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非常識高校生の非勇者生活  作者: kiara
第一章 始まりの物語
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デュクスの騒動8


 暗くなった教会の中。


「あ~、鼻血止まらん。どうしたもんか」


 朱莉から冷めた目を向けられていることに、全力で気づかないふりをして通話を切り上げる雅紀が一人椅子に腰かけていた。鼻を抑えるように手が顔の下半分を覆ってはいるが意味を成していないようで、指の隙間からぽたぽたと垂れてきている。鼻から逆流する血液の味が口の中に広がり、久しぶりの味に何とも言えない。


 脳をフル回転させた影響なのだろうか、と久しぶりの鼻血の原因を考えつつも、鼻の血管を治す。手や顔についた血液も水分を飛ばし、撫でてやれば残りの成分も粉となって空気中に散っていく。漫画でよく見る鼻血を腕で拭うシーンは鼻血の量が多いと、また垂れてくることになって格好悪いな、などとどうでもいいことを考えながら教会の中を見渡す。


 床の上のいたるところに黒い服を身に纏った連中が倒れている。その数は雅紀が皆を見送った時よりも増えており、それはつまりその後で追加での襲撃があったということだろう。全員が両手両足を地面に縫い付けられた状態で放置されているが、誰も意識を取り戻している人はいない。


 これほどの数が襲ってくるとは思ってもいなかった。それほど獣人の子供を狙う理由があるのだろうか。


 考えようにも情報が少なく、朱莉が手に入れた証拠品から情報を読み取った限りではその子供たちが何かに捕らわれているようだったが、その時の布切れと目の前に寝ている者たちの纏っている布は微妙に違った。これも覗いてみたのだが、遡れて何処か暗い部屋で着こんでいたことと普通に売られているものだということしかわからなかった。


 判断のしようがないと肩をすくめるが、ここで朱莉の言葉が頭の中でまたも浮かんでくる。


”柔らかさでも思い出しましたか?”


 ここまでならばほぼないだろうが日常の話とも取れるが、修飾語として”静の”と付いてしまうと、それはもう言い訳ができない。浮かんだその言葉に釣られるように右手に視線が向かい、右手を開いたり閉じたりする。


 はっ、いかんいかん、と突然に頭を振り出す雅紀がいるが、同時にあれはそういうことではないと思う雅紀、鼻血が今出ていないから先ほどのは魔術の負荷だと主張する雅紀もいる。


 朱莉が指摘して雅紀が絶賛視線逸らし中のこと。


 それは四人が教会に入ってすぐの煙が辺りを覆った時の一幕である。



 突然視界が白くなってからまず初めにしたことが警戒だった。これは、スラム街で襲われた時の状況と酷似していたのだから当たり前のことであった。警戒はしたが、入ってすぐということで周りを囲まれることはなく、教会の外、つまり入り口の外は誰もいなかったことを確認しており、教会内だけを対応すればいいと、スラム街のときよりも楽であった。


 身の安全は最初に入った康太が守ってくれたので、すぐさま次の手として原因の排除に取り掛かる。光学的には白い光しか目に入ってこないが、こちらの世界に来てからは周りがどのような光景であろうと魔力を見ることができる。


 その視界で煙が不意に噴出した後ろを見てみれば、大きな魔力が二つあるものの、どちらもこの世界で誰よりも長く居た人のものなので目的のものではなく、凝らしてみてみればその膨大な魔力に混ざるようん別の魔力を見つけた。その大きさから魔石サイズだということはわかり、故にあの時の魔道具と同じだと確信した雅紀は壊そうと手を伸ばした。


 ここで雅紀はミスを犯した。このとき、雅紀は魔力の身を捉えて行動していた。気を読むこともせずに魔道具に向かって手を伸ばした、その先に何があるかも知らずに。


 手を伸ばしたことで指先に魔石と金属特有の冷たさを感じ、いける、と思ったのだが、それが突然横にずれ、その手は違うものを掴んでしまう。柔らかさと温かさを感じるそれに間違えたと思い、もう一度追おうと手を動かした。


 そのとき、「ひゃっ」という声が聞こえ、その聞き覚えのある声に雅紀の顔から血液が引いて真っ青になるが、後回しにして今度こそ目標の魔道具を掴み、魔石を跡形もなく分解する。そのときは温かさを手の両面で感じることになった。


 雅紀が魔石を消したことで魔道具が動くことはなくなり、煙が徐々に晴れていく。そして、その場に現れたのが、倒れた敵と構えている康太、気まずそうに顔を合わせないようにしている雅紀と朱莉、そしてしょうもないものを見たといわんばかりの明かりだった。


 雅紀は魔力しか見ていなかったが、朱莉にとっては目が開いていようが開いてなかろうが、視界がきくかきかずかに関わらず気を感じ取ることができる。そう、朱莉にはこの煙の中で起こっていた一部始終が分かっていたのである。故に、二人を見てため息を吐いていた。


 雅紀がしたこと、それは静の胸に手を突っ込んだことに他ならない。


 魔道具を掴もうとして手のひらで触り、次は魔道具を掴んだものの胸の谷間に手を突っ込んだのである。


 雅紀は探して破壊することに頭を占められていてその声を聴くまで何が起こっているか理解していなかったが、静は煙を吸い込んでしまって咳き込んでいたため原因の排除を考えるまでタイムラグがあり、そこに至る前に雅紀の手が胸に迫ってきた。突然触られたことに驚くが、その時点でその目的が理解し、それは雅紀の方が得意だからと任せることにした。


