も似合う服装でありながら、最もこの場に似合わない服装を着込んだ男、とそれのお供たち。杖を床について高い音を立てながら中へと入ってくる。雅紀が一般人も入ってくるかもしれないと積み上げた山を隠しているので、それについてどうこうはなく、雅紀の前までやってくる。


 誰もいないのだから雅紀は話しかけられるのは当然なのだが、雅紀はそれに吐き気が抑えられない。この使節団が醸し出している雰囲気が気に食わない。自分以外のすべてを下に見て、自分を特別だと思っている人間の匂い。思う分にはご自由になのだが、それをあからさまに周りにまで流すのはやめてほしいというのが、雅紀の考えである。


「神官は街の方へ出払ってますよ。怪我でここを訪れたのならば、そちらへとお願いします」


 聖神教の使節団なので神官も同行していて、そのようなことがないのは承知の上で話しかける。話しかけたくはないが、場の主導権は握っておきたい。この二つに折り合いをつけるために、この場にふさわしい形式的な言葉を選ぶ。


「いえ、我々も街の騒ぎを聞きつけましてね。助けの一端にでもなれれば、と思ってこの場に参上したわけですよ」


「それは嬉しい申し出ですね。ですが、この場にこれほどの数は入りませんし、街の方が必要としていますからそちらの方へとまわっていただけると幸いです」


「そのようですね。…ところで、あなたはどうしてここに?見たところ、ここの神官ではないようですが、何をしているのですか?」


 見下しているのは明らかだが、それを隠すことなく笑顔で対応してくる男だが、答えづらいところを突かれる。街の方へと向かうといっていたのだが、動く気配はない。雅紀の答えを聞いてから考えるつもりのようだ。


「なに、ここの司祭様から頼まれたんですよ」


 もちろん嘘である。しかし、雅紀の笑顔はそれを悟らせない。


「司祭様と交流があるなんて、すごい人なんですね。その内容を聞いても?」


 すごい、と称賛を言っているようだが、まったく心がこもっていない。社交辞令よりも薄っぺらい。司祭様と敬称を用いてはいるが、そこには敬意の欠片もない。違う宗教というだけで下に見ているのは明らかだった。


「まさか。お願いの内容を教えるわけないじゃないですか。それよりも、私はここを動けないので街の方をお願いします」


 雅紀はさらなる笑みを浮かべ、教会から出て行くように急かす。その笑みは日常で見れば輝くものであるが、今この場では不気味に思える。


「それならば、私の部下が変わりましょうか?この場にいるだけならば、私の騎士でもできるでしょう」


「いえ、そういうわけにもいかないので。街の方で皆が待っていますので、どうぞ。…ところで、気づきません?」


 雅紀に問われるも、はて、という顔を宣教師はするが、一部の騎士が気付いたように口と鼻を覆う。


 思った通りの反応を見せてくれた使節団に、雅紀は隠蔽を解く。そして押し寄せる血の匂い。


 しかし、トップの宣教師の顔は変わらない。顰めるどころかむしろ何かに気が付いた顔をする。


 ここまであからさまなものを見せつけられてしまえば、躊躇うことも無くなる。


「ああ、思い出しました。街には回復魔法が使える衛兵がいるとかで、もしも、万が一、他の助けが来ることがあれば教会での対応をお願いされてましたね。いえ、本当にすみません、時間をとらせてしまって。さあ、中へどうぞ。後ろの騎士の方もどうぞ、中へ」


 そういう表情は変わっていないように見えるも何かを感じられるものがあったようだが、初めにしていたことを受け入れられ、教会の中へと使節団全員がおさまる。宣教師も突然の手のひら返しに驚いたようだが、要望通りに教会には入れたことに満足そうにしている。


 周りに血の池が出来ているというのに、それに言及する気配もない。トップが何も言わなければ後ろの騎士たちも動かないようで、鉄の臭いに顔を顰めながらも後ろで構えている。


「ところで宣教師さん、あなたたちはたしか勇者召喚成功の流布でいらっしゃったんでしたか。どうですか、上手くいってますか?」


「そうですね、若い人を始めとして勇者という存在に興味を持っていただけたみたいですね。その中には私たちの考えに賛同してもらえた人もいました」


「あなたたちの考えというと、ユーテリア様を崇め奉る、というものでしたか」


「ええ、そうです。我らが神がこの世界で最も尊い存在なのです。どうですか、あなたも正しき世界にお戻りになっては」


 血なまぐさい環境でするようには思えない話。自分を見守ってくれているという神様の話をするときだけ恍惚とした表情を浮かべる。


「それは、難しいですね。なにせ、今までこの世界の宗教とは関わりのない世界にいたものでして、そういった話は実感がないのですよ」


 地球という別世界にいたのだからこの世の宗教と関わりのがないことは当然のことであり、無神論者とはいっても普通と言われるような祖霊崇拝や神様への信仰はあったが(日本は他の国よりも宗教が入り混じっているせいであるが)、教会に入るたびに神様に呼び出されるようになって信仰心が崩れそうになっているということもある。


「それにですね、その、あなたの首から下げているもの」


「ほう、このネックレスに目を付けますか」


「ほい」


 お目が高い、とでも言いそうな得意そうな表情であったが、掛け声と共にそれが消え去り、慌てて視線を走らせれば雅紀が指にかけて振り回している。


「今すぐ返していただきましょうか。いえ、それだけではありません。今の行いは神への侮辱にも等しい行為、その罪を償ってもらわなくては」


 一人熱くなっていくのを前にマイペースな雅紀だが、殺せという指示が出ると厄介だと上空へと投げる


「なあ、どっちだと思う」


 落ちてきたネックレスを両手で隠すようにし、素早く手を動かして両手に握りこぶしを作る。両手を突き出して問う。


「どっちの手に入ってると思う」


「私から見て右ですね。そんな子供だましには引っ掛かりませんよ」


 ネックレスを取られて宣教師も何をやりたいのかわからないと言い、後ろの騎士たちも頷いている。


 それを見て、笑いを噛み殺しながら、雅紀が雅紀から見て右手を開く。


 その手のひらには先ほどのものと同じ聖神教のシンボルを模したネックレス。使節団全員が驚きを示す。それをしばらくそれを眺めたのち、雅紀が左手をさらに突き出す。


 今の間に何らかの魔法が使われたとすれば、この少年は手練れの魔法使いに違いない。


 騎士のほとんどがそう思ったようで、突き出された腕を警戒するように剣を抜いたり、盾を構えたり、宣教師の前に出る。もちろん雅紀に攻撃の意思があるわけもなく、ゆっくりと左手を開く。


 ゆっくりと開かれた手から、チャリチャリと音を立てて鎖が伸び、聖神教のネックレス。


 前もって両手に同じものを持っていただけかと安心して気を抜いた瞬間。それを狙ったように浴びせられた魔力に意識を持って行かれそうになる。


 ゆっくりと放物線を描いてネックレスが戻って来る。受け取ったのを確認し、雅紀がいつの間にか隣に突き立てられていた剣を引き抜く。


「こっちの右手のはな、そこに寝てるやつが持ってたやつだ」


 ようやく動けると体をほぐしながら剣を向け、雅紀の口が開く。


「さて、どうして孤児院を狙ってきた暗殺者と同じもんをあんたが持ってんのか説明してもらおうか……」


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