 結果、必要なことだったとはいえ、こういうことになって気まずい雰囲気を作り出すことになった。


 自分からは積極的に行く静だが、いざ、自分がされる側になるとどうしてか乙女に戻ってしまうのだった。



 こうしたことがあり、朱莉からしてみればいつものことなのだが、「急いでいるときによくもまあ、やってくれましたね?」と揶揄うネタにされることになった。まさか、鼻血がどうこうとなるとは思っていなかった。


 これを思い出しても鼻血が出てこないのだから、先ほど朱莉に言われて増えたのは魔術の負荷で血管が追加で破れた分だと自分に言い聞かせている雅紀だったが、近づいてくる存在を感じ取り意識を変える。すぐそばには康太と朱莉が見つけて処置した子供がまだ眠っている。孤児院の方に移してもいいが、どちらにいても危険は変わらないから、とその場に寝かせたままにする。


 どちらにいても守るのは変わらない。


 そう思い、教会内に入ってくる無粋ものたちに向かい合う。


 バタン! と大きな音を立てて扉が開けられたと思えば、ナイフを構えた黒ずくめが三人入ってくる。中に雅紀がいることを知っていたように、教会内で剣を構えていることに反応を示さずに殺す勢いで飛び掛かってくる。


 この暗殺者たちは数えるのも面倒になったほど繰り返し送り込まれてきたわけなのだが、一向に収まる気配もなく、戦力的には増してきているように雅紀には感じられる。今回の裏にいるのが出し惜しみするのか、情報のために捨て駒を厭わないのか、気にはなるがどちらにせよ襲ってきた者たちを帰すわけもない。


 先頭の男の肘を剣で叩いてよろけた横を通り、その後ろにいた奴を正面から叩き潰し、それに足を緩めた最後の奴を回し蹴りで壁際まで吹き飛ばす。


 腕を斬られた男がいるというのに血液が辺りには一滴たりとも落ちていない。男は斬られたところを抱えて痛みをこらえながら手が付いていることを確かめ、安心したような不安に駆られたような表情を行ったり来たりしている。


 トレント材で作った血と魔力を底なしに啜る魔剣。北欧神話のダーインスレイブのようにもフルンティングのようにも見える剣だが、雅紀の魔改造によって実際の能力は名前負けすることがないような凶悪なものと化した。


 材料としてのトレント材からの引き継いだ能力として、水分と魔力を際限なく吸収して成長する。ここでの成長は大きさとしてではなく密度としての成長であり、過剰な魔力はなぜか植物らしさを発揮して綺麗な実として柄に蓄えている。生き物を切り裂けば、その傷から血液を吸い出したうえで魔力までをもごっそりと吸収する。


 これだけでも魔獣相手では無類の強さを誇るのだが、雅紀の魔改造魂はそこで満足しない。魔力を吸うのは近づけば可能だが地を吸い出すのに傷をつけることが必要であり、ならばと切れ味を上げるために俗に言う単分子ブレードに仕上げるだけでなく、分子間力中和に加えて斥力発生をまとめて刃に書き込み、纏う魔力が少ないものは自壊し、纏うのが多くともいくつもの効果が重ねられることで恐ろしい切れ味が発揮されるように造り替えられた。


 ここまでならば剣という範疇なのだろうが、雅紀というよりも全員の共通する懸念として、人を斬れるかということが挙がった。もちろん全員に忌避感はあったが自分の命がかかっていれば躊躇いはしないのだが、何かをするにあたってどうしても立ちふさがる人がいるのはわかっている。社会的に解決できるのならばいいが、それだけではどうしようもない。


 命が狙われる状況にならないようにするのが一番だが、そうはいかない。結局、とりあえずは緊急時以外は無力化してしかるべきところに相談することになった。そのための方法として、静は強力スタンガン、朱莉は魔術で適した武具を召喚、康太は物理を選んだ。


 そして、雅紀は自分の魔術の特性に近しい方法として、強制的に魔力枯渇に陥れる方法を選択した。魔剣を使って魔力を吸収することでそれを成そうとしたが、相手の身体に届かせねばならず、防具で邪魔されると効率が悪く、時間がかかり過ぎた。


 防具の上から吸収する方法を考えたが思いつかなかったが、考え方を変えて実用レベルにまで上げた。それは剣を止められないようにするという馬鹿げた方法、剣の物質化をほどいて魔力にして剣の特性だけを現実に反映させることだった。魔力はエネルギーであり物質を透過でき、人が持つ魔力よりも大きい密度の魔力の剣であれば、相手の魔力を跳ねのけて振るうことができる。特殊なアイテムボックスを使っていたから思いつけた方法である。


 魔剣が実在しなくなるということは体ががら空きになりそうだが、そこはもう片方の手で対処するらしい。



 手を斬られたことで手の部分の魔力が薄くなって感覚がなくなって不安になっているのだろうが、斬られた直後は保てた意識も枯渇によって消え去り、ドスッと崩れ落ちる。のんびりとしてはいるが、正面からしか敵が来ないわけもなく上の窓を割って侵入してくる者たちがいた。正面は時間稼ぎが目的なのだろうが、それを為すことはできず上からの来訪者も雅紀の歓迎を受けることになる。


